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第四章 問題解決リアリティーショー
第114話 お散歩と新たな使い魔
しおりを挟む4月の初週。
ここ数日は穏やかな天気が続いたが、今日は粉雪がふわりと山を覆っていた。
4月のどこかで、こういった季節外れの雪の降る日がある。いわゆる、終雪だ。それが過ぎると、ようやく蓼科にも春が訪れる。
そしてその時期になると、別荘オーナー達が早くも蓼科へと戻り始める。特にゴールデンウィークには観光客が増加するため、混雑する前にやって来て半年間の生活環境を整えるのだ。
冬にあった出来事や、新しく蓼科にオープンした施設の話題など。オーナー達は久しぶりの再会に喜び、また平穏な別荘ライフを送り始める。
エスティとロゼは、そんな雪の降る別荘地の道路を散歩していた。
とても静かな、雪の森だ。
「車、増えてきましたね」
「だな。滑らないように気を付けろ」
庵を出て獣道を進めば、道路に出る。その道路の曲がり角を4回曲がれば四角形に進むことになり、同じ場所に戻って来る。これがエスティ達のお散歩コースだ。距離はそう長くはないが、坂道のおかげでほどよい運動になっていた。
「手紙には何と書いてあったのだ?」
「ん、師匠の手紙の事ですか?」
「そうだ」
話しながら、2つ目の角を右に曲がった。
やや下り坂になっている細道だ。
カシエコルヌからの手紙の内容は、送った魔力の種についての進捗報告だった。それはいつもと変わらないが、今回は時空魔法について一言記されていた。
『おめぇの記憶、完全に消えてないか?』
「……昔、私が学生の頃です。中級魔法を使おうとした時、魔力が暴走して気を失ったそうです。師匠が身を挺して私を庇ってくれたらしいのですが」
「らしい、というのはまさか……」
「えぇ。その時の記憶はありません」
当時、脳に障害が残ったのではとカシエコルヌは疑っていた。そのため、以後あらゆる中級魔法を使わなくなった。
「……我は、単に忘れているだけかと」
「まぁ私もそんな感覚ですよ。別に中級魔法が使えなくても、空間魔法が使えるってだけで就職に有利でしたからね」
カシエコルヌはそんな過去を思い出し、心配して連絡してくれたのだ。空間魔法の上位に当たると思われる時空魔法でも同じように、脳に障害が残るのではと。
「酔って記憶を無くすのがいつもの事過ぎて、完全に慣れっこですけどね」
「まったくだ。バックスも大変だった」
「ふふ。まぁ、普通に転移門は開けていますから大丈夫でしょう。ダークエルフの秘薬で記憶を呼び起こす秘薬があるとかで、ルカンが今度手配してくれるそうです。1日巻き戻った日の記憶が戻るかどうか、期待せずに待ちますよ」
視界の先に、3つ目の角が見えてきた。
ここからが上り坂となる。
「エス、爆弾は完成したのか?」
「……残りは、魔力を込めるだけです。ルカンの地図に合わせて数を揃えるのが大変でした」
完成させてしまうと、何かの拍子で爆発しないかが心配なため、魔力を注ぐのはマチコデが強硬派の元へと潜入するタイミングに合わせる事になっている。それと同時にガラングが撤退の号令を発令し、最後まで街道の町に残っている人々が一斉に避難する。
そして、爆破だ。
これを現地で起動するのは、エスティではなく他の誰かになる。それでも、エスティの作った爆弾によって多くの生命を死に至らせる。その中には意思疎通の出来る統率者もいるだろう。
「……風が気持ちいいですね、ロゼ」
「そうだな。少し寒いが」
「ふふ、今度服を買いましょう」
嫌だ、というのがエスティの本音だった。それは爆弾を起動する事でもなく、大量に魔族を殺める事でもない。爆弾を完成させる事が嫌だった。
それは何よりも――。
「……どうした、エス?」
エスティは無意識に足を止めていた。
目の前には、白樺の木々が広がっている。
こんな世界があるとは。
「ロゼ」
「何だ?」
ロゼも足を止めて、エスティを見上げた。エスティは真っ直ぐ前を見つめ、悲しげに微笑んでいた。
「――ここは、美しい世界ですね」
「そうだな」
ずっとここに居たい。離れたくない。ここに居ると、ネクロマリアが危機的な状況にあるという事を忘れてしまう。この雪景色が、まるで夢の中の様に感じさせていた。
◆ ◆ ◆
「そういう訳で、使い魔が増えました。ご存知、シロミィちゃんです!」
「よろしくニャ~!」
「いや、あんたらね……」
エスティが散歩から帰宅してすぐだ。
ミアは呆れていた。
「あり得ないわ、2体目の使い魔よ?」
「いやぁ、魔力が多すぎて困りますね」
「ご主人様は天才だニャ~」
「ふ、シロミィも天才で美しい」
「ニャニャ~!? 照れるニャ~……!」
2体目の使い魔の契約というのは滅多に成立しない。1体目との魂の繋がりが途絶えてしまいがちだからだ。
だが、もう現実を忘れよう。
ミアの感想はその一言に尽きる。
「まぁいいわ。よろしくねシロミィちゃん」
「(チッ……先輩面か)よろしくニャ~!」
「……待て!! ちょーっと待て!!」
ミアはシロミィを凝視した。
そのエロ目は、本音を見抜いていた。
しかし、エスティとロゼは見抜けない。
「この白猫、猫被ってるわよ!!」
「ふふ。お上手ですね」
「ミアも素直ではないな」
「お上手ニャ~(この人の息くっさいな)」
息くさい、だと――?
ミアは真剣な顔で、ロゼに訴える。
「……ロゼ、よく聞きなさい。世の中にはね、色んなヤバいやつがいるの。残念ながら、シロミィちゃんもその類の可能性があるのよ」
「ふ、分かっている。何せ、我を恋の奴隷にしてしまったのだから」
「こいつ全然分かっちゃいねぇ!!」
ミアは悔しそうに天を仰いだ。
その様子を見て、エスティはなぜミアが騒いでいるかの理由に気が付いた。
「……そうですか、ミアだけになるんですね」
「どうした、エス?」
「いえ、うちで使い魔のいない人ですよ」
エスティにはロゼとシロミィ、ムラカにはヴェンがいる。
「流石に相棒が【誘惑のホムンクルス】では可哀想ですね……ミア、もしあれでしたら、シロミィちゃんを使い魔にしますか?」
「ご主人さま……? (やめて! 嫌だ、こいつだけは嫌だ! あばずれ!!)」
「よーしシロミィ、貴女は最高ね。私は女だからって容赦しないわよ……洗濯物と一緒に吊してやるわぁベフッ!!!」
ミアがシロミィを掴もうとした瞬間、エスティが空間からクッションを取り出し、間一髪のところでシロミを助けた。
「こ、殺されるかと思ったニャ」
「ちょっとミア、一体どうしたんですか?」
「我に嫉妬しているのだ」
「まったくもう……まぁ、こんな愛くるしい白猫は他にいませんからね」
「嬉しいニャ~」
「……」
駄目だ、こいつは駄目な雌猫だ。
だがミアは冷静になり、ふと思った。
もしかして、この面白い構図を見れるのは自分一人だけではないか。皆が騙されたまま上塗りの幸せを味わう姿を、自分だけが見れるのでは。そう考えると、ロゼが恋愛弱者になった気がして不憫に思えた。
ロゼの背中にポンと手を置く。
「……頑張りなさいね、あんた」
「何だ、急に」
「ミアは優しいニャ~(超くさいけどな)」
「くそ猫があああああぁ!!」
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