時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな

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第四章 問題解決リアリティーショー

第113話 使えそうな種を探す実験②・【快楽製造こたつ】

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「このクルーカルはトルロス行き決定で」
「異議なシ」

 全員で食したが、ボソボソとしていて苦みが強く、驚く程にマズかった。ネクロマリアで食べていた時の甘さなどは、どこにも感じない。


「餓死寸前でこれを目の前に出されても、一瞬だけ冷静になっちゃうレベルよネ」
「口の中の水分を全部持って行かれたよ」
「我は不幸を食べている気分だ」
「皆さん、表現が豊かですねぇ」

 味もしかりだが、当初の目的である魔力も全く宿っていなかった。これでは意味が無い。クルーカルは失敗と、エスティは頭の中にメモをする。


 続いて、エスティは別の小袋を取り出した。

「気を取り直して、次の実験に移りましょう」
「あぁ? 早くマジックをみせなさいヨ!」
「ミア、マイナス10ポイント」
「減点もあるんだ」


 その小袋から取り出したのは、小砂利のような黒い種。

「鹿の糞? っぽいね。ムカゴ?」
「いえ、これはネクロマリアのお花です。別名『死の花』と呼ばれています」
「昔、エスが採取していたな。ゴニック草だ」
「流石ロゼ、正解です。ロゼに10ポイント」


 ゴニック草の生える場所は、自然豊かな場所ではない。荒野や丘の上など風が強い場所の、栄養の無い地面に多く生育している。

 『ゴニック草が生える場所は死んだ土地の証』という認識と、枯れる直前にしか花が咲かない事から、死の花という異名が付けられた。


「懐かしいな。あの頃はソロだったか」
「えぇ。ゴニック草の花はこの世界のヒマワリのように沢山の種子を作り、風で転がって生息域を広げるのです。もちろん、魔族のいない場所にも生えます」
「そしてその種は魔力を保有する、か」
「素晴らしい、ロゼに30ポイント!」
「この猫、博識すぎるワ」

 その魔力量はごく僅かだ。だが魔力をずっと保有し続けるという種の特性から、魔法使いに一定の需要があった。凄くマズいが、いっぱい食べると魔力を回復してくれるのだ。

 エスティはその種を一つだけ収納する。


「さて……先程までは根菜でしたが、師匠の資料によれば、こういった異質な植物の方が反応が良いとの事でした。そこで今回はやり方を変えます」

 蓼科の魔力を集め始める。

「まず、ゴニック草に含まれているネクロマリアの魔力を蓼科の魔力に変えます。出来ました。更に先程と同じように、成長に必要な素材を入れます。出来ました」
「……何がなにやら、さっぱり分からぬ」
「結果を知らされるだけネ」
「時間を進めます……うわっ……キモい」


 途端に、エスティの顔が歪む。

 それを見た2人と1匹は理解した。
 失敗だ。


「……ほらミアさん、お口を開けなきゃ」
「日向さん、言うようになったわネ?」
「いえ、キモいのは生え方だけです」

 そう言って、エスティは空間からゴニック草の種をザーッと取り出し、両手で受けた。本来の種よりもかなり小さく、数も多い。

 その一粒一粒に、収まりきらない程の大量の魔力が込められていた。むしろ、魔力がエスティの両手からトロトロと垂れだしていて不気味だ。


 エスティがそれを笑顔でミアに差し出した。

「お誕生日おめでとうございます、ミア!」
「どう見てもヤバいやつじゃなイ」
「……んん!? ミアさん誕生日!?」
「あ、はいィ……」

 急に日向の声のトーンが上がる。


 ネクロマリアの日数の数え方では、今日がミアの産まれた日にあたる。エスティはムラカから祝ってやってくれと連絡を受けていた。

「そっかぁ! ミアさんお誕生日おめでとう!! 事前に知っていたらケーキを買って来てたのに!」
「いいのいいの。ありがとう、ハハッ……」


 日向は純粋で、とても優しい。

 しかしミアには、日向からのおめでとうの言葉が針のように突き刺さった。祝ってくれるのは嬉しいのに、その喜びが悲しみと同居している。

 また歳を重ねてしまった。
 ここ1年間の婚活失敗の思い出が、走馬灯のように蘇り始める。


「空が綺麗……エスティも綺麗……」
「急に老け込みましたね」
「触るなエス。30にもなるとゴフォッ!」
「29よ」

 ミアはぷらーんと項垂れるロゼを持ち上げ、再び悲しげに空を見上げた。


「……まさか29歳まで処女とは。我ながら意味不明な人生を送ってる気がするワ」
「18歳なのでよくわかりませんね」
「私も17歳だしなぁ」
「…………あれ!? 日向、もしかして誕生日は終わっちゃったんですか!?」
「あはは……自分から言うのもなーと」
「駄目ですよ日向!! あぁ、一体いつ――」

 エスティは悔しがり、日向にプレゼントとケーキの提案を始めた。日向は遠慮しながらも、嬉しそうに笑っている。


 その光景は、29歳には眩しすぎた。

 これが本来の若さか。
 危ない、忘れかけていた。


 悲しみを背負ったミアの足元に、空から鳥の糞がペチャッと落下した。

「鳥からのプレゼントだな」
「……血の涙が流れる所存ね」
「まぁ落ち着け。我からもプレゼントだ」
「えっ!?」

 ロゼはミアに小さな封筒を渡した。
 ミアが中身を取り出す。


「肩たたき券……」
「お前が気の毒でな」
「……ありがとうロゼ、何だかほっこりしたわ」
「私からも、ミアにプレゼントがあります」
「えっ!?」


◆ ◆ ◆


 リビングに戻ると、いつもの炬燵の横にもう一つ小さめの炬燵が置かれていた。天板は無垢材で、炬燵布団も肌触りが良く、高級そうな刺繍が施されている。


「ミア専用の高級炬燵の魔道具です」
「まぁ! エスティありが……魔道具?」
「えぇ。その名も【快楽製造こたつ】」
「……」

 エスティは天板を外し、炬燵布団をめくった。すると、複雑な魔法陣が現れた。

「この炬燵布団には解毒魔法が付与されています」

 更に今度は、炬燵布団を一部裏返した。そこにも別の魔法陣が刻まれている。

「そして、こっちの敷布団には麻痺毒の魔法陣が書かれています。つまり、炬燵に入ると敷布団からは麻痺毒を受け、炬燵布団から解毒魔法を受ける……毒の苦しみと、解毒され続ける快楽を永遠に得る事が出来るのですよ!」
「……エスの発明の中でも、そこそこの酷さだ」
「誰が特すんのよこレ」

 ミアは文句を言いながらも【快楽製造こたつ】に入った。


「お、布団の質は良いわね。まぁあ゛あ゛ぁ゛!? ……あぁあ~! あ゛あ゛ぁ゛?」

 麻痺毒が始まり、解毒も始まった。ミアはビクビクッと苦しみながら、じわぁ~と回復を受けている。


 この魔道具の動力は、炬燵に入った人物から自動的に吸い取る仕組みだ。ミアの魔力が空になるギリギリまで起動し続けるようになっている。

 リビングに流れるジャズのコーラスのように、苦しみと喜びの声が響く。


「やば、最高だわこあ゛あ゛ぁ゛!」
「……ミアさんには申し訳ないけど、見てると自分の将来について考えちゃうね」
「まさか誕生日に麻痺毒で喘ぎ続けるとは、人生分からないものですね。お誕生日おめでとうございます、ミア・ノリス29歳独身」
「エス、悲しげに言うな」


◆ ◆ ◆


 オリヴィエント、バックスの部屋。

 街道沿いの国民の誘導は中盤に差し掛かった。そんな中、マチコデはルカン達の待つダークエルフの里に向かうべく、一時帰還して準備を整えていた。


 今回の街道の大移動。
 実際に移動したのは大した距離ではない。
 エスティの爆弾の被害が及ばない程度だ。

 それでも、魔族には何かしら情報が伝わってはいるだろう。怪しまれることは間違いない。事が動くのは、そう遠い未来ではないはずだ。

 百戦錬磨のマチコデでも、この状況に緊張していた。一度は仲間だったエルフのリヨンにも出会うだろう。もちろん、敵として。


「そんな緊迫した状況ですが、殿下。エスティから新しい魔道具か届きました」
「……この流れ、久しぶりだなバックス」
「何か色々ありましたもんね」

 バックスは相変わらずマイペースだ。エスティとは全然似ていないと本人は言い張るが、マチコデから見ると2人は本物の兄妹のように性格が似ていた。


「読み上げてくれ」
「『この【快楽製造こたつ】は、私の最高傑作です。忙しい毎日を過ごすあなたの疲れを忘れ去る事が可能でしょう。何も考えずに入ってみて下さい。詐欺ではありません』」
「詐欺だな」
「えぇ、間違いないでしょう」

 目の前に置かれた【快楽製造こたつ】からは、ほんのりと魔力を感じる程度だ。今までとんでもない魔力の魔道具を送ってきたエスティからすると、逆に怪しい。


「『PS:良かれと思って作りました。兄弟子、いつもお疲れ様です』私ですか」
「ぐっ……! っふっふっふ……!」
「アメリアが既に笑いを堪えているが」
「ははは……これも仕事ですよ」

 バックスは苦笑いをしながら、炬燵の中に入って行った。


「あ゛あ゛ぁ゛あ゛゛ぁ゛あぁあー!!!」
「あーーっはっはっは!! 最高!!!」
「アメリア……」
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