時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな

文字の大きさ
上 下
112 / 138
第四章 問題解決リアリティーショー

第112話 使えそうな種を探す実験

しおりを挟む

 3月31日、晴れ。

 ネクロマリアの滅びまで、約80日以内。
 庵の崩壊まで、残り64日。

 騒々しい会議が終わって、2週間が経過した。


「ふぅ……」

 エスティは背もたれに寄りかかった。
 座りっぱなしで肩が凝る。

 4者から届いた定時連絡について、エスティは頭の中で整理する。


 あの後、ガラングはすぐに動き出した。

 街道沿いの住人たちは魔族に気付かれないよう、少しずつ移動を始めた。ミラールの移動の余波を利用して西へ西へと向かっている。急な号令に混乱を伴うかと思いきや、ミラールの人々が経験を活かして誘導に当たっているらしい。

 マチコデはその先頭に立って、人々を鼓舞している。もう少しで解放出来るだろうと、ガラングからの手紙には記されていた。


 バックスはというと、カシエコルヌをオリヴィエントに招待して師弟で研究を始めていた。その成果物が、エスティの目の前に山積みとなっている。未だに手を付けられていない。

(資料はありがたいのですが……)

 目に入る度に、気が重くなる。
 まるでカシエコルヌからの宿題だ。


 そしてルカンからの手紙には、ついに強硬派の幹部の集団を確認したと書かれていた。ムラカと共に潜入準備に入っているそうだ。ルカンの嬉しそうな顔が目に浮かぶ。危機感の無さは不安だが、あれでも魔法使いとしては優秀らしい。

 マチコデと合流後に討伐へと向かう計画らしいが……倒せるのだろうか。


 ハルシウルはトルロスにて野営の準備を続けている。特に食糧が乏しく、エスティに非常食の注文が入っていた。今回も笠島家の協力を得て、物資の補給を行っている。


 そんな中、エスティ達はいつも通りの日常を過ごしていた。


◆ ◆ ◆


 エスティは工房の窓を開いた。
 広場から、森の香りが吹き込んでくる。

 この空気を吸うのが気分転換だ。

(……暖かくなりましたね)

 蓼科もよりいっそう暖かくなり、春の訪れを感じさせる。今朝の天気予報でも、山間部にようやく春が訪れたと言っていた。道路の雪が減った影響か、車も少しずつ増えている。


「さて……」

 エスティは椅子に戻り、魔法陣と睨み合う。


 研究を進めるうちに気が付いた事があった。ラクリマスの魔方陣の作りが、この世界のプログラム技術とかなり似通っている。


 繰り返しに条件式、関数やライブラリらしきものまで、比較するとそっくりだ。ラクリマスが独自に作り上げた文字が、魔法陣型にプログラミングされて並んでいるかのように思えた。

 ミアの目ですら見抜けないこの魔法。ラクリマスも自分と同じように、異世界で学んで作ったのかもしれない。造船技術だってそうだ。そう考えると妙に納得がいく。


 分析を記録したノートも束になってきた。あとは、これを解読して魔力を植える方法を見つけるのみ。

 エスティは本腰を入れて調べていた。


 それなのに……。


「――おぉエスティ。我らがぐうたら同盟のエスティよ。私達の人生には、心置きなく楽しめるための余暇が足りないと思わない?」

「……………………そうですね」


 翻訳にやる気を出したはずのミアが、毎日工房に顔を出して邪魔をする。


「心底嫌そうな返事ね。そもそも、皆本当はやりたい事が沢山あるのに、仕事や家庭で忙しいのっておかしいわ。まともに働いていない私達だってこんな状況なのよ?」
「私は働いてますけどね!!」

 ミアがやれやれと呆れる。

「だって、考えてもみなさいよ。ここはあらゆるコンテンツがネットを通して見る事が出来る世界なの。それを見た素人は『あぁ私もやりたい』と挑戦して、更にコンテンツが溢れてくるの。そんなのユーザーからすると見きれないじゃない?」

 こんな調子でミアは突然部屋にやって来て、延々と喋り始めるのだ。

「……つまり、遊び足りないんですか?」
「そうなの! 私も寿命を無限にして働かずに遊びたいわ。きっと世の中の人達も皆そう思ってるはずよ。贅沢なんていいから、飽きるまで遊ばせろってね!」


 エスティは真顔で考える。

 きっと、こういう人がクレーマーになるタイプだ。顔に文句としか書いていない。更に、噛みついたスッポンのようなしつこさと、ゴキブリ並みの生命力を持ち合わせている。繁殖力が無くて本当に良かった。

「私はそんな世の中を変えたいのよ……SNSと掲示板への書き込みだけでね」

 自分もこうなる可能性がある。
 これは反面教師だ。参考になる。


「世も末ですね」
「そう。この末期的な世界を救うのは、健康で文化的な最低限度の生活だけよ」
「……ミアのそういう知識には脱帽しますよ」
「お、あんたもよく知ってるじゃない。流石は5次元の女神ね!」

 日本の法律の有名な一文だ。


 しかし、そろそろミアに付き合ってばかりはいられない。こうして駄弁っている間にも、時間は刻々と過ぎ去っていく。

 ロゼに子守を頼もうかとも考えたが、ロゼはロゼで届いたばかりの魔石を整理してくれている。猫の方が真面目に働くとは……。


「エス、あまり余裕は無いぞ」
「分かってます、やる気はあるんですよ」

 エスティが机に向かおうとした瞬間、ミアが全体重をかけてしがみついてきた。


「うごっ! や、やめろお!!」
「止めなさいエスティ、貴女はこちら側の人間よ! 仕事なんて忘れて、好きなように遊んで暮らせばいいのよ!!」
「聖女の言葉とは思えませんね!!」
「一人にしないでええぇ!!」


 そんな時、電話が鳴った。

 エスティは慌てて受話器を取りに行く。

「もしもし!」
「エスティちゃん、今から遊ばない?」
「遊びましょう!!」
「おいエス……」


◆ ◆ ◆


 エスティは広場のテーブルの前に立った。
 椅子にはミア、日向、ロゼが座っている。

 エスティはテーブルに小袋を並べ、両手を広げて大げさに空を仰いだ。


「ようこそ、エスティのマジックショーへ」
「あんタ本物の魔法使いじゃなイノ」
「ミアさん日本語のツッコミ上手になってる」


 エスティはミアを無視し、小袋を手に取る。カシエコルヌから送られてきたネクロマリアの種子だ。エスティが袋に指を入れて一つまみすると、赤く小さな種が現れる。

「ほう、クルーカルの種か」
「正解です。ロゼに10ポイント」
「あ、私クルーカル大好きヨ」

 クルーカルはオリヴァ芋と同じく、ネクロマリアで一般的に食べられている細長い根菜だ。水の少ない過酷な環境でも育つ、畑の代表的な作物である。


「さて、ネクロマリア大陸は基本的に曇天です。それなのに、ほとんど雨が降りません。蓼科の野菜を育てるには、環境的に厳しすぎるんですね」

 エスティは広場の隅に置いてあった肥料に近づき、自身の空間へと収納する。

「ですが、どうにかして蓼科の魔力を植え付ける種子を作りたい。しかも時間も足りない。そこで私は気付いたんですよ。私の空間って、時間を進める事が出来るという事に!」
「エスティちゃんの中で育てるの?」
「正解です。日向に20ポイント」
「やった、1位だ」


 エスティは空間の中に、蓼科の土と水、空気、クルーカルの種を収納した。

 そして、周囲の魔力を集め始めた。

 日向とロゼは何も感じないが、ミアは突然の事態に背筋がぞわりと凍り付く。ミラールのフロンストン迷宮跡を滅ぼした【地中貫通爆弾の陣】と同じ規模の、とんでもない魔力量だ。


「ああああああんたちょっと!!?」
「おいミア、どうしたのだ?」
「尋常じゃない魔力よ!!」
「これぐらいは必要なんですよ……ぐへへ」

 そして、フッっと魔力の流れが止まる。


「(あ、これまずいですね……)」
「はいエスティ、今何か言ったかしら?」
「……次に空間の中で焼き芋にします。はい、出来ました。取り出します」

 そしてエスティの空間からニュッと出てきたのは、クルーカルの先端部分。
 しかし、その大きさは……。

「これ軽トラぐらいあるよ!?」
「……それではポイント最下位のミア。目を瞑って、大きく口を開けて下さい」
「殺す気よこの女神!!」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...