上 下
111 / 138
第四章 問題解決リアリティーショー

第111話 歓談のリビング

しおりを挟む


 時刻は18時過ぎ。

 何となく疲れたエスティは、会議を終了してリビングに戻って来た。


 シロミィが大きな欠伸をした。ロゼはそのシロミィの顔にスリスリと体を寄せ、ミアに愛を見せつける。


「ムラカ、トイレのあれは何なんだ!?」
「さっき説明しただろう! ウォシュレットだ!」
「いや、尻から魔力を注入するかと思ってよ」

 ルカンは嫌がるムラカとイチャつき、ミアに甘いやり取りを見せつける。


「――この世の地獄ね。恋愛リアリティーショーはバッドエンドで終わったわ」
「始まってもいませんでしたけどね」
「これからは悲しみのデスゲームが始まるの。プレイヤーはもちろん、敗者である私一人よ……」
「自殺じゃないですか」

 ミアは炬燵に突っ伏した。

 エスティはリビングを見渡す。


 狭いリビングの中にはミア、ムラカ、ルカン、ロゼ、シロミィがいる。自分だけの地味なスローライフかと思いきや、この家にも随分と人が集まるようになった。

 ここにきて数ヶ月。月日が経つのは早い。
 ミアが結婚で焦るわけだ。

 ハルシウルとバックスは、工房で何やら話し込んでいるようだ。研究者と技術者で話が合うのかもしれない。懐中電灯を分解し始めた所で、エスティに声がかかった。


「妹弟子、この仕組みが分かるかい?」
「分かりますけど……ミア?」
「ミア・ノリスは死んだわ。今日が命日よ」
「……兄弟子。男の子が産まれたら、ミアと結婚させてやってください」
「ははっ、悪いけど絶対に嫌グォッ!」

 ミアの一撃でバックスは膝を突いた。
 こぼれ落ちた懐中電灯を、エスティが拾う。

「ミア、仕組みを翻訳した本はあります?」
「あるけど、途中だし完全に私の口語訳よ?」
「構いません。2人に説明してあげてください。まぁ、2人とも既婚者ですけどね」
「一言余計よ!!」


 ミアを工房へと送り出し、エスティは再びリビングの炬燵に戻る。ひと段落したかと思えば、慌ただしいせいでいまいち落ち着かない。

 いつの間にか、ムラカとルカンも言い合いを辞めて炬燵に潜り込んでいた。仲睦まじいというか、ルカンが一方的にムラカに詰め寄っている。ムラカは出来の悪い弟のように思っていそうだ。


「帰りたくねぇ。仕事だりぃ……」
「ルカン、今は何をしてるんです?」
「生意気な統率者を宥めてるぜ。毎日ノルマを達成しねぇと給料を減らされんだ」
「うわぁ……ダーク企業ですね」

 ミアがしきりに訴えていた学習性無力感という言葉が脳裏によぎる。


「自分の巻いた種だ。まぁ仕方ねぇ」
「種といえば、エスティ。お前の言っていた『ネクロマリアの魔力を回復する事』の目算はついているのか?」

 ムラカが問いかけた。

「いやぁ、実は全然なんですよ」
「駄目じゃねぇか」

 《魔女の庵》と《改築魔図》の解析が、思うように進まないのだ。構造が複雑すぎて、エスティは同じ場所でループし続けていた。その息抜きに作っている爆弾の量も増えていた。


「お前は本当に爆弾しか作らないな」
「その爆弾とやらも狂ってるぜ。大陸を半分縦断する程の大洞窟をドカンだろ?」
「特殊なんですよ。この蓼科のおかげです」
「……あぁ、魔力か。なるほどな」

 そう言って、ルカンは右手で魔力を集め始めた。

 器用にハートマーク形の光を作り出し、ロゼとシロミィに向かって放つ。煙のようにフワフワとハートが移動すると、ロゼの尻尾が当たってポワッと弾けた。

「お前なら、ネクロマリアを滅ぼせるぜ」
「出来るかもしれませんね」

 エスティも真似をして、光の螺旋を手のひらに作り出した。それは少しずつ猫のように形を変えた。光の猫は後ろ足で空中を蹴り出し、壁の中へと消えて行った。

「見ただけでそれかよ……大したもんだ」
「多分ミアも出来ますよ、慣れです」
「ルカン、そろそろ帰るぞ。ヴェンが待ってる」

 ムラカが立ち上がった。


「エスティ、あとは定時連絡で頼む。何かあったら【時空のビーコン】を使う」
「了解です。式には呼んで下さいね」
「冗談はよしてくれ……」
「おいムラカ、何の話モゴッ!?」
「ではまたな」

 ムラカはルカンを抱えて、転移門の部屋へと去って行った。
 バタンとドアが閉まる。


(ネクロマリアを滅ぼせる、ですか……)

 ポケットから魔道具を取り出す。

(これも、運命なんでしょうね)

 この魔道具は完成させたくなかった。魔族と人族は意思疎通が出来る。強硬派だって話せば分かるかもしれない。そんな希望を消したくなかったが、もう後には引けない。


 どうしたものかと炬燵でボケーッと考えていると、どこからか『スタンガンで刺すのよ』という危ない言葉が耳に入ってきた。

 振り向くと、ミアがスタンガンを片手に、身振り手振りで説明していた。


「――そこで、電気の危険性を伝えるため、ついでにUアルティメットTタックBボールを流行らせなければならないのよ!!」
「聞かなければいけませんか、それ……」

 バックスが興味なさげに尋ねた。

「聞きなさい。これはボールを運んでゴールに入れるスポーツよ。ただし、体格差による有利不利をなくすために、全てのプレーヤーがスタンガンを所持してるの。それを用いた妨害プレーが許されているクリーンなスポーツって訳ね」
「それ、スタンガンいります?」
「バックス、話を聞いてなかったの? 私とバックスが戦ったら、どう考えても私の方が体格差で不利じゃないの」
「いえ、どう考えても怪力あばばば!!」

 隣で聞いていたハルシウルは、突然の電撃に身構えた。そして、電気というものを初めて目にして感動した。魔力の流れを全く感じない。


「……やりましょう、アルティメット!」
「ハルシウルさん……これ冗談よ……!」
「何やってんですか、もう」

 エスティはスタンガンでやられたバックスを起こした。

「大丈夫ですか、兄弟子?」
「ありがとう。凄いねこれは。武器かい?」
「武器ですが、護身用ですね。力のない者が身を守るために隠し持つんですよ」
「いやはや、これが文明の差という事か……よっこいせ」

 バックスは起き上がり、服を叩いた。


「……さて、妹弟子。僕は帰らせてもらおうかな。オリヴィエントでも、師匠が出来なかった実験を進めておくよ」
「面白そうな種が出来たら送りますね」
「了解だよ。それではミア様、エスティを頼みます。ロゼでは甘いので」
「お、聞き捨てなりませんね?」
「任せといて。教育してやるわ」

 バックスは手を振り、リビングから去って行った。


「それではエスティ様、私も戻って野営地の設営を始めます。ガラング様の行動力を考えると、明日にでも勝手に号令を出されそうですので」
「そうですね。助かります、ハルシウルさん」
「いえいえ。次回こちらに来る際は一報いたしますよ……あ、そうだ。種の実験はトルロスで行うと良いでしょう。どこよりも気候が優れていますからね。それではまた」

 ハルシウルはそう言い残して、トルロスへ帰還した。

「……強かですねぇ」
「欲望が前面に出てるわよね」
「ミアがそれを言いますか」

 そして、庵のリビングが急に静かになる。


 中央に生えたままの白樺の木では、ロゼとシロミィが器用に寄り添って眠っていた。ゆったりとしたジャズの流れる、いつもと同じリビングの風景だ。違うのは、大きな宿題が増えた事だけ。

「さぁて、私も翻訳マシンになろうかしら」
「お、珍しくやる気ですね?」

 ミアは関節をポキポキと鳴らし、気合を入れた。

「私は、権力に弱い女よ」
「ご両親にも弱いですよね」
「その話はやめて……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ
ファンタジー
地球末期。パーソナルデータとなって仮想空間で暮らす人類を管理するAI、システム・イリスは、21世紀の女子高生アイドル『月宮アリス』及びニューヨークの営業ウーマン『イリス・マクギリス』としての前世の記憶を持っていた。地球が滅びた後、彼女は『虹の女神』に異世界転生へと誘われる。 エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに豪商ラゼル家の一人娘として生まれたアイリスは虹の女神『スゥエ』のお気に入りで『先祖還り』と呼ばれる前世の記憶持ち。優しい父母、叔父エステリオ・アウル、妖精たちに守られている。 三歳の『魔力診』で保有魔力が規格外に大きいと判明。魔導師協会の長『漆黒の魔法使いカルナック』や『深緑のコマラパ』老師に見込まれる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...