時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな

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第四章 問題解決リアリティーショー

第106話 トルロスの女神と猫と鋼メンタル聖女②【恋愛人間♡発電機】

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「ある日、被験者ミアは言いました。『私、電気って心の強さだと思うの。恋すると体に電撃が走るじゃない。電気はそういう方向性にして、ハルシウルを騙していくつもりなの♡』。それでは、実験してみましょうか」


 エスティが突然何をする気なのか。
 ロゼは理解した。

「……我はエスが怖い」
「まず、昏睡状態のミアを用意します」

 エスティは朦朧としているミアに、先程取り出したコードの伸びた魔道具を張り付けた。そのコードの先には電球が取り付けられている。


「この【恋愛人間♡発電機】は、張り付けられた対象が興奮すると光る……かもしれない魔道具です。続いて、ミアをこちらの箱の中に閉じ込めます……よいしょ」

 エスティはそう言って、透明な箱を取り出した。中にルームランナーが設置してあるアクリルボックスだ。


「エス、お前いつの間にこんな物を……」

 エスティはミアの手をルームランナーに括り付け、ボテッと置く。ミアの体がマリオネットのようにぐったりとなった。

 更にボックスの外側、ちょうどミアの目の前にあたる位置には、ヒデキの薄い本を設置した。アクリルの中から透けて見える形だ。


「最後に、脳内が恋愛一色になるダークエルフのヤバめの秘薬を準備します」
「お待ち下さい、エスティ様。魔族であるダークエルフの秘薬の使用は危険かと」
「大丈夫ですよ、既に被験者で実験済みです」
「……」
「エスお前、えぐすぎる」

 エスティはうへへと笑っている。
 もう完全に実験を楽しみ始めていた。


「おい、これ走るのか?」
「ぐへへ……適当に作った魔道具なので分かりません。興奮すりゃいいんですよ。念のためスタンガンも準備しました……さぁミア、ヒデキが目の前で待ってますよ!! いけえええぇ秘薬投与グェッ!!」

 投与する前に、ミアの手がエスティを掴んだ。


「お馬鹿ねエスティ。あんた、私は聖属性魔法使いなのよ? 何度も同じ手に引っ掛かるアホでは無いわ!!」

 ミアはエスティから秘薬を没収した。

「いい気味よ、あーっはっは!!」


 ハルシウルはロゼに振り向く。

「すみませんが、何がしたいので?」
「…………説明する。ミア、エスを回復してくれ。これでは話が進まぬ」
「……けっ! 仕方ないわね、貸しよ」


 エスティが光に包まれ、ムクリと起き上がる。
 ハルシウルは魔法を見て舌打ちをした。

「魔法がそんなに嫌か」
「嫌ですね、この世から消し去りたい」
「げふっ……死ぬかと思いました……」
「エス、本題だ。遊ぶな」
「む?」


 エスティはぱっぱと体を振り払った。

「私の目的を一言で説明しますと、魔法を使わない技術を供与する代わりに、私達に協力して欲しいのです」


 エスティは空間から懐中電灯を取り出し、それを点灯した。会議室の壁が丸い光に照らされる。

 ハルシウルは壁の光を見て唖然としていた。
 魔力を全く感じない。


「これは……驚きました」
「魔力の代わりに光らせているのが電気です。魔法と同じように、電気を光に変換しているわけですね。そしてその電気を生み出すのにはエネルギーを使います。ミアは、それが恋だと感じているわけです」
「全然違うがな」

 ロゼの冷静な否定にハルシウルは振り向いた。


「ロゼ様、では電気とは何でしょう?」
「気になるのか?」
「……」
「では、動画をお見せしましょう」


 そう言って、エスティは自分のタブレットを取り出した。再生を押してハルシウルに手渡す。映し出されたのは、エスティが撮影した庵の映像だ。

 テレビに冷蔵庫、コンロに掃除機。
 あまりにも非現実的な光景に、ハルシウルは理解が追い付かなかった。


 ハルシウルはエスティを見た。

「――これが、トルロスの未来の姿ですか?」
「いいえ。私は未来を見れる訳ではありませんよ。それは映像を映し出す技術で撮影された、蓼科にある私の家の様子です。そこの機械は魔力ではなく電気で動いています。今お持ちのタブレットもそうですよ」
「電気とは……」
「私の要望は簡単です。魔族と人族が協力するよう、誘導して欲しいのです」


 ハルシウルは考える。

 いちいちそんな事をせずとも、女神の力さえあればどうにでもなるはず。巨大な爆弾や、特殊な魔道具の話は嫌というほど聞いた。一人で駆逐できるのではと、本土では話題になっていた。

(しかし……)

 このトルロスは、一流の造船技術と漁業のノウハウを持っている。ラクリマスを始祖として、長い歴史の中で培ってきた大切な産業だ。

 逆に言えば、トルロスにはそれしかない。

 資源も土地も無く、食べ物や燃料はネクロマリア本土からの輸入に頼りっきり。それ故に、今回のような事態ではガラングの言いなりにならざるを得なくなる。


 歴史を繰り返したくない。
 正直、魔族とかどうでもいい。
 美しい自然のまま朽ちるつもりであった。


「――魔法を使わず、必要なのはエネルギーだけです。類稀な技術を持つトルロスにぴったりです。ハルシウルさん、興味が沸きませんか?」

 この誘いを断ったら、同じ話をガラングに持ち掛ける気だろう。これはガラングのやり方と同じで、選択肢のない選択だ。最初からトルロスの命運は決まっていた。

 女神には、自分に都合のいい未来を手元にたぐり寄せる力がある。まるで、追い風しか吹かない海を進む帆船のようだ。

 そう考えて、ハルシウルは笑ってしまった。


「私に協力して下さい」


 新たなラクリマスが目の前にいた。
 先人達は、こうして船を学んだのだろう。そんなトルロスの血が流れている。

 らしくない気分に、心が踊った。


「喜んで」


 エスティはパァッと笑顔になった。

「で、では次の動画は、ミアがさっきのヤバい秘薬を飲んで部屋で一人いたしてる所を盗撮したグェッ!!」
「よぉし、覚えとけエスティ」


◆ ◆ ◆


 その日の夜のリビング。


「ねぇ、これからこっちに集まるんでしょ?」
「そうですね」

 エスティは深くは考えていなかった。

 たとえハルシウルが協力してもしなくても、やるべき事は同じ。むしろ、ハルシウルは最後まで関係の無いまま終わる可能性だってある。だが、未来を見せたいと思った。魔法に頼らずとも、こんな便利な未来があるのだと。

 目標を分かり易い形で提示したかったのだ。


「……にしても、明後日ですか」

 明後日、ガラングとマチコデとバックスがやって来る。それに合わせて、ハルシウルもやって来る。嫌そうにトルロスに設置させてくれた【時空のビーコン】で。


「冷静に考えると、面倒臭いですね」
「あれ? そうすると、もしかして私もネクロマリアに駆り出されるわけ?」
「あー。討伐に行けってなりますね」
「面倒くさ……プゥ~」
「うわ、炬燵でおならしないで下さいよ!」
「てへ」


 エスティは炬燵から抜け出し、立ち上がる。
 そして周りを見渡した。

 このリビングは、3人ぐらいで過ごすのに丁度いい。それ相応の広さでしかなく、複数人が顔を突き合わせて会議するような場所では無い。


「会議室いりますよね。改築しますか」
「それより、日向にシュマブラ借りなよ」
「本気ですか」
「洗礼の儀とか言えばいいのよ。郷土料理も用意してやらなきゃね……ぐへへ」

 そう言ってミアはハバネロを取り出した。
 自在農園のおばちゃんに貰ったものだ。

「これを目に入れないと死ぬって言うわ。ガラング様の両目に突っ込むの。私、爆笑する自信があるわ」
「殺す気ですか、まったく……名案ですね」


◆ ◆ ◆


「――エスティめ、狂ってやがる」

 カシエコルヌは、研究室でエスティから貰った魔道具を調べていた。


 驚くべき事に、エスティは自分にしか分からない文字を生み出していたのだ。

 更にその文字は、一つ一つが複数の意味を持つように作られていた。それによって、たった数文字の組み合わせで意味がいくつも重なり、すぐに訳の分からない状況に陥る。それなのに魔法が発動するということは、意味が通っているのだ。

 恐らく、エスティは複雑に積み上げて一つの魔法を作るのではない。そうしたいと思う魔法を、自分で作った文字でスラスラと書いているだけなのだ。


 カシエコルヌは溜息を吐き、天井を見上げた。

 エスティの話の中で特に気になったのは、時間の巻き戻りについてだ。

 本人は記憶が無いまま行使した魔法だと言っていたが、そんなもの想像すらできない。相当な魔力を扱うはずだし、酔った状態でこの文字を頭の中に羅列し、願った時間まで戻すなど、どれほどの正確性が求められるのか。

 いや……実は酔ってなどおらず、のではないか。

 そんな事を考え始めた所で、冷静になる。


「駄目だ、読めた。分かんねぇ」

 背もたれに寄りかかり、本棚を見た。
 本の手前には、エスティが初めて作成した魔道具が飾ってある。


 カシエコルヌが初めてエスティを見た時、魔族かと思った。

 ラクスどころか他国でも見かけないブルーグレーの髪に、その美貌。そして天才的な発想を持っているにもかかわらず、子供じみた行動。何よりも、教えてもいないのに魔法を扱う不気味さ。

 預けられた時から恐怖を覚えていた。酒の量が増えたのもあの頃だ。平静を装っていたあの頃の自分を褒めてやりたい。


「――カシエコルヌ先生、課題が出来ました」
「おぉ、入れ」
「……なんか火薬の臭いがしません?」
「気のせいだろ、課題を見せろ」


 だが、そんなエスティが頼って来た。
 こんな教師に向いていない自分でも、何かしてやりたいと思ってしまったのだ。


「……はっ、ざまぁねぇわ」
「せ、先生。どこか間違えてましたか!?」
「いやな……ちょっと付き合えや。火薬を使った魔道具を教えてやる」
「先生、やっぱり!!」

 カシエコルヌはエスティの魔道具を取り出し、嬉しそうに説明を始めた。

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