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第三章 運命のカウントダウン
第87話 聖女の5次元空想科学
しおりを挟むエスティが日向と共にトルロスへと向かった日の、お昼過ぎのリビング。
「……なぁミア。今のそのカウンターは、どのボタンで繰り出してるんだ?」
「このキャラクターにしか出来ない技よ」
ミアとムラカは、炬燵に入ってカチャカチャとテレビゲームをしていた。
今プレイしているのは、日向から借りたシュマブラ。ミアがずっとやりたかったゲームだ。多少強引なこじつけだったが、無事に遊ぶ事が出来てミアはご機嫌だった。
「ムラカ。私達の実力に世界の命運がかかっているのよ。エスティ達が戻る前に、せめてレベル9のCPUを倒せるようにならなきゃ」
「無理だろ、強すぎるぞレベル9」
「そこはアイテムで小狡く……あああああ!! それ私のハート! なんで取るのよ!?」
「私の所に降って来たんだから、私のだ」
「チームでしょ!!」
こんな様子で、かれこれ3時間。
未だにレベル6も倒せていない。
「わああああぁ、また負けたああぁ!」
「あーもう、全っ然勝てないな」
ムラカがコントローラーを投げ、そのままぱたんと倒れた。ミアは炬燵机にとんと顎を乗せ、ポテチを摘まんで口に運ぶ。そのままパリパリと食べて飲み込んだ。
「はぁ~……」
「行儀が悪いぞ、ミア」
「――ねぇムラカ、画面の中にいるこの緑色のトカゲは、私達の事を認識しているのかしらね?」
「急に何を言い出すんだ」
ミアはポテチをもう一枚掴み、目を細めて横からじーっと見た。
「難しい話をしてもいい?」
「良くはないが、一応聞こう」
「……1次元が線で、1次元をある一方向へ伸ばすと2次元である面が生まれるの。このシュマブラは2次元の世界ね。それで、2次元である面を伸ばすと3次元の立体になる。私達のこの世界に近付くわ」
ムラカは目を丸くした。
たまにある、ミアの理解不能な話題だ。
「何だ、人生相談か?」
「時空魔法の事よ。参考にならないかと、この世界の物理学を調べてみたの。それで話を続けるけど、この3次元の立体を伸ばしたのが4次元。この4次元というのが私達の世界ね。ここには『変化』が加わってるらしいの」
「変化?」
実のところ、ミアが見た資料には、変化ではなく『時間』と記載されていた。
だが、ミアは時間では無いと考えていた。時間とは、太陽からの角度を分かりやすく数字で表しただけで、本当に起きているのは物体の変化なのだと。
「時間って一方向に流れている訳ではなくて、その実態は物事が常に形を変えているだけ。過去も未来も無い、あるのは常に『今』だけなの」
「難しいな……」
「それで話を戻すけど、私達の世界である4次元を伸ばしてみると、今度は5次元になる訳じゃない。私達の世界が伸びるって、どういう事か分かる?」
ムラカは仰向けのまま、頭を捻った。
「……前にロゼが見ていた、ネコえもんのポケットとか引き出しか?」
「あれも一つの考え方よね。物理の多次元の解釈って色々あって、まだ完璧に確立されてる訳じゃないみたいだし」
ムラカは再びうーんと考え始めた。
正直、ミアが何を言っているのか分からない。頭が切れるため本人は理解しているのかもしれないが、自分は感覚でしか物事を理解できない。
自分達の世界がある一方向に伸びるという事。自分がぐーっと引き伸ばされる訳でも、テレビやパソコンがみょーんと伸びる訳でも無い。
「……物事が残像になるとか?」
「お、私の予想に近づいた。まぁつまり、ある次元にいる者は、その一つ上の次元を認識できないの。数式上で表す事は出来ても、感覚で理解する事は困難なのよ」
「それで、お前の予想は何なんだ?」
ミアも、ぱたんと仰向けに寝転んだ。
「そもそも次元を伸ばすというのは、積分の思考に近いの。同じ次元を連続して足す事で、結果的に繋がってるように見える。線が面になるのはそういう事ね。だから、5次元というのは4次元が、言い換えれば私達の歴史がずーっと連続しているの」
「歴史が連続? ちょっと待て。この歴史がいくつもあるという事か?」
ムラカは起き上がり、ミアを見た。
「んー……似たような世界がいくつもあるという、いわゆるパラレルワールド的な解釈とは少し違うの。あれって完全に別世界でしょ? 私の予想では、全てが『今』ここにある」
「……もうさっぱり理解が追い付かない。つまり、5次元とは何だ?」
ミアは天井を眺めた。
シーリングライトがくるくると回っている。リビングに生えたままの白樺の木には、シロミィが眠そうに欠伸をしている姿があった。
「『可能性の重なり』」
「はぁ?」
「たった今、シロミィちゃんが欠伸をするかしないか。私達がレベル6のCPUを倒せるか倒せないか。そういったあらゆる可能性が、無限に重なっているの。ムラカ、これを見て」
ミアは起き上がり、ポテチを2枚摘まむ。
そして、それを重ねた。
「こんな風に、一つの場所に対して無限に可能性が重なっているの」
「……ミアが今3枚ポテチを重ねる可能性の世界もあったって事か。よく分からんが、それと時空魔法がどう繋がってくるんだ?」
「時空魔法はね、多分こういう事なのよ」
ミアは、箸でポテチに穴を開ける始めた。
2枚を貫くように、ぐりぐりと。
「……あ、割れちゃった。時空魔法って、時間と空間を超えているじゃない。この可能性の重なりを貫いて、ネクロマリアから蓼科にやって来た。転移門という魔法に形を変えてね。そう考えるとさ……」
ミアはムラカの顔を見た。
「エスティだけ、5次元にいる気がしない?」
◆ ◆ ◆
「いやぁ、日向は次元が違いますね」
庵に戻ったエスティ達は、ひとっ風呂浴びた後、シュマブラに参戦した。
日向はシュマブラが強かった。
もう10戦以上は戦ったが、ムラカとミアが束になっても勝てていない。
「日向、マウント、どんな気持チ!!?」
「ひ、ひええぇ……!」
「みっともないですよミア!」
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