M.A.T 対魔法筋肉特殊奇襲部隊

海王星型惑星

文字の大きさ
上 下
9 / 16
1章 特殊筋肉奇襲部隊

「来訪者達(※allマッチョ)」

しおりを挟む
グルカさんに連れられて無機質な地下通路を進むと、やがてスライド式の鉄製の扉が現れた。
部活動とかで使う体育館の扉みたいだ。


「どういうわけだか知らないんだけどさ、なんっか時々君達の世界からやってくる人がいるんだよね」

随分呑気な雰囲気で言いながら扉をガラガラと開ける。




だんだん中が見えてきた。


照明が多いのだろう、急に眩しくなって俺は少し目を細めた。


まだ視界が光に包まれる中、耳から聞こえてきたのは
ガシャッガシャッという金属製品を動かす音、
ドッドッドッドッ…というリズミカルな打突音ビート
それらにフッ吹くような呼吸ブレス音、時々上がる怒号のような「掛け声コール」……


光に包まれたシルエット達が色を帯びできた。

……


これは……



ジムだ。


あとマッチョだ。


俺たちがこんな目に遭う前によく通ってたジムの、そのまんまの景色が広がっている。


……?!

「ルームランナーがある?!」

壁に沿っていくつか明らかにルームランナーの様相を呈した器具が配置されている。
電気なんて通ってるのか?!


無意識に声になってたようだ。グルカさんがふふ、と笑う。

「君らが以前の世界で使ってた物を再現したんだ。動力は…これも魔法だね」


「……」

確かによく見ると、地面代わりのマット部分が自動で動いている……ていうか、乗ってる人のペースが異常に速い。ほぼ短距離走だ。

そういうアスリートか?


見渡すとどこもかしくも筋肉マッスル______身長や骨格、そして発達している部位など、個々人に差はあれど、磨き抜かれた肉体ボディを持つ者達が筋肉祭りマッチョフェスタを開催していた。


傍から見れば十二分に異様な光景だ。しかし謎だらけのこの場所に来て初めて、俺は「見慣れた光景」を目にした。


これを「俺達の世界」から来た人間が作ったのか?


一人のマッチョがグルカさんに気付いたようだ。
上裸のままでこっちへ駆け寄ってくる。


「お疲れ様です。グルカさん」

男は身長170半ば、フレームの細い長方形のカクカクした眼鏡をしている。
やや赤茶を帯びた髪が眉毛まで伸びている、普通の社会人としては標準だがこういったトレーニーの中では比較的長めの髪型に分類される髪型……

いかにも理知的な男、といった感じだ。

体躯スタイルは典型的な逆三角形ではなかった。しかし頭の先から爪先まで全身の要素が洗練されていて、まったくの無駄を削ぎ落とした、というような合理的で美しい筋肉をまとっている。
まさに理想の細マッチョだ。


「サカキくん、急にごめんね。新しい仲間だよ」

「賢木だ。よろしく頼む」

サカキさんと握手を交わしつつ俺たちも名前を告げる。


「グルカさんにどこまで聞いた?」
挨拶も早々にサカキさんは要件を聞いてくる。

「えっと...ここが日本でないことくらい...ですかね...」

「なるほど、何も知らされてないと」

...結構ざっくり言ってくるな...あってるけど。


「体調に異常はないか」

「え?」

「殴られただろ」

あ、さっきの唐突な腹パンのことか…
思い出したように殴られた箇所がズキズキと痛んできた。

「重症では...ないと思います…たぶん」

「俺は大丈夫っす」

内田は俺よりは平気そうだ。筋肉量の違いだろうか?
ボディビル大会のことを思い出してしまった。ここでも差を感じるとは…

「俺の場合は一週間アザが消えなかった」

昔を思い出し懐かしむような、うっすらとグルカさんを非難するかのようなつぶやきだった。

「や、それはさ、しょうがないじゃん、その頃は私もまだ若かったしさ、…あとサカキくん強かったし」

グルカさんはその雰囲気を感じ取ったようだ。取り繕うように矢継ぎ早に言い訳したが、劣勢が変わらないとわかると、
「じゃ、サカキくん残りよろしく、」
俺たちの方を向いて、
「やっぱ同じ境遇の人から聞いた方がわかりやすいと思うからさ、サカキ君になんでも聞いてね!」

それだけ言い残してグルカさんはそそくさと部屋の隅にある二つの扉のうちの鉄製の方を開いて消えた。


急に取り残された俺たちのなかにしばし沈黙が流れる...
サカキさんは…呆れたのか、ジト~…っとした目で扉を見つめていたが、やがてこちらに向き直った。

「...なにも聞いてないとなると俺たちがここで何をしてるかもよく分からないよな」

確かに...そういえばどうしてこの人たちはここで筋トレを...?

「この世界に来た理由はわからん。しかしここに来た理由は...戦うためだ」

戦う?

「何と...ですか?」

「侵略してくる隣国とだ。この国は常に劣勢に立たされている。主な原因は国力___すなわち魔法技術の差だ」

魔法…そりゃそうか。魔法が存在する世界だ。戦争でも使われるにきまってる。

「サカキさんは...もしかして魔法とか使えるんですか?」

随分と間抜けな質問に思えないこともないが...

「いいや、『俺らの世界』から来た人間は魔法を使えない」

そりゃあそうか。でも...

「どうやって戦うんですか?」

俺の問いに対して、サカキさんは自身の右手を挙げ、こぶしを軽くタップした。

「こいつだ」


「...対魔法特殊奇襲部隊、それがこの集団の名前だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...