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本編
いち
しおりを挟む気絶なら安静にしていればじきに意識が戻るだろうと、布団を引っ張り出して男性を寝かせる。
怪しい。
完全に怪しい。
たぶんこの人は元鯖なのだろうけど、いきなり部屋に飛び込んできてそのまま。
目が覚めたらお帰りいただこうと、またPC前に座って作業を再開する。
「うーん、ちょっと違うな。注文だと、もう少し緑っぽく……」
詰まってしまい、気分転換に紅茶を淹れる。
それなりの値段がしたティーバッグを湯に潜らすと、柑橘系のよい香りがした。
「う……」
再び画面に目をやっていると、後ろで呻き声がした。
目が覚めたのかな、と枕元へいくと、予想通り、男性がうっすらと目をあけていた。
しかし体調は優れないらしく、ぼうっとしていて怠そうだ。
額に手を当てるとずいぶん熱く、熱があることがわかる。
(冷却シートどこにあったっけ……)
机上をごそごそいじって探す。普段から微熱で貼ることがあるので、そこら辺に放ってあるわけだ。
布団で寝かせるにあたり、鯖のくせになぜか着ていたスーツのジャケットや靴なんかを脱がさせてもらったのだが、何をどうすればああなるのか傷だらけで、そしてなぜか、傷口からは黒い墨のような血が流れていた。
近所の猫にでも襲われたんだろうか。
人の世話なんて一度もしたことのないくせに、なんで警察とか救急車とか呼ばなかったんだろうと、後になって思う。
まあなんでそうなったかきかれても困るし、鯖だしなあ。
すうすうと寝息をたてている男性の顔を見つめる。
だいぶ熱はひいてきたのかその表情は心なしか安らかで、まだ目は覚めないものの快復に向かっていそうだということはわかった。
アイドルとまではいかないがなかなか整った顔立ちをしていて、窓から差し込む夕日が美しく陰影を落としている。
明るいうちに帰れるのか、そもそも、鯖だから帰る場所はないのか。
というか鯖ということにしているか、真の姿は鯖なのか人なのか。
カチカチすすむ時計の秒針が、ぐるりと二、三周する。
結論。スマホを開く。
検索ワードは「サバ なに食べる」
今日の夕食は鯖の味噌煮にしようと思っていたのだが、イカさしか焼きイワシに変えようかな、と冷蔵庫の前で腕を組む。
ちなみに、左隣の部屋に住む家族の食卓には今夜、〆サバが並んだそうだ。
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