上 下
118 / 132
第3章 精霊王

魔道竜(第3章、13)

しおりを挟む


「これか?   というより、これは樹なのか?」

セルティガは不思議そうに首をかしげる。

「そ。これが精霊樹。私も実物を見たのははじめてよ」


木を隠すなら森の中。

けれどこれが特別なであることは誰の目にもわかる。

精霊樹とは、精霊の宿り木である。

特徴的なのが白紫色の葉。つまりは、葉のひとつひとつが水晶でできているのだ。

夜露で濡れた淡い紫の葉が昇りはじめた太陽光をうけ燦然と煌めきをはなつ。

「ほぅ、キレイなものだ。ひとさしの小枝だけでも売ったら金になりそうだな」

「セルティガ、あなた、最近そればっかね。もしやお金に困っているの?」

「いゃ。そういうわけじゃないがーーーー」

「まぁ、事情は人それぞれ。勘ぐる気もないわ。でもセルティガ。あの小枝ひとつ折っただけで世界が終わるのよ」

するとぎょとした顔つきになる。

「それはどういう意味だ?」

「神話では、ある者がその枝をうっかり折ってしまったそうよ。すると大地震がおきて大地は泥の海になってしまったとか」

「泥の海、か。想像もできんが」

「諸説あるけど、精霊樹の根は地層の核にまでおよんでいるからだとも。ま、密接に大地と結びついている樹ということだけは間違いないわ」

「なるほどな」

しきりに神妙にうなづく。

「で、これからどうすればいいんだ?」

コボル諸島という名称が出たときからティアヌの脳裏にはこの精霊樹が真っ先に浮かんだほどだ。

木の精霊グリビアンが宿るのはこの木以外ほかに考えられない。

「下がっていて」

セルティガを後方に下がらせ、ティアヌは精霊樹へと歩き出す。

懐から取り出し、黒布を掲げる。

「木の精霊、大地と人の絆を紡ぐ精霊よ、我の御前に姿を現したまえ」

すると風が応えた。


サァァァーーと疾風が吹き荒れる。


さわさわと葉ずれを鳴らし梢を打つ。しゃらしゃらと風鈴のように心地よい音色を奏でる。

「!?」


さぁ、いよいよグリビアン、御大のお出ましだ。

【時を紡ぐ人の子よ。汝、吾の力を欲するか?】

「はい」

葉ずれのような囁きだった。

もしかしたらセルティガの耳には届かないほどの。

【ならば吾の力を与えよう】

「ぇ?」

ここは陸地であるにもかかわらず突如目の前に現れたのは大ハマグリ。

口をあけ、泡を吐く。

「!?」

シャボン玉のように泡だった気泡はポコポコと音をたて、やがて、七色に輝く繊細なガラス細工のようなオーブが風に身をゆだね、ふわり、ふわりと次々に舞い上がっていく。

夢のように美しい光景に目を奪われていると、その泡のむこうに蜃気楼のように泡で形つくられた神殿が。

これが魔道書で有名な『夢幻神殿』のようだ。

その神殿の前には祭壇らしきものが。

「これね」

ここであってここにはない夢幻の神殿へと歩みをすすめる。

たった一歩すすめただけでも見える景色が変わる。奥に滝のようなものを確認できた。

飛翔する片翼の精霊。番をみつけると、片翼の伴侶の力を得て、本来の力を発揮し、大地の地層深く、根っこに新たな命を芽吹かせるという。

精霊界は謎だらけだ。

【よく来た。これより調印をおこなう】
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木
ファンタジー
みなさまごきげんうるわしゅう。わたくし、ローゼンシュヴァリエ王国、インヴィディア公爵家次女、エルヴェラール=フィオン=インヴィディア7歳ですわ。 さっそうよくある話で恐縮ではございますが、わたくし、前世の記憶を少しだけ思い出しましたの。わたくしはどうやら前世でいう「乙女ゲーム」というものに転生してしまったようですの。 乙女ゲームに転生してしまった主人公の悪役令嬢が前世の記憶を少しだけ思い出し、悪役令嬢としての役目を放棄して自由気ままに絵を描きながら時々彫刻をしてみたり前世のアイテムを作ってみたりする話。 カクヨム様、エブリスタ様、にも掲載しています。 悪役転生を望んだが男にしろとは言っていない!もよろしくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

処理中です...