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第3章 精霊王
魔道竜(第3章、3)
しおりを挟む素朴いがい表現をなさないような、手ごろな石を積み上げて造られた原始的な祭壇だった。
そこに安置されてあったものは、紙でもなければ石板ですらもない。
あるのは、黒いかたまり。
例えると……パンを、炭になるまで焼いたようなーーもっといえば、カレーを焦がしてしまったオコゲのようなーーーー例えようもない物体がそこにある。
コレかしら……?
考えあぐね、悩んだすえ精霊に尋ねてみることにした。
『この真っ黒いモノは?』
【!?】
意外なことを問われたというようにブラッドは目を瞬く。
【材質に関する質問か? これは竜の毛でできている】
『竜の毛?』
形は長方形。縦、およそ三十センチ。
横、およそ四十五センチ。
見た目は黒い布。
竜に真っ黒い毛がはえている?
想像もできないが。
【竜神の鬣じゃ】
カナタが捕捉する。
竜神とは黒竜のことだ。
つまりは黒い竜には鬣がはえている、ということ。
情報の乏しいラグーンに補則 をくわえる。
竜というからには、鱗状の皮膚のような、とにかく硬いイメージしかなかった。
それが、馬でもなしに鬣があるという。
うーん。
【これより調印の儀を執り行う。条約書をてにするがよい】
ティアヌは真っ黒い一枚の織物をおそるおそる手に取る。
軽い。
見た目の重圧感から、そこそこの重さはあるだろうと思われたが。
手触りはすべらかで絹のよう。
ティアヌはそれを高く掲げる。
『こう?』
すると闇の精霊ブラッドの身体から青い光が放たれ、同じように光の精霊カナタからも同様に赤い光が。
それはやがて集束して精霊条約書にそそがれた。
『な!?』
見たこともないような、光輝く文字が織物に刻まれていく。
青く光る文字、コウモリ、闇の刻印。
赤く光る文字、太陽、光の刻印だ。
【そこに我ら両名の名が刻まれている】
つまりは、この奇怪なマークの意味するところは認め印、印鑑のようなもの?
もしかしたら、精霊には決まった形がない。ゆえに人魂のように見えるだけ?
だとしたらーーーー
【これより光と闇の精霊は人間に力を貸すと約束しよう】
これでセイラのような精霊召還術士にも、すくなくとも闇と光に属する呪文の使用は可能になったわけであるが。
実際に使用してみるまでは真偽のほどは不明である。
闇の精霊は尚も続ける。
【火の精霊王バルバダイと調印したのち西へゆけ。コドム諸島の中央の島に樹木の精霊が待っている】
聞き終わるや否や、ドン!と何者かによって背をおされ、前のめりに倒れこんだ。
【急げ、人の子よ。残された時はそうない。条約書が効力を無くすまえにーーーー】
ガッと音が鳴り響いた。
『ぃ、痛ぁ!?』
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