魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

文字の大きさ
上 下
107 / 132
第3章 精霊王

魔道竜(第3章、2)

しおりを挟む

それは青白い火の玉だった。

正確な距離まではわからないが、遠いようで近い。

まるでクラゲのようにゆらゆらと漂っている。





【よく来た】


歓迎してくれている感じの声音。

『ひ、人魂がしゃべった!?』

腰をぬかしかける。
たたらを踏んで踏み止まるのが精一杯だった。


【案ずるには及ばない。こちらへきなさい】


正直、人魂となんてお近づきになりたくはない。

しかしながら今のティアヌとて人魂と大差ない。
幽体離脱して精神体、生き霊状態さながらなのだから。

『行くしかないわね』

ティアヌは青白い火の玉に導かれるまま歩きだした。

だが習慣というのは根強いもので、足元が暗くておぼつかないことが妙に気になる。

それを見越してか青白い炎は【怖れずともよい】と声をかけてくれた。

意外に良い人魂のようだ。

ザクザクとはいかないまでも、そろりそろりと進む。

『な、なに!?』

唐突にも人魂は、くるりと反転してみせたかと思えば、青白い炎に黄色く光る二つの眼があらわれた。

【精霊条約書を求める魔道士よ、来るべくして時は満ちた。我が名は深淵を司る精霊、ブラッド】

そして、と言い継ぐ前にひときわ輝く電球のような光の珠があらわれ、パァーッとまばゆい光がティアヌを包み込む。

ぃ、一体何事!?

目を焼くほどの光量ではなく、温かみのある優しい光。

幼いころ母に抱かれたあの愛情に満ちあふれた陽だまりのよう。

【妾は聖なる光を司り、あまねく万物を照らす光の精霊、カナタじゃ】

堅苦しい言葉遣いのわりに底抜けに明るい光の精霊の出現によって、それまで暗闇に閉ざされていた空間に祭壇らしきものが出現した。

『…………』

ここは今までティアヌがいた空間とはまるで異なる理と秩序が支配している。

その証拠に壁などはなく、カナタによって照らし出された場所いがいはどこまでも暗い闇が支配していた。

【よいか、そこな娘。この祭壇に納められし精霊条約書を手にするがよい】

ぇ??

そんなに簡単にもらっちゃっても?

何かのトラップ?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

大海サバイバル! チートな船で俺TUEEE な旅を満喫します

彩世幻夜
ファンタジー
突然異世界に転移させられ、神様から与えられたのは一艘の船でした。 無人島&手漕ぎボートから始まる冒険譚が、今ここから始まる―― ※主人公は女です、あしからず! (ボクっ子じゃありません、心と体の性別が違う子でもありませんし、男の娘でもありません! 正しく女性が主人公です!)

処理中です...