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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、51)
しおりを挟むたしかに見た目で人を好きになるなんてばかげている。
見た目とはその人の好きな好みには違いないが、それだけでは恋にはいたらないだろう。
そこに何かしらの要素が加わって恋におちるのかもしれない。
例えば、ふとした瞬間の不意打ちの笑顔・言葉、人様々だ。
ある人はフィーリングとも言うし、人によってそこは感じ方も違ってくる。
恋とはなんの気なしにできてしまった吹き出物、一度おちれば不治の病、どんな欠点をも美化してしまうそれは恐ろしい盲目だという人もいた。
もしも、百年の恋もさめる現実をつきつけられたとき、人はそれでもその夢に酔いしれることができるのか。
それは激しい情熱のあとの燻った燃えカスのようだ。
人を好きになるってなんだろう。
それでも、よりにもよってそこでセルティガの名前を出されるとは。
今のティアヌにとってセルティガはごく身近な異性には違いない。
やはり私も女の子。強い異性には惹かれる。
女の子扱いされたり、体をはって守られたりすればことさら勘違いも生じるだろう。
時折ここぞという場面で垣間見せる頼もしさ。
時々ではあるが、胸に不可思議な痛みをはしらせる。
ティアヌはそっと胸に手の平をおしあててみる。
早鐘を打つ鼓動が何かを告げていた。
けれど、ティアヌはそれに蓋をして気付かないふりをする。
あの口の悪い、ましてや見るからに女癖の悪そうなセルティガに恋をする???
嫌いではないが、邪蛇のいう『好き』の意味からしてこの気持ちはことなる…と思う。
自身と向き合うって…とても難しいことだ。
「これですべてを話したわ。そろそろあなたの返事をきかせて」
話題が超難問からそれるとティアヌはホッとして息をつく。
今はセルティガのことをどう思っているのかなんて考えたくもなかった。
「返事……随分と急ぐのね」
「急ぐというよりあなたの気持ちのほどを聞きたいの」
口約束ではまだ信用するまでには無理がある。なにせ相手が邪蛇なのだ。
創世神話に登場する悪神と取引をするなんて信用する要素がそこにはまるでないにひとしい。
「船員の安全は本当に保障してくれるのよね?」
「もちろん。船にその身があるかぎり」
これまで冒険者たちの侵入をことごとく拒み、あらゆる妨害を企てその毒牙をもって手にかけてきた邪蛇。
その邪蛇がこうして取引をもちかけ、航海の安全を約束している。
もとより妨害するつもりならば、こんな取引じたい無用。先ほどの話しを鵜呑みにすれば疑ってかかるところは一つもない。
邪蛇は大神官を助けたいがため。ティアヌは航海の無事と船員の安全が確保されればそれでよい。
心配ごとがなくなれば、他のことに集中できる。それが邪蛇のもちかけてきた取引の狙いなのやも。
この取引は、ティアヌがそれに集中し、無事にコマをすすめるために邪蛇が用意した安全という名の取引みたいなものだ。
―――信じて――みようか、な?
まずは相手を信じるところから取引ははじまるような気もする。
「商談成立、あなたとの取引に応じましょう」
「そぅ。ならばこれより先、魔族を召喚したりしてあなたたちの行く手を阻むことはしないと約束するわ。
きっとティアヌのことだから、それだけでは私を心底信用できない、でしょう? だから取引をかわした証しとして私の名を教える」
まさかそこまでしてくれるとは思わず、ティアヌの口から「えっ!?」ともれた。
「私の名前はエイミル。そして呪名(じゅな)はセウシルよ」
「…なっ??」
邪蛇みずからその名をあかしてくるとは予想外だった。
呪名とは本来魔道をあつかいものにとって誰にも知られてはならない秘密の名前だからだ。
「これで信じてくれた?」
それをみずからあかす行為。
「信じるしかないじゃない」
邪蛇はティアヌにその名をあかすことで名前による支配権をあたえたのだ。
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