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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、38)
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用心深いティアヌのことだ。
策を講じないままただ時を無駄にすごすわけにもいかず、立地条件などをもとに策をめぐらせる。
前方には一本道があるいがい道らしい道も見当たらなく、辺りは溶岩の堀がはりめぐらされ、それは見るものに威圧感をあたえ難攻不落の天然要塞さながらだ。
その道の先にはまったくもって不自然なことに、一本の朽ち果てた巨大な老木が溶岩の川面にうかんでいる。
奇絶怪絶なるその老木には、溶岩の赤々とした色をも照り返す金色の葉がおいしげる。
銀杏の黄葉すらもしのぐ、一葉ごとにまばゆい光沢、黄金色に輝いてみえる。
あれらすべてが金塊ならば、一生遊んで暮らせるだろう。
その光り輝く金色の葉により隠されるようにして、小さな果実が一つだけ実っている。
―――林檎?
これだけの距離ともなると、いかな金目のものに目敏いティアヌといえどもその果実の正体や、巻き付いたように縛り付けられているであろうセイラの安否の確認ですら不可能。
近くによって確認しようと思うのだが、これが敵の罠という可能性が濃厚である。
しかも逃げ場にてきした足場がこれだけとぼしいとなると、迂闊に近付けば背水の陣とばかりに退路をたたれるのは必至。
だがこのまま手をこまねいていても何かが変わるはずもない。
―――ならば!
意を決し、巨大な老木を見据える。
ややためらいがちに、一本道へと一歩をふみだした。
「これは明らかに敵の罠だ」
セルティガはティアヌの肩をつかんだ。
「セイラが捕らえられている可能性があるいじょう、ほかにどうしようもないわ」
「ならば作戦ぐらい考えてあるんだろうな? 無闇に真っ向から敵のフトコロへ飛び込むということは、それなりのリスクがともなうことでもある」
「わかっているわ。作戦っていっても今回ばかりはその場しのぎ。作戦をたててもそれがつうじるような相手でもないし。
それに作戦をたてようにも時間がなさすぎるわ。考えるだけ時間のロスってもんよ。
よって行き当たりばったりが今回の作戦、わかった?」
それを聞き、セルティガは深いため息をもらしたばかりか、表情にも落胆の色をにじませる。
「あのなぁ~、頼むからせめて作戦の一つもたてている…とかなんとか言ってくれ。
もし仮にセイラがニエとして相応しくない場合、お前とセイラの交換を迫ってくるかもしれん。そんな理不尽な交換条件を突き付けてくる可能性もあるんだぞ!」
セルティガにしては鋭いところをついてきた。
「言ったでしょ、覚悟のうえよ。セルティガに言われるまでもないわ」
今は守るべき人がいる。
我が身にふりかかるかもしれない先のことより、今助けたい人がいる。
「バカだな…お前。相手は創世記時代の怪物だぞ? 対等に渡りあえる相手じゃないんだ。大神官にもどうすることもできなかったそんな怪物に、どうやって一矢を報いるつもりだ? 魔法で退治できるものならとうの昔にされている」
セルティガの言っていることには一々腹のたつほどに一理ある。
しかし倒せないまでも好機をつくり、二人が安全なところまで逃げ延びる間の時間かせぎ低度なら。
しかもここはバルバダイの聖域。
バルバダイの加護のもと、その神秘的なパワースポットならではの立地条件という点においてもそれほど分が悪いわけでもない。
何より邪蛇が実体ではないことが救いだ。
「それもそうね、でも一矢報いる低度なら…手段はまったくないわけじゃないわ」
「無闇に突っ込んで犬死だけはゆるさんぞ。これは誰かを犠牲にしてまで続けなければならない旅ではないんだからな。たとえそこにどんな事情がからんでいたとしても」
「だからってセイラを犠牲になんてさせられないわ。恐らくこれは、私に対する試練なのよ」
「お前がのりこえなければならない試練なのか?」
「多分ね」
そう告げながら、ティアヌは一笑してみせた。
まるで¨それいがい方法がないのよ¨、そう告げるかのような儚げな微笑。しかし開き直ったのかと錯覚させるような、どこかしらに余裕すら感じられる。
「わかった。もう何も言うまい」
ティアヌはあの怪物に勝つ気でいるのだ。
ならば止めるなんてヤボなまねはするまでもない。
ティアヌの肩にかけられたセルティガの腕をさげさせた。
セルティガはあらためてこの小さな肩をみつめる。
小さいくせにやけに頼もしい背中。
だが所詮十四歳の少女の気勢。いつ挫けるともしれない。
「ここで待っていてくれても構わないわよ」
「笑止。大の大人が女の子に守ってもらいました…なんて言えるか! それにもしかしたら俺が役にたつかもしれん。これが俺自身、自らにかせる試練だ」
お前の守りたいものすべてを守ってやりたい、そう小さく呟き、セルティガはクシャクシャとティアヌの頭部を撫でまわした。
策を講じないままただ時を無駄にすごすわけにもいかず、立地条件などをもとに策をめぐらせる。
前方には一本道があるいがい道らしい道も見当たらなく、辺りは溶岩の堀がはりめぐらされ、それは見るものに威圧感をあたえ難攻不落の天然要塞さながらだ。
その道の先にはまったくもって不自然なことに、一本の朽ち果てた巨大な老木が溶岩の川面にうかんでいる。
奇絶怪絶なるその老木には、溶岩の赤々とした色をも照り返す金色の葉がおいしげる。
銀杏の黄葉すらもしのぐ、一葉ごとにまばゆい光沢、黄金色に輝いてみえる。
あれらすべてが金塊ならば、一生遊んで暮らせるだろう。
その光り輝く金色の葉により隠されるようにして、小さな果実が一つだけ実っている。
―――林檎?
これだけの距離ともなると、いかな金目のものに目敏いティアヌといえどもその果実の正体や、巻き付いたように縛り付けられているであろうセイラの安否の確認ですら不可能。
近くによって確認しようと思うのだが、これが敵の罠という可能性が濃厚である。
しかも逃げ場にてきした足場がこれだけとぼしいとなると、迂闊に近付けば背水の陣とばかりに退路をたたれるのは必至。
だがこのまま手をこまねいていても何かが変わるはずもない。
―――ならば!
意を決し、巨大な老木を見据える。
ややためらいがちに、一本道へと一歩をふみだした。
「これは明らかに敵の罠だ」
セルティガはティアヌの肩をつかんだ。
「セイラが捕らえられている可能性があるいじょう、ほかにどうしようもないわ」
「ならば作戦ぐらい考えてあるんだろうな? 無闇に真っ向から敵のフトコロへ飛び込むということは、それなりのリスクがともなうことでもある」
「わかっているわ。作戦っていっても今回ばかりはその場しのぎ。作戦をたててもそれがつうじるような相手でもないし。
それに作戦をたてようにも時間がなさすぎるわ。考えるだけ時間のロスってもんよ。
よって行き当たりばったりが今回の作戦、わかった?」
それを聞き、セルティガは深いため息をもらしたばかりか、表情にも落胆の色をにじませる。
「あのなぁ~、頼むからせめて作戦の一つもたてている…とかなんとか言ってくれ。
もし仮にセイラがニエとして相応しくない場合、お前とセイラの交換を迫ってくるかもしれん。そんな理不尽な交換条件を突き付けてくる可能性もあるんだぞ!」
セルティガにしては鋭いところをついてきた。
「言ったでしょ、覚悟のうえよ。セルティガに言われるまでもないわ」
今は守るべき人がいる。
我が身にふりかかるかもしれない先のことより、今助けたい人がいる。
「バカだな…お前。相手は創世記時代の怪物だぞ? 対等に渡りあえる相手じゃないんだ。大神官にもどうすることもできなかったそんな怪物に、どうやって一矢を報いるつもりだ? 魔法で退治できるものならとうの昔にされている」
セルティガの言っていることには一々腹のたつほどに一理ある。
しかし倒せないまでも好機をつくり、二人が安全なところまで逃げ延びる間の時間かせぎ低度なら。
しかもここはバルバダイの聖域。
バルバダイの加護のもと、その神秘的なパワースポットならではの立地条件という点においてもそれほど分が悪いわけでもない。
何より邪蛇が実体ではないことが救いだ。
「それもそうね、でも一矢報いる低度なら…手段はまったくないわけじゃないわ」
「無闇に突っ込んで犬死だけはゆるさんぞ。これは誰かを犠牲にしてまで続けなければならない旅ではないんだからな。たとえそこにどんな事情がからんでいたとしても」
「だからってセイラを犠牲になんてさせられないわ。恐らくこれは、私に対する試練なのよ」
「お前がのりこえなければならない試練なのか?」
「多分ね」
そう告げながら、ティアヌは一笑してみせた。
まるで¨それいがい方法がないのよ¨、そう告げるかのような儚げな微笑。しかし開き直ったのかと錯覚させるような、どこかしらに余裕すら感じられる。
「わかった。もう何も言うまい」
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ならば止めるなんてヤボなまねはするまでもない。
ティアヌの肩にかけられたセルティガの腕をさげさせた。
セルティガはあらためてこの小さな肩をみつめる。
小さいくせにやけに頼もしい背中。
だが所詮十四歳の少女の気勢。いつ挫けるともしれない。
「ここで待っていてくれても構わないわよ」
「笑止。大の大人が女の子に守ってもらいました…なんて言えるか! それにもしかしたら俺が役にたつかもしれん。これが俺自身、自らにかせる試練だ」
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