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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、17)
しおりを挟む「ぅわ! ちょっ、めちゃくちゃ揺るぅーーッ!」
激しく上下左右にゆさぶられる釣り橋。
ティアヌは釣り橋のロープにしがみつき、渡るに渡れず立ち往生の真っただ中だった。
命綱を巨木に結び付け、綱渡りでもするようにして釣り橋を渡りはじめたまではよかった。
しかし一つ間違えば真っ逆様に溶岩の大河に落下するかもしれない、そう不安がよぎりだすと嫌でも視界にはいる足もとは不吉な想像をかきたてる。
まだ死にたくない。成仏するには到底無理、この世に未練タラタラだ。
初彼もまだ。
デートだって未経験。
あぁ、あれも、これも、やり残したことばかりだ。
ここで私の人生が終わりました、なんて人生の終焉の地にするにはあまりにも我ながら哀れすぎる。
せめて彼なりともと目線をあげれば、ふと先陣をきるセルティガの背中に目がとまった。
「…………」
ダメよティアヌ、アレは男であって男じゃないの。アレは人の皮をかぶった獣よ。
「何をしているんだ? 早く来いよ。置いて行くぞ」
ね? いたいけな乙女を平然と放置するような獣よ。
男なら、ここで手を貸すとしたもんじゃない?
格下げよ格下げ。ヤツは男でもなければ女でもない。両性爬虫類よ。いやそれ以下。
「うるさいわね、いま行くわよ!」
仕方なしに、距離にしておよそ五百メートルほどの釣り橋にソロリと五歩目の足をかける。
ギシ…ッ……、不吉な軋みがティアヌの鼓動をはねあげさせた。
し、心臓に悪いわ、ついでに美容と健康にも。
ティアヌはうっすらと湿り気のおびた額の冷ややかな汗を手の甲でぬぐう。
危ない危ない。道を誤るところだったわ。ヤツに漢気をもとめるなんて。
そう言えば……十四歳にして最近めっきりお肌にハリとツヤが。
もしやこれがお肌の曲がり角ってやつかしら?
「おぃ、さっきから何をブツブツと。孤独な老人じゃあるまいし。口より足を動かせ、足を」
「わかっているわよ!ブツブツと悪かったわね!」
もはやティアヌにはぼやく以外、はけ口は残されてはいない。
「ぉ! 逆ギレか? まだまだ元気が有り余っているな」
「ぅ、うるさい! これは空元気ってやつよ。上から目線はやめて」
まさかセルティガと立場が逆転する日がこようとは……不覚。
「絶対この釣り橋を攻略してやる!」
ティアヌは気をとりなおし、両手を垂直に上げバランスをとる。
グラグラと揺れる足もとも、こうすれば多少の安定感は保たれる。
「なんだお前、それじゃまるっきり弥次郎兵衛(やじろべい)じゃないか」
と告げてから、
ぶっ…ププッと顔の原形もへったくれもなく崩れさせ、腹をかかえる。
「お前…俺を殺す気か?」
まことに不愉快きわまりない。
セルティガはティアヌを指をさし、腹痛ってぇ…死ぬ…マジで俺は死ぬぞ、と、もだえ苦しむ。
「……………。」
勝手に笑い死ね!
乙女を笑いのネタの食い物にする悪食め。
いつかコイツを泣かす!
泣いてティアヌさま、どうかお助け下さい、と泣きの涙で懇願されても絶対に助けてなんかやらない。
よし!覚悟も固まった。
もしも転落しそうになったなら、決死の覚悟をもって魔法をもちいるのも已むなし。
しかしどうも、こう激しく揺れる地に足のつかない高所は苦手である。
覚悟を胸に刻んだ直後、突然釣り橋が大揺れにみまわれた。
「きゃっ!?」
ティアヌは咄嗟にロープにしがみつく。
「面白れぇーー! この釣り橋、すっげぇ揺れるな」
面白がって釣り橋をわざわざご丁寧にも揺らすセルティガ。
その嫌がらせの仕方ときたら無邪気なお子ちゃま。まだ子供の方が幼いというだけで可愛げがあるというもの。
いつかコイツをシメてやる!!
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