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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、16)
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「だとしたら?」
身体とされたエイミル。
そして邪蛇の真の名前もエイミル。
紀元前に実在し、愛にすべてを捧げ、異形化するまでに一人の男を愛しぬいた女。
二人のエイミル。妙な因縁すら感じる。
「だったら人間の愚行に理解があってもいいんじゃない? 」
人を愛することの意味、愛するがゆえに拒絶される苦しみを誰よりも知る。そんな人がなぜ道を見誤って悪神にまで堕ちてしまったのか。
人はそれと知っていても、あえて茨の道を選びがちである。決して良い結果にはつながらない事と知りながら。
「人間の魂も堕ちる所まで堕ちれば悪魔にも鬼にだってなるわ。たとえそれがどんなにお偉い聖人君子さまだとしても。
何も珍しい話しじゃないでしょう?
子供を殺す親だって、実の親を殺す子供だっているじゃない。
それにアナタだって神に仕える女僧でもないのに尼さんの格好をしている。
アナタたちが神と崇める神とやらへの冒涜、それも立派な罪よね?」
一気にまくし立てられ、罵られた。まったく口をはさむ隙すら与えずに。
「………ぁ!?」
セイラは指摘され、ようやく気がついた。
新たなトレードマークとなりつつある、頭をおおう白い聖なる布がはずされていることに。
「これは理由があってこうしているのよ。それにまったくの嘘でもない」
邪蛇はニヤリと口の端をあげ、「フフッ」と思わせぶりに笑んでみせると、振り向きざま白衣をまとう男を鋭い視線で射ぬく。
「ちょっと、そこのお肉屋さん。この人ではニエにはならないわ。アナタの娘をさしだしなさい」
まったくその存在すら忘れ去られているかと思われた肉屋の店主は顔色を失った。
「……ぇ?」
「だってこの人、清らかな乙女とは程遠いもの」
そんな……と呟きながら、よろよろと膝をつく。
そのまま膝をつきながら、冷徹な微笑をうかべる邪蛇のもとまでいざりよる。
「ま、待って下さい! 今から別のニエを探してきますから、何とぞ」
縋るようにして邪蛇の裾にまとわりついた。
「もう無理よ。これでも十分待ってあげたつもりよ? 時間ぎれね」
「そ、そんな……。なぜこの女ではいけないのですか、年ごろの娘なら誰でもいいとおっしゃったではありませんか」
「まだわからない? だってこの人、゛女海賊・女帝ナタリーナ゛よ」
「…ぇ??」
「ナタリーナといえば、真っ赤な髪に右の額、髑髏のタトゥーがトレードマークだって言うじゃない。この世界に二年も住んでいれば嫌でも耳に入ってくるわ」
「……クッ」
「ね、そうよね?」
「…………」
セイラはうつむいた。
「この尼さんが、あの、女帝と呼ばれる海賊………ナタリーナ?」
身体とされたエイミル。
そして邪蛇の真の名前もエイミル。
紀元前に実在し、愛にすべてを捧げ、異形化するまでに一人の男を愛しぬいた女。
二人のエイミル。妙な因縁すら感じる。
「だったら人間の愚行に理解があってもいいんじゃない? 」
人を愛することの意味、愛するがゆえに拒絶される苦しみを誰よりも知る。そんな人がなぜ道を見誤って悪神にまで堕ちてしまったのか。
人はそれと知っていても、あえて茨の道を選びがちである。決して良い結果にはつながらない事と知りながら。
「人間の魂も堕ちる所まで堕ちれば悪魔にも鬼にだってなるわ。たとえそれがどんなにお偉い聖人君子さまだとしても。
何も珍しい話しじゃないでしょう?
子供を殺す親だって、実の親を殺す子供だっているじゃない。
それにアナタだって神に仕える女僧でもないのに尼さんの格好をしている。
アナタたちが神と崇める神とやらへの冒涜、それも立派な罪よね?」
一気にまくし立てられ、罵られた。まったく口をはさむ隙すら与えずに。
「………ぁ!?」
セイラは指摘され、ようやく気がついた。
新たなトレードマークとなりつつある、頭をおおう白い聖なる布がはずされていることに。
「これは理由があってこうしているのよ。それにまったくの嘘でもない」
邪蛇はニヤリと口の端をあげ、「フフッ」と思わせぶりに笑んでみせると、振り向きざま白衣をまとう男を鋭い視線で射ぬく。
「ちょっと、そこのお肉屋さん。この人ではニエにはならないわ。アナタの娘をさしだしなさい」
まったくその存在すら忘れ去られているかと思われた肉屋の店主は顔色を失った。
「……ぇ?」
「だってこの人、清らかな乙女とは程遠いもの」
そんな……と呟きながら、よろよろと膝をつく。
そのまま膝をつきながら、冷徹な微笑をうかべる邪蛇のもとまでいざりよる。
「ま、待って下さい! 今から別のニエを探してきますから、何とぞ」
縋るようにして邪蛇の裾にまとわりついた。
「もう無理よ。これでも十分待ってあげたつもりよ? 時間ぎれね」
「そ、そんな……。なぜこの女ではいけないのですか、年ごろの娘なら誰でもいいとおっしゃったではありませんか」
「まだわからない? だってこの人、゛女海賊・女帝ナタリーナ゛よ」
「…ぇ??」
「ナタリーナといえば、真っ赤な髪に右の額、髑髏のタトゥーがトレードマークだって言うじゃない。この世界に二年も住んでいれば嫌でも耳に入ってくるわ」
「……クッ」
「ね、そうよね?」
「…………」
セイラはうつむいた。
「この尼さんが、あの、女帝と呼ばれる海賊………ナタリーナ?」
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