上 下
54 / 132
第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、3)

しおりを挟む


敵がなみの生き物ではないことは先刻承知。



いまセルティガと一戦まじえる、謎の俊敏なる動きをみせる敵の正体、とはいかに?



「うぉりゃーーーッ!」



なおもセルティガは、天衣無縫の剣さばきでたくみに敵の急所をつく。



「チッ!」



二度目の舌打ちがセルティガの口からもれた。



気をひきしめてかからないとヤバいぞ……と、セルティガにしてはかなり弱気な発言。



セルティガは幾度となく、人ならざるものと剣をまじえてきた。



その経験からして、目の前の敵の正体に目星がついた。



魔族、それも攻撃能力の高いAランク、魔族のなかでも一目おかれる通称スペシャルA、最高位魔族のそれだ。



実態をもたない精神体とされる魔族は、直接攻撃はナンセンス。



憑依した本体を核とし、本体と精神体が融合したもの。



ちなみに、核となる生き物+(プラス)物質と魔族が融合すると俗にキメラとされる。



この荒唐無稽な離れ業をできることからして、高位になればなるほど核との結び付きがかたいもの。



すなわち、攻撃面+(プラス)憑依した生き物特有の力をあわせもつ。



彼らはおもに動物や昆虫、爬虫類に憑依する。



この結び付きを断ち切らなければ、本体に大打撃をあたえることができない。



ならば。



セルティガは即興で秘策をねる。



「苦学生! 時空魔法を使えるか?」



くっ……。



ティアヌは喉元に餅をつまらせたかのように、怒りごとのみこむ。



「もちろんよ」



ティアヌの辞書に不可能の文字はない。



セルティガの思惑がてにとるように理解できた。



「コイツらには実態がない」



そう言いつのると、敵との間合いをとる。



敵は逃げの一手、セルティガの一撃一撃をいともたやすく軽い身のこなしでかわしきる。



セルティガの頬への一撃のあと、攻撃のとだえた敵。



セルティガをあざ笑うかのように、滑稽な動きをときおり織り交ぜる。



なんて器用な……。



敵ながらあっぱれ。相手の力量のほどを見極められず、軽んじて余裕綽々とした詰めの甘さ。


我が身を滅ぼすのは己自身。


その余裕がいつまでつづくのか。



いつの時代も悪がながく栄えたためしはない。



セルティガは一定の間隔をとり、気配の移動にあわせ、剣をふるうだけでいっぱいいっぱい。



ティアヌが口の内で復唱するのをみとどけると、言葉の意味がわかるよな? と、さも言わんばかりに一笑した。



「……なるほど、そういうことね」



「そういうことだ」



セルティガは、時空をさかのぼる魔法を使え、そう言っているのだ。



たしかに有効な手段ともいえる。



それは今までにない斬新な退治方法と言っても過言ではない。



やるじゃん! セルティガ。



ティアヌは来たるべきその瞬間にそなえ、固唾をのんだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...