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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、41)
しおりを挟む目の前にたちはだかるような山。さらに近づけばそのケタ外れなスケールの違いに言葉をうしなう。
山の頂きは削りとられたかのようになだらか、それでいて山肌は切り立った絶壁。
人の力だけで登ることは容易なことではない。山を見ただけで早くも困難な道のりを暗示させる。
しかしティアヌは魔道士、そこはチョロいものだ。十八番(おはこ)の浮遊術【ケラップ】をもちいればなんのことはない。
呪文を唱えると、浮き上がるようにしてゆっくりとティアヌの体が浮上しはじめた。
「…おぃ。こら、ちょっと待て!」
180はゆうにあるセルティガを追い越し、はるか上空に舞い上がったティアヌを見上げたセルティガは怒りをあらわに声を荒げた。
「何? 何か言ったからしら? ちょっとよく聞こえないんだけど?」
「お前、俺が浮遊術を使えないことを知っていて、この仕打ちか?」
「使えないのは浮遊術だけじゃないでしょう? 火竜玉しか使えない自称・魔剣士さん」
「それこそ余計なお世話だ! そんなことより、まさか俺だけ命綱をつけてよじ登れとか言わないよな?」
「ご名答!」
「お前、鬼か?」
「まっさか~。こんな可愛らしい鬼なんかいるわけないじゃない。あ…でも、魔性の小悪魔とかならいいかも。でも白衣の天使の方がポイント高いかしら? その辺は男性からしてどうかしら?」
「バカか? どこをどう見たらお前が魔性の小悪魔やら白衣の天使に見えるんだ? 本物が知ったら嘆くぞ! 腹黒さ丸出し。もはや本物の悪魔も顔をそむける残忍ぶり」
「言いたいことはよくわかったわ」
ティアヌは冷笑をうかべる。
「はい、コレをつかって」
ティアヌは肩にかけていたそれをセルティガに投げ渡した。
セルティガは投げ渡されたものを凝視する。
「ロープ?」
「私ってとっても親切よね……それ、おのぞみの命綱。頑張って!」
「おぃ……まさか……?」
「そのまさか。山をよじ登るのよ」
「…っざけんな! 俺に努力と忍耐は似つかわしくない!」
それをふつう自分で言うか?
「いつまでもここでウダウダやってても埒があかない。日没までに頂きにたどりついて、洞窟にはいらなきゃならないんだから」
明日は新月、おそらく次の儀式を行なうとしたら今夜のうちに供物を調達しにくるだろう。
「だったら俺にも浮遊術をかけろよ! お前なら一度に十人はいけるだろう?」
「三十人はかたいわ」
「なんでもいいから術をかけてくれ!」
「じゃあ……こんなのはどう?」
パチリと指を鳴した。
すると丸まったロープがひとりでに動きだす。一本の棒のようにスルスルと伸び、それは山の中腹にまで到達しそのまま硬直した。
「よじ登れと?」
「察しがいいわね~」
「お前…器用な魔法の使い方をするな。それ、本当に魔法なのか?」
「さぁ?」
「さぁ……ってお前」
「魔法とは生活をよりよく、それを補助するためのもの。呪文のアレンジの仕方、正確な解釈によって色々とできるもんよ」
「なるほど。なんだかよくわからんが。
それより血豆でも作って根性でコレをよじ登れと? 事が起きる前に俺は使い物にならなくなる」
「そこはそれ」
「お前…いい加減にしろよ? いくら温和なお兄さんでも本気で怒るぞ」
「それって、もしかして……この私を脅しているの?
いい度胸ね~。その勇気にめんじてのぞみどおり浮遊術をかけてあげるわ」
ただし、と付け足すと一瞬セルティガはたじろいだ。
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