魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

文字の大きさ
上 下
39 / 132
第1章 禁断の魔道士

魔道竜(第1章、38)

しおりを挟む


「冒険の書を一度でも目にしたことがあるならおおよその見当はつくはずよ」




【聖域へは島民ならば誰もがしる呪文を唱えれば道はひらかれる。


地中へともぐるようにしておりていく。



やがて大地の息づく鼓動を耳にするだろう。赤々と燃える命の根源たるその息吹を】




「確かこの島にはシンボルとされているデスマウンテンがあったわよね? 」



「えぇ、あそこに」



彼女は小さな窓ごしに高々とそびえる万年雪をいただいた大きな山を指さした。



「島民なら誰もがしる呪文って?」



「さぁ…? 私は生まれてこのかたずっとこの島に住んでいるけど、そんな呪文なんて一度も聞いたことも教わったことすらありません」



「ひとくちに呪文といっても色々とあるのよ。たとえばチチンプイプイとかも呪文としてありだし」



「おぃ…それって……おまじないじゃ?」



「そ…そういえば…幼いころ祖父が魔法のおまじないとかなんとか言っていたような? 困ったことがあったら山に行き、おまじないを唱えれば精霊が助けてくれる…って……」



ティアヌは固唾をのむ。



「それで、そのおまじないとは?」



「開け! ゴマ、です」



セルティガはテーブルの上に身をのりだした。



「そんなのアリなのか?」



ティアヌは沈痛な面持ちでセルティガの肩をポンポンと叩く。



「なんでもアリよ」








暗くなる前にティアヌとセルティガの二人はデスマウンテンへとむかった。



今から向かえば人目を避けられる日暮れ時に山を登ることができる。


なにより邪蛇の使徒の目をのがれるのはもちろんのこと、誰ともしれない監視の目をまかなければ邪蛇にけどられリスクも高くなる。ティアヌがやろうとしている神像の破壊は難しくなるだろう。



「心配するまでもなかったようだな」



日が暮れはじめるとカーニバルの喧噪も消え失せ、人々は急ぎばやに家路をたどる。


どの家々の扉もかたく閉ざされている。



「まだわからないわよ。いきなり横道から飛び出して来てブスリッなんてあるかもよ? 
一見平和にみえる緊張感のなさにまどわされると痛い目をみることになるわ、念のために気をひきしめてかからないとね」



「物騒だな、くわばらクワバラ」



本来ならば彼女も連れていくのがベストだが万一の非常事態を考慮すると足手まといは必至。三人以上の行動は無駄がおおくあらゆる事態に対応できない。



そこでリーダーであるティアヌがくだした決断はセイラかセルティガのうち、どちらかがあばら家にのこって彼女を守る。


のこった人が日没までに彼女に禊をさせ扉や窓に封魔の呪文をほどこし封鎖して一夜をやりすごす、というもの。



その決断に、私が残るわぁ、とあっさり名乗りをあげてくれたのはセイラだった。



だぁって~あの野獣と二人きりってかなりマズいでしょう?



ごもっとも。セイラの意見に一票!



セルティガをのこせばさらなる恐怖をあたえかねない。


エロエロ大魔神のセルティガの毒牙で彼女になにかあっては一大事。そんなわけで護衛はセルティガには不向きだった。


それにセルティガは火竜玉しか呪文を唱えられない、すなわち封魔の呪文さえ唱えられないということ。残す価値もない。



ふん、と鼻を鳴らしたティアヌの憤慨した様子を横目に、呑気に物見遊山でもするかのようにはしゃぐセルティガは、嬉々として見上げる。



「見れば見るほど凄い山だな~~~アレを登るのは常人には不可能ってもんだろう。どうやって登るんだ?」



「あのね、不可能を可能にするのが魔法よ」



ティアヌとしてはセイラとデスマウンテンに行きたかった。


この口の悪いセルティガとは違ってセイラは神に仕える尼さんだけあって人の心の痛みがわかる、そんな人だ。



「おぃ、苦学生」



一発、特大級火竜玉をおみまいしてやろうか!?


セルティガは風前の灯火にさらされたこの現状を把握する危機管理能力さえ持ち合わせていないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...