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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、38)
しおりを挟む「冒険の書を一度でも目にしたことがあるならおおよその見当はつくはずよ」
【聖域へは島民ならば誰もがしる呪文を唱えれば道はひらかれる。
地中へともぐるようにしておりていく。
やがて大地の息づく鼓動を耳にするだろう。赤々と燃える命の根源たるその息吹を】
「確かこの島にはシンボルとされているデスマウンテンがあったわよね? 」
「えぇ、あそこに」
彼女は小さな窓ごしに高々とそびえる万年雪をいただいた大きな山を指さした。
「島民なら誰もがしる呪文って?」
「さぁ…? 私は生まれてこのかたずっとこの島に住んでいるけど、そんな呪文なんて一度も聞いたことも教わったことすらありません」
「ひとくちに呪文といっても色々とあるのよ。たとえばチチンプイプイとかも呪文としてありだし」
「おぃ…それって……おまじないじゃ?」
「そ…そういえば…幼いころ祖父が魔法のおまじないとかなんとか言っていたような? 困ったことがあったら山に行き、おまじないを唱えれば精霊が助けてくれる…って……」
ティアヌは固唾をのむ。
「それで、そのおまじないとは?」
「開け! ゴマ、です」
セルティガはテーブルの上に身をのりだした。
「そんなのアリなのか?」
ティアヌは沈痛な面持ちでセルティガの肩をポンポンと叩く。
「なんでもアリよ」
暗くなる前にティアヌとセルティガの二人はデスマウンテンへとむかった。
今から向かえば人目を避けられる日暮れ時に山を登ることができる。
なにより邪蛇の使徒の目をのがれるのはもちろんのこと、誰ともしれない監視の目をまかなければ邪蛇にけどられリスクも高くなる。ティアヌがやろうとしている神像の破壊は難しくなるだろう。
「心配するまでもなかったようだな」
日が暮れはじめるとカーニバルの喧噪も消え失せ、人々は急ぎばやに家路をたどる。
どの家々の扉もかたく閉ざされている。
「まだわからないわよ。いきなり横道から飛び出して来てブスリッなんてあるかもよ?
一見平和にみえる緊張感のなさにまどわされると痛い目をみることになるわ、念のために気をひきしめてかからないとね」
「物騒だな、くわばらクワバラ」
本来ならば彼女も連れていくのがベストだが万一の非常事態を考慮すると足手まといは必至。三人以上の行動は無駄がおおくあらゆる事態に対応できない。
そこでリーダーであるティアヌがくだした決断はセイラかセルティガのうち、どちらかがあばら家にのこって彼女を守る。
のこった人が日没までに彼女に禊をさせ扉や窓に封魔の呪文をほどこし封鎖して一夜をやりすごす、というもの。
その決断に、私が残るわぁ、とあっさり名乗りをあげてくれたのはセイラだった。
だぁって~あの野獣と二人きりってかなりマズいでしょう?
ごもっとも。セイラの意見に一票!
セルティガをのこせばさらなる恐怖をあたえかねない。
エロエロ大魔神のセルティガの毒牙で彼女になにかあっては一大事。そんなわけで護衛はセルティガには不向きだった。
それにセルティガは火竜玉しか呪文を唱えられない、すなわち封魔の呪文さえ唱えられないということ。残す価値もない。
ふん、と鼻を鳴らしたティアヌの憤慨した様子を横目に、呑気に物見遊山でもするかのようにはしゃぐセルティガは、嬉々として見上げる。
「見れば見るほど凄い山だな~~~アレを登るのは常人には不可能ってもんだろう。どうやって登るんだ?」
「あのね、不可能を可能にするのが魔法よ」
ティアヌとしてはセイラとデスマウンテンに行きたかった。
この口の悪いセルティガとは違ってセイラは神に仕える尼さんだけあって人の心の痛みがわかる、そんな人だ。
「おぃ、苦学生」
一発、特大級火竜玉をおみまいしてやろうか!?
セルティガは風前の灯火にさらされたこの現状を把握する危機管理能力さえ持ち合わせていないようだ。
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