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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、23)
しおりを挟む甲板にはカモメがむらがっている。
上空を旋回し人影こそまばらながら甲板はにぎやっていた。どうやら船底あたりを魚群が回遊しているようだ。
海流に乗って航行するマディソン号のまわりをカモメがまとわりつき、海面ぎりぎりで低空アクロバットをくりひろげる。
そんな様子を微笑ましく横目にちらりとやきつけ舵機へとむかう。
舵機にはターバンを頭にまきつけた男が舵取りをおこなっていた。副船長のオーバンだ。
オーバンは首からさげた望遠筒をのぞきこみ、はるか水平線をみつめる。
「どう? 調子は」
はりあげるようにして声をかける。
するとオーバンは望遠筒をのぞきこみながらふりかえった。
「あれ? 船長の声を聞いた気がしたんだが、気のせいか?」
「ちょっと、悪い冗談はやめて。わかっててやっているなら容赦しないわよ」
怒気をはらんだティアヌの声にオーバンはレンズを
慌てて片目からはずし、浅黒い面に笑顔をきざむ。
「冗談スよ、冗談。それより船長、エンタプルグの街が見えてきましたよ。しかし虚海とはまったく逆の方向にむかうことになりますが、いいんですか?」
「これでいいのよ。ついでにあの街で食料と水を調達したいから船員を何人かつれていくけどいいかしら?」
「どうぞお好きに。船員を煮るなり焼くなりどうお使いになってもらっても結構ですよ。こっちは停泊しているぶんには支障はないですから。それより」
「なに?」
「あれ、大丈夫ですか?」
「あれ?」
オーバンはチラリとセルティガへと目線をやる。
「あれね」
アイコンタクトだけで主旨(しゅし)を解す。
「まぁ、なんとかなるでしょう。もし箸にも棒にもかからない使えない奴ならこの街においていってもかまわないしね」
オーバンはなかばあきらめたように顔をしかめ、蛇蝎(だかつ)を見るようにしてセルティガを一瞥(いちべつ)した。
精神的に受け付けないのか。
はたまた過去に一悶着あったのか。
オーバンのセルティガに対する評価はさんざんのようだ。
「ご健闘をお祈りしてます」
そのとき、
「……おぃ、そこの二人」
まれにみる動物的な勘のもちぬし、セルティガがこちらを睨めつけてきた。
「そこ、俺のことを悪く言っていただろう?」
ドキッ!
心臓が早鐘をうつ。
くしゃみをするでもなく、この察知の仕方はもはや動物的な勘をとおりこし達人の域に達する。
ここでセルティガを誹謗していたなんて知られたら、何を言われどんな仕返しをされるかわかったもんじゃない。
「ぇ? まっさか~ねぇ……オーバン、ってちょっと!!」
変わり身、早っ!
オーバンは何食わぬ顔で片手で舵取りをしながら望遠筒をのぞきこみ、口笛をふきながら遠くをみつめる。
ひ、卑怯者ーッ!
それが大の大人のすること?ここはかばってくれるとしたもんじゃない?
やがて小さな波止場の泊地に船を横付けしイカリをおろした。
そして船からおろされたロープを杭に厳重につなぎとめた。
この島をとりかこむ海域は海流の流れが激しいことでも有名だ。いくつか停泊した舫(もや)い船も同じように結びつけられている。
笑い話として泊地に帰ってきてみたら船がなかった、などと耳にしたことがある。
「それでオーバン、今後の航路についてなんだけど」
こういうところが私って大人だな~と我ながら感心する。
「航海予定ですか、どれどれ」
地図を積み荷の上にひろげ羅針盤をおく。
コンパスを使って線をひいていく。
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