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特別編
(特別編)ー後宮の悪の華ー(5)
しおりを挟む「晒皇后様、申し訳ございませんでした」
侍女が膝をつき平伏した。
身を震わせている。自決も已む無しとばかりに。
「もうよい。妾もツラく当たりすぎた。すまぬ。まだ頬は痛むか?」
右頬が少し赤らんでいる。
右頬をさしだしたのなら左頬もといえばこの侍女は喜んでさしだすだろう。
が、そんな過ぎたことはどうでもよい。
確かに皇帝の言葉には一理ある。主人としてかばい、思いやるべきであった。
「とんでもございません! 私が粗相をおかしたばかりに、皇后様が陛下からお叱りにあい、申し訳なく」
晒皇后は、よぃよぃ、と小さく首を振った。
「陛下はまた皇女のもとへ?」
「はい。噂によると后のもとへは週一の日中しか通わないらしいとのことですが、陛下におかれましては朝餉、昼餉、夜餉と、ことあるごと時間が許す限り皇女様のもとへ通われるのが慣例であると」
それが慣例の一言で片付けられる絶対的皇帝の権威たるや。
「…………」
皇太子誕生以来、夜は后のもとへの通いはないらしい。陛下は皇女を目にいれても痛くないほどのかわいがりようであると専らの噂だ。
それは晒皇后の耳にも届いている。
嫁いで半月以上、もっと言えば初夜さえもすっぽかされいい赤っ恥。
小国の姫だからと侮られているとも当初は考えもしたが、今日の緋嗣の様子をみて違和感を覚えた。
興味がないといえばそれまでだし、皇后に誰が据えられようとも緋嗣は態度を改めることはないだろう。
だが、もし。ーーーーもしも?
「俶后様も大層な可愛がりようで、皇太子様も皇女様に大変な懐きようで実の姉君のようであるとか」
「なぜ陛下がそこまで皇女を大切になされるのか?」
「さぁ。やはり菊花の君ゆえでしょうか」
なれば菊花の君とはなんぞや?
菊花の君を手にいれるもの、世界を征するとの預言が太古の昔から伝えられきた。
数多の属国を従え、紫輝に反旗する国などおらぬだろう。武力に備える必要もなし。
すでに世界を征している。大帝国。
なれば武力に興じる王家の娘を皇后にむかえいれてまで陛下は何をしたかったのか。
ーーーー皇女。
「…………」
第四皇女。先の皇太后、正当なる王家の血筋。
かたや現皇帝は先々帝の第三皇子の息子。
皇位継承権からすれば難しい立場。
皇女と婚姻すればただの娘婿。お飾りよろしくお座なりな皇帝となりうる。正統性を問われると弱く臣下からの威厳も欠くというもの。
そこで先の皇帝の養子となりて皇帝となった。
こうして皇女は義妹に。
血筋てきなことでいえば緋嗣の他に皇子四名の名が挙がっていたという。
なぜ緋嗣が皇位に就くことができたのか。
それは菊花の君の存在が大きく関わっていたらしいとの噂もある。
菊花の君。未だお目もじもかなわぬ皇女。
いっそ会えぬのなら、絶対会わずにられぬような場所をもうけてやればよい。
「茶会をひらくぞ」
皇后主宰による王族の親睦会とでも称して。
「はぃ?」
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