超絶寵愛王妃 ~後宮の華~

冰響カイチ

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第24話(中)④客人は斯く語りき

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時は離宮二日目の朝にもどる。




皇子様の居室としてはかなり質素な室に客人が招かれた。



入ってすぐに最大八人は掛けられる大きな黒檀の卓子があり、客人は壺などがおかれた飾り棚の前でうつむきながら立っている。

客人を迎え入れた皇子の背後にはその場と仕切るようにして降ろされた帳が。
紗の向こうには皇子が先ほどまで休んでいた寝台や長椅子などがある。

まだ室内は薄暗いとあって麗凛は卓上の燭台に火を灯すと皇子の近くにひかえた。

「朝も早ようからすまなんだ。堅苦しい挨拶は無用である。まずは掛けてくれ」

そう勧め、卓子の上座に自らも座す。

すると一礼してのち、皇子様に向かい合うようにして対面に客人二人が並んで椅子に座した。

気になってソワソワしていると「伎玉、君もだよ」と言って側近くの椅子をにっこりとして指す。

「は、はぃ」

いそいそと麗凛が腰をおろすとさっそく煌禿は本題をきりだした。
      
「まずはこの者の紹介をしよう。伎玉、この方は孫劉生そんりゅうせい殿といい、王様の祖父様のもとで学ばれる書生だ。学問および易学、珍しい化学ばけがくなど十四歳にして網羅。左大臣家ゆかりの家柄で彼の長兄は禁軍の総帥である。将来を嘱望される逸材だよ」

「はぁ」

知っておりますとも。長々とざっくりとしたご説明いたみいります。

こうした広巷伝え聴くところによるものをまとめると、ちょっぴりどころかかなり鼻につく博識者。

見ると少年は、本日はおよばれのためか貴族の若様が好みがちな光沢のある紺の絹地の長上衣にずぼん姿。
背は麗凛よりやや高く、年頃のものと比べるとやや矮躯。
髪は背後で一朶に束ねられ、耳には房飾りのついた金の飾りが。

似合っているか否かでいうと、小癪なことに肯定せざるをえないのがくやしい。

顔もそれなりにまとまって見目もよく、形の整っ眉、洞察しているかのような鋭い眼光といい。総じて確かに利発そうではある。

「伎玉と申します。どうぞお見知りおきを」
ぺこりと一礼する。

「…………」

すると目を伏せ無言で目礼してかえす少年。

やはり第一印象は覆せない。
噂通りの人格者ではないようだ。

が、どうでも良い。

「あの、恐れながら皇子様。先ほどの化学とは?」

すると何故か眸の奥を耀かせる煌禿。

「あのね、古くから伝わる呪(まじな)いやら妖怪に関する摩訶不思議な超常現象を総称したものを化学と称され。ぶっちゃけ証明のできない現象や奇術などもこれに分類されたりする」

「なるほど」

とても雑多な学問のようだ。

「ところで何ゆえここに玉瑶ぎょくようが?」

麗凛は、ぇ? と耳を疑った。
てっきり皇子が呼んだものとばかり。
違和感なくすっと通されたから。
思い込みというのは恐ろしい、そう一つ学んだ。

「僕がお呼びいたしました」そう言って一礼する。

招かれ、初めて口にした少年。
寡黙であるのか無口であるのか。
どちらも同じ意であるようでも、後者の方は必要なことしか喋りたくないの意に分類される面倒くさがりな人物に多くみられるもの。

皇子様の御前でもこれでは無礼であると捉えられても弁明の余地もないだろう。

だが人好きされる人柄か、煌禿は全くもって意にもかえさない。

「君が? 」

怪訝げに老女をみやる煌禿。

小さく華奢な躯が在所なさげにうつむいている。

玉搖といえばこの離宮を管理してきた古株の宮女。煌禿皇子と顔馴染みであることは言うまでもない。

さっそくではあるが、そう前おこうとすると遮るようにして少年が口を開く。

「もしや、ぬき、についてお尋ねになりたいのでは」

うむ、と肯定してみせた煌禿は「話が速くて助かる」ニヤリと笑む。

「では、じっくり聴かせてもらおうか。そして玉瑶、君がここに喚ばれたその訳も、な」

卓子の上に手をおいて指先を組む煌禿。

すると重い頚をもたげる老女。

「何もかも包み隠さずお話しいたします」







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