超絶寵愛王妃 ~後宮の華~

冰響カイチ

文字の大きさ
上 下
15 / 35

第15話 王様の言い分

しおりを挟む

翌朝。朝議での席でのことだった。

「陛下。いつまでも紫輝の姫君を迎賓館へとめおかれるのはいかがなものでしょう」

「どういう意味だ」

殷禿は不機嫌そうに低く発した。

ずらりと並んだ臣下の一人、近衛府長官・司馬青しばせいからの提議に、一同顔を見合わせざわめく。

「迎賓館はもとより長期滞在するには不向き。不便なところも多く、また警備がいささか手薄であります。いずれ後宮に入られるのであれば、いっそのこと皇女のお住まいを後宮に移されるのはいかがかと」

「まだ誰のもとへ嫁がれるかは決まってはおらぬぞ」

まったく時期尚早である。
が、遅かれ早かれ、提議されてしかるべき問題ではあるが。

「おおよそ、いぇ、十中八九間違いなく王様をお選びになられるのでは?」

「!?」

皇女が王弟に嫁ぎたがるはずがない。
もとより前王に嫁ぎにきた皇女。だから王を選ぶに違いない、そう言いたいのだろう。


ーーが。余は今それどころではない!!


ぐずぐずしているうちに一夜明け、姫たち一行は王宮をあとにして、秘湯とやらにむけて三泊四日の旅へ。

一昨日も、昨日も、伎玉に会えなかった。むろん今朝もそうだ。

今朝は馬車にのりこむ後ろ姿だけはかろうじて拝めた。


ーーぁぁ。余も行きたい。何とかして合流するすべはないものか。


綿密にたてられた旅の予定は、我ながら惚れ惚れするぐらいに一分の隙もない。
余計なものは極力はぶき、休憩場所には余の母方の実家の総本家・先の右大臣であるお祖父様の邸を休憩場所としたのは上々だった。

これ以上伎玉に悪い虫がつかないよう、爺しかおらぬあそこなら万全の防虫といえよう。

あわよくば、国内視察を目的とした行幸という名目で行けるかもしれない。

いゃ、無理だ。王位を継承したばかりで国政に支障をきたすような期間の留守をが許すはずがない。

なぜ王には休日がないのだ!?
王にだって休息日があってしかるべき。なのに玉座に毎日のように縛り付けられ。
何をするにもわずらわしい女官どもがべったりとはりついてくる。


ーーぁぁ、ひとりになりたい。


そう思ってもままならぬのが現状だ。


馬屋の前には兵士が交代で片時も離れずに警戒にあたっている。

昔から抜け出し癖があったため見張りは厳重だ。宮城をうろつく分には目こぼしされてはいたが、抜け出すとなると至難の技。手引きするものが必要。

余には心のおける、余の気持ちをくんでくれる者がいない。ゆえに手引きも期待できぬ。爺やに頼めば逆に長官に通報され軟禁されるに決まっている。


となると残る手段はただ一つ。気の毒だが、祖父の爺には危篤になってもらうほかない?


「あの、陛下?  聞いてます?」

「ん?  聞いてないぞ。だから何だ」

「ですから、再来月といわず、茶会を来月早々に繰り上げては?」

「何故だ」

「王妃不在はよろしくありませんし、他国の皇女がいつまでもとめおくのはいささか外聞が悪うございましょう。幸い候補者選定は最終段階を経て陛下に拝謁されるのみ」

いかがでしょう、と進言する司馬青 の意図があけすけすぎだ。

つまりは、選定があらかた終わったので、さっさと王妃を決めろというわけだ。

しかも皇女不在であるこの時を好機とみなし。決まってしまえば拒めないだろうという弱者切り捨ての悪質な悪徳商法まがいもいいところ。

あの少し気弱そうな皇女に反論する気概すらないだろうという司馬青のもくろみはこの余が未然にたつ。

もし余が皇女と婚姻しようものなら煌禿はしめしめとばかりに伎玉を妻に迎えるだろう。

一昨日、余は確信した。

ヤツの本命は伎玉であると。

昨日の友は明日の敵。


煌禿の思い通りにさせてなるものか。


煌禿が先手を打ってくるのなら、余はさらに先をよみ、遅れを挽回して必ずや伎玉を手にいれてみせる。


「それは余の一存では決められまい。皇女が戻られたのち、それとなくうかがってみてみよう。次の案件をのべよ」


この温泉旅行で皇女と煌禿の仲が深まってくれたらーーーー


そう切に祈った。


    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...