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最終章 こぼれ落ちた運命は
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「ルーク・デイヴィスくん。キミは離職して離籍するつもりだろうけど、そのあとどつするの?」
ジュリアン代表は、急にくだけた口調になり、にこやかにルーク様に話しかけた。
ルーク様は、一瞬戸惑ったような表情をしたが、しっかりと前を向いて答えた。
「平民となり、妻と子どもに囲まれて生活します」
「妻? キミ結婚してたっけ?」
「いえ、独身です。結婚はこれからですが」
「ふーん。平民になったあとの生活はどうするの?」
「先に目録としていただいておりますが、この度の討伐に対する褒賞を討伐隊全員いただいております。わたしも小さな領地をいただきました」
そうなのだ。
かく言うオレも褒賞はもらっている。
オレや隊員達はお金でもらっているが、ルーク様だけは領地でもらったのだ。
まあ、普通に統治していけば、食うに困らないくらいの小さな領地だが、それでも領地というのは大きな褒賞だ。
ジュリアン代表は、後ろに控えていた秘書らしき侍従から一枚の紙を受け取る。
「ふーん。王家直轄だったここの領地をもらったわけね。まあ、気候もいいし、それなりに暮らしていけるだろうね。貴族ならば」
貴族ならば。
敢えてつけた一言に、ルーク様は反応した。
「わたしは貴族ではなくなりますよ?」
ルーク様のその言葉に、ジュリアン代表はにっこりと笑顔になる。
「キミは王国法規をよく勉強していたそうですね。裁判の時の第五十四条の演説にはシビレました。しかし、他の項目は読まなかったのでしょうか? 例えば……第十二条第五項目、とか」
ルーク様は視線を泳がせた。
確かに、ルーク様が王国法規に目を通したのは、当時の生贄のことを調べていたからだ。
もちろん、五十四条あたりの王国法規はよく読み込んだが、その他を熟読しているかと言われれば、首を横に振るしかない。
多分、わからないだろうルーク様をよそに、オレも頭の中の記憶を辿る。
十二っていったら、結構最初の方に決まった法律だよな。
国王を定義するものから始まって、王室の法律が来て、その次に、その後に……。
「あっ、」
オレは十二条に思い当たって、思わず声を出してしまった。
「おや、副隊長殿は勤勉ですね。第十二条をご存知の様子」
「義兄上、第十二条って、なんなんですか」
2人の声で、会議室中の人々の視線がオレに集まる。
たら……と、手に冷や汗が溜まる。
「いや、あの、その」
「ミラー卿、今知っても後で知っても、結果は同じですよ」
ジュリアン代表に笑顔で言われ、諦めてその考えを口にする。
「ルーク様、第十二条は貴族の定義の項目だ。はっきりとは覚えていないが、多分、領地を治める者は貴族でなければならないと記されていた気がする。平民が議会に参加するのと同じで、平民なら一代限りの準男爵以上でないと、領地を預かることはできない」
なんでそんな法律があるのかというと、平民と貴族では税金が違うのだ。
領地経営の収入を鑑みて、平民と同じ税率ではダメだということだろう。
オレの言葉にポカンと口を開けて、ルーク様は目を見開く。
「貴族でないと、領地がもらえない……? なら、金貨に変えます。それを元手に生活基盤を整えます」
焦り出したルーク様に、ジュリアン代表は笑みを深める。
「もう遅いねぇ。今からの変更はできないよ」
「では……」
「そ、タダ働き。骨折り損のくたびれもうけ。資産のない男に娘はやれないよなぁ。ね、ミラー卿」
イヤな笑顔を、今度はオレに向ける。
ルーク様の前では言い辛いが、確かに甲斐性のない男に妹はやらん。
オレは、ふぅと口から息を吐き出した。
「ルーク様、貴族籍から抜けることは諦めろ。ニーナは子爵令嬢なんだ。ルーク様が貴族でも、何も問題なく嫁げる」
「しかし、継承権のない一代貴族でその後の保証がないなんて……」
真っ青になるルーク様。
対照的に、高揚していくジュリアン代表。
「おいおい、誰がキミを準男爵にするって言った? 元々、別でキミへの褒賞はもう一つ用意されている。キミは侯爵の地位を継ぐと思っていたから、不要だと思っていたんだけど、好都合。キミには伯爵位が用意されている。陞爵ではなく、叙爵になるかな。爵位のないキミなら」
にこにこと喰えない笑顔のジュリアン代表に比べ、平民となりまったりスローライフを夢見ていたルーク様は、誰が見ても「絶望」とわかるような表情をしていた。
ジュリアン代表は、急にくだけた口調になり、にこやかにルーク様に話しかけた。
ルーク様は、一瞬戸惑ったような表情をしたが、しっかりと前を向いて答えた。
「平民となり、妻と子どもに囲まれて生活します」
「妻? キミ結婚してたっけ?」
「いえ、独身です。結婚はこれからですが」
「ふーん。平民になったあとの生活はどうするの?」
「先に目録としていただいておりますが、この度の討伐に対する褒賞を討伐隊全員いただいております。わたしも小さな領地をいただきました」
そうなのだ。
かく言うオレも褒賞はもらっている。
オレや隊員達はお金でもらっているが、ルーク様だけは領地でもらったのだ。
まあ、普通に統治していけば、食うに困らないくらいの小さな領地だが、それでも領地というのは大きな褒賞だ。
ジュリアン代表は、後ろに控えていた秘書らしき侍従から一枚の紙を受け取る。
「ふーん。王家直轄だったここの領地をもらったわけね。まあ、気候もいいし、それなりに暮らしていけるだろうね。貴族ならば」
貴族ならば。
敢えてつけた一言に、ルーク様は反応した。
「わたしは貴族ではなくなりますよ?」
ルーク様のその言葉に、ジュリアン代表はにっこりと笑顔になる。
「キミは王国法規をよく勉強していたそうですね。裁判の時の第五十四条の演説にはシビレました。しかし、他の項目は読まなかったのでしょうか? 例えば……第十二条第五項目、とか」
ルーク様は視線を泳がせた。
確かに、ルーク様が王国法規に目を通したのは、当時の生贄のことを調べていたからだ。
もちろん、五十四条あたりの王国法規はよく読み込んだが、その他を熟読しているかと言われれば、首を横に振るしかない。
多分、わからないだろうルーク様をよそに、オレも頭の中の記憶を辿る。
十二っていったら、結構最初の方に決まった法律だよな。
国王を定義するものから始まって、王室の法律が来て、その次に、その後に……。
「あっ、」
オレは十二条に思い当たって、思わず声を出してしまった。
「おや、副隊長殿は勤勉ですね。第十二条をご存知の様子」
「義兄上、第十二条って、なんなんですか」
2人の声で、会議室中の人々の視線がオレに集まる。
たら……と、手に冷や汗が溜まる。
「いや、あの、その」
「ミラー卿、今知っても後で知っても、結果は同じですよ」
ジュリアン代表に笑顔で言われ、諦めてその考えを口にする。
「ルーク様、第十二条は貴族の定義の項目だ。はっきりとは覚えていないが、多分、領地を治める者は貴族でなければならないと記されていた気がする。平民が議会に参加するのと同じで、平民なら一代限りの準男爵以上でないと、領地を預かることはできない」
なんでそんな法律があるのかというと、平民と貴族では税金が違うのだ。
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オレの言葉にポカンと口を開けて、ルーク様は目を見開く。
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焦り出したルーク様に、ジュリアン代表は笑みを深める。
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「では……」
「そ、タダ働き。骨折り損のくたびれもうけ。資産のない男に娘はやれないよなぁ。ね、ミラー卿」
イヤな笑顔を、今度はオレに向ける。
ルーク様の前では言い辛いが、確かに甲斐性のない男に妹はやらん。
オレは、ふぅと口から息を吐き出した。
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