248 / 255
最終章 こぼれ落ちた運命は
交換条件
しおりを挟む
「ルーク・デイヴィスくん。キミは離職して離籍するつもりだろうけど、そのあとどつするの?」
ジュリアン代表は、急にくだけた口調になり、にこやかにルーク様に話しかけた。
ルーク様は、一瞬戸惑ったような表情をしたが、しっかりと前を向いて答えた。
「平民となり、妻と子どもに囲まれて生活します」
「妻? キミ結婚してたっけ?」
「いえ、独身です。結婚はこれからですが」
「ふーん。平民になったあとの生活はどうするの?」
「先に目録としていただいておりますが、この度の討伐に対する褒賞を討伐隊全員いただいております。わたしも小さな領地をいただきました」
そうなのだ。
かく言うオレも褒賞はもらっている。
オレや隊員達はお金でもらっているが、ルーク様だけは領地でもらったのだ。
まあ、普通に統治していけば、食うに困らないくらいの小さな領地だが、それでも領地というのは大きな褒賞だ。
ジュリアン代表は、後ろに控えていた秘書らしき侍従から一枚の紙を受け取る。
「ふーん。王家直轄だったここの領地をもらったわけね。まあ、気候もいいし、それなりに暮らしていけるだろうね。貴族ならば」
貴族ならば。
敢えてつけた一言に、ルーク様は反応した。
「わたしは貴族ではなくなりますよ?」
ルーク様のその言葉に、ジュリアン代表はにっこりと笑顔になる。
「キミは王国法規をよく勉強していたそうですね。裁判の時の第五十四条の演説にはシビレました。しかし、他の項目は読まなかったのでしょうか? 例えば……第十二条第五項目、とか」
ルーク様は視線を泳がせた。
確かに、ルーク様が王国法規に目を通したのは、当時の生贄のことを調べていたからだ。
もちろん、五十四条あたりの王国法規はよく読み込んだが、その他を熟読しているかと言われれば、首を横に振るしかない。
多分、わからないだろうルーク様をよそに、オレも頭の中の記憶を辿る。
十二っていったら、結構最初の方に決まった法律だよな。
国王を定義するものから始まって、王室の法律が来て、その次に、その後に……。
「あっ、」
オレは十二条に思い当たって、思わず声を出してしまった。
「おや、副隊長殿は勤勉ですね。第十二条をご存知の様子」
「義兄上、第十二条って、なんなんですか」
2人の声で、会議室中の人々の視線がオレに集まる。
たら……と、手に冷や汗が溜まる。
「いや、あの、その」
「ミラー卿、今知っても後で知っても、結果は同じですよ」
ジュリアン代表に笑顔で言われ、諦めてその考えを口にする。
「ルーク様、第十二条は貴族の定義の項目だ。はっきりとは覚えていないが、多分、領地を治める者は貴族でなければならないと記されていた気がする。平民が議会に参加するのと同じで、平民なら一代限りの準男爵以上でないと、領地を預かることはできない」
なんでそんな法律があるのかというと、平民と貴族では税金が違うのだ。
領地経営の収入を鑑みて、平民と同じ税率ではダメだということだろう。
オレの言葉にポカンと口を開けて、ルーク様は目を見開く。
「貴族でないと、領地がもらえない……? なら、金貨に変えます。それを元手に生活基盤を整えます」
焦り出したルーク様に、ジュリアン代表は笑みを深める。
「もう遅いねぇ。今からの変更はできないよ」
「では……」
「そ、タダ働き。骨折り損のくたびれもうけ。資産のない男に娘はやれないよなぁ。ね、ミラー卿」
イヤな笑顔を、今度はオレに向ける。
ルーク様の前では言い辛いが、確かに甲斐性のない男に妹はやらん。
オレは、ふぅと口から息を吐き出した。
「ルーク様、貴族籍から抜けることは諦めろ。ニーナは子爵令嬢なんだ。ルーク様が貴族でも、何も問題なく嫁げる」
「しかし、継承権のない一代貴族でその後の保証がないなんて……」
真っ青になるルーク様。
対照的に、高揚していくジュリアン代表。
「おいおい、誰がキミを準男爵にするって言った? 元々、別でキミへの褒賞はもう一つ用意されている。キミは侯爵の地位を継ぐと思っていたから、不要だと思っていたんだけど、好都合。キミには伯爵位が用意されている。陞爵ではなく、叙爵になるかな。爵位のないキミなら」
にこにこと喰えない笑顔のジュリアン代表に比べ、平民となりまったりスローライフを夢見ていたルーク様は、誰が見ても「絶望」とわかるような表情をしていた。
ジュリアン代表は、急にくだけた口調になり、にこやかにルーク様に話しかけた。
ルーク様は、一瞬戸惑ったような表情をしたが、しっかりと前を向いて答えた。
「平民となり、妻と子どもに囲まれて生活します」
「妻? キミ結婚してたっけ?」
「いえ、独身です。結婚はこれからですが」
「ふーん。平民になったあとの生活はどうするの?」
「先に目録としていただいておりますが、この度の討伐に対する褒賞を討伐隊全員いただいております。わたしも小さな領地をいただきました」
そうなのだ。
かく言うオレも褒賞はもらっている。
オレや隊員達はお金でもらっているが、ルーク様だけは領地でもらったのだ。
まあ、普通に統治していけば、食うに困らないくらいの小さな領地だが、それでも領地というのは大きな褒賞だ。
ジュリアン代表は、後ろに控えていた秘書らしき侍従から一枚の紙を受け取る。
「ふーん。王家直轄だったここの領地をもらったわけね。まあ、気候もいいし、それなりに暮らしていけるだろうね。貴族ならば」
貴族ならば。
敢えてつけた一言に、ルーク様は反応した。
「わたしは貴族ではなくなりますよ?」
ルーク様のその言葉に、ジュリアン代表はにっこりと笑顔になる。
「キミは王国法規をよく勉強していたそうですね。裁判の時の第五十四条の演説にはシビレました。しかし、他の項目は読まなかったのでしょうか? 例えば……第十二条第五項目、とか」
ルーク様は視線を泳がせた。
確かに、ルーク様が王国法規に目を通したのは、当時の生贄のことを調べていたからだ。
もちろん、五十四条あたりの王国法規はよく読み込んだが、その他を熟読しているかと言われれば、首を横に振るしかない。
多分、わからないだろうルーク様をよそに、オレも頭の中の記憶を辿る。
十二っていったら、結構最初の方に決まった法律だよな。
国王を定義するものから始まって、王室の法律が来て、その次に、その後に……。
「あっ、」
オレは十二条に思い当たって、思わず声を出してしまった。
「おや、副隊長殿は勤勉ですね。第十二条をご存知の様子」
「義兄上、第十二条って、なんなんですか」
2人の声で、会議室中の人々の視線がオレに集まる。
たら……と、手に冷や汗が溜まる。
「いや、あの、その」
「ミラー卿、今知っても後で知っても、結果は同じですよ」
ジュリアン代表に笑顔で言われ、諦めてその考えを口にする。
「ルーク様、第十二条は貴族の定義の項目だ。はっきりとは覚えていないが、多分、領地を治める者は貴族でなければならないと記されていた気がする。平民が議会に参加するのと同じで、平民なら一代限りの準男爵以上でないと、領地を預かることはできない」
なんでそんな法律があるのかというと、平民と貴族では税金が違うのだ。
領地経営の収入を鑑みて、平民と同じ税率ではダメだということだろう。
オレの言葉にポカンと口を開けて、ルーク様は目を見開く。
「貴族でないと、領地がもらえない……? なら、金貨に変えます。それを元手に生活基盤を整えます」
焦り出したルーク様に、ジュリアン代表は笑みを深める。
「もう遅いねぇ。今からの変更はできないよ」
「では……」
「そ、タダ働き。骨折り損のくたびれもうけ。資産のない男に娘はやれないよなぁ。ね、ミラー卿」
イヤな笑顔を、今度はオレに向ける。
ルーク様の前では言い辛いが、確かに甲斐性のない男に妹はやらん。
オレは、ふぅと口から息を吐き出した。
「ルーク様、貴族籍から抜けることは諦めろ。ニーナは子爵令嬢なんだ。ルーク様が貴族でも、何も問題なく嫁げる」
「しかし、継承権のない一代貴族でその後の保証がないなんて……」
真っ青になるルーク様。
対照的に、高揚していくジュリアン代表。
「おいおい、誰がキミを準男爵にするって言った? 元々、別でキミへの褒賞はもう一つ用意されている。キミは侯爵の地位を継ぐと思っていたから、不要だと思っていたんだけど、好都合。キミには伯爵位が用意されている。陞爵ではなく、叙爵になるかな。爵位のないキミなら」
にこにこと喰えない笑顔のジュリアン代表に比べ、平民となりまったりスローライフを夢見ていたルーク様は、誰が見ても「絶望」とわかるような表情をしていた。
13
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる