もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
245 / 255
最終章 こぼれ落ちた運命は

6

しおりを挟む
「ど、ど、ど、ど、ど、どういうことですかっ!?」
「そこまでどもるようなことか」
「ことですよっ! 大役じゃないですかっ!」
「だから、できないと断っている」
「それでもダメなんですか?」

わたしの問いに、ルーク様は頭を抱えた。

「そもそも、オレが王族をすべて裁判に掛けて、権利剥奪をしたから、王族がいなくなったことが原因と言われた」

まあ、そりゃそうですね。

ルーク様は、国王、王太子、王女の3人の身分を剥奪し、平民と同等のものにした。
すでに他国に嫁いでいる王女と王妃は、国を越えてまで身分を剥奪しに行ったりはしないが、帰国したらこの地を踏んだだけで犯罪者だ。
帰っては来ないだろう。

我が国では、王家筋の公爵も、王城から居住を移すと同時に、王族ではないとみなされるので、一貴族でしかない。と、いうことは、国王に代わってまつりごとをするに値しないのだ。

「今まで国王の側近をしていた、大臣達ではダメなのですか?」
「今までの中枢に居た者は国王派がほとんどだ。賄賂をもらったり汚職があったことを理由に、みな別の派閥に蹴落とされている」
「じゃ、その別の派閥の人がやればいいんじゃないですか?」
「そいつらは経験が浅い。蹴落とすだけ蹴落として、責任を持つ仕事をする気概のないやつらばかりだ」
「そんな無責任な……」

だんっ!
ルーク様がテーブルを拳で叩く。

「オレがどれだけこの結婚を待っていたか知ってるか? よわい5歳で婚約してから、ずっとジーナと暮らすことを夢見てきたんだ! 一度は叶えられない夢と絶望したこともあったが、こうしてニーナと結婚できることになった。それなのに、まだ待つのか!? 22年待った。これ以上待てるか!!」

ルーク様の告白を聞いて、わたしの頬はぽーっと熱くなった。

「ルーク様、そんなに昔からわたしのことを……!」
「当たり前だろう。若い頃は素直に言えなかったが、オレはニーナを愛している! もうニーナの居ない世界では生きていけない。早く一緒に暮らしたい!」

きゃーっ!!
暑い愛の告白に、なんて言ったらいいかわからず、わたしは顔を真っ赤にして、テーブルに顔を伏せた。

「おいおい、ルーク様。他人ひとんちの庭で、うちの妹を口説くのはやめてくれないか?」

上から降って来た声に顔を上げると、お兄様が疲れた顔で空いている椅子に腰を下ろした所だった。

「すみません。素直な気持ちを吐露してしまいました」
「開き直るなよ」
「おかえりなさいませ、お兄様。今日のお仕事は終わったのですか?」
「ああ、なんとか終わって今帰ったところだよ」

お兄様が落ち着いたところを見計らって、離れた所に控えていたメイドがお兄様の分のお茶を入れに来た。

熱々の湯気が踊るティーカップをつまみ、お兄様はこくりと一口飲みくだす。

「あー、疲れた。今日はルーク様が休みだったから、その分の仕事もオレの方に回って来たんだぞ」
「そんな文句やめてくださいよ。決められた有給休暇を取っているだけなんですから」
「ま、そうだけどな」

ルーク様とお兄様は、討伐後処理のため、現在は王宮に勤めている。
文官として仕事をしているうちに、余儀なくされた人事異動などの後処理も回って来て、なんとなく、ずるずると中枢に組み込まれて行っているようだ。

「そろそろ、討伐で怪我をした兵の生活の心配もなくなってきたし、オレは王宮勤めを辞したいところなんだが」
「やめてくださいよ。義兄上が居なくなったら、オレが困るじゃないですか」
「いや、そもそも、オレは討伐が終わったら子爵家の領地経営をするから引退する予定で」
「まだミラー子爵殿はご健在なんですから、引退には早いですよ」
「あのなー。自分だって終わったらとっとと王宮から手を引くつもりのくせに、何言ってんだよー」

わたしの目から見ると、仲の良い兄弟が戯れあっているようにしか見えないけど、本人達は真剣らしい。
真剣に、どちらが先に退職するか見張りあってるみたい。

「こうなりゃ、いっせーのせで退職するか」
「あ、それいいですね」
「でも、いいのかよ。ルーク様は文官として勤めれば、平民になってもいい給料もらえるぞ」
「それは大丈夫です。今回の討伐の褒章で、王家が管理していた小さな領地をもらう予定があります。爵位のない者が統治するなど、ばかにされることもあるかと思いますが、義兄上のおかげで、ニーナと結婚することでミラー子爵家の後ろ盾をいただき、アロンからもデイヴィス侯爵家に後見してもらえる確約をとっていますので」

あら、ルーク様はいろいろ考えてくれていたのね。
そうか、領地がもらえるなら、平民でも準貴族扱いになるはず。

要は、多少の優遇はあるけど、わたしたちにかかる税金は高いということでもあるけど。

「それなら、いっせーのせ退職に踏み切るかー。いつまでもうだうだしてたら、沼から抜け出せなくなるからな」
「そうですね! そして、一気に結婚です」
「……ルーク様、あんまりがっつくなよ。クールな英雄に憧れていた娘たちに幻滅されるぞ」
「そんなことは関係ありません。結婚あるのみです」

お兄様は紅茶を飲み干し、わたしの目の前のマフィンをつまむ。
あ、ひどい! わたしのマフィン……。

「じゃ、いつ辞めてもいいように、書類をまとめとけよ。準備でき次第、退職届をた叩きつけてやる!」
「はい!」

男ふたりは、がしっと拳をぶつけ合った。
青春劇で見るあれだ。

わたしはひとりで、しらーっとお菓子を食べていた。
だって、この2人がそんなに簡単に辞められるとは思えないんだもの……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...