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最終章 こぼれ落ちた運命は
現実
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「ローゼリアさん、あなたには外交の仕事をしていただきます。ただ、お父上達との違いは、もしかしたら20年では終わらないかもしれないことです」
会議室の真ん中に立たされているわたくしは、その言葉に憤りを覚えた。
判決よりも長く働かせようと言うのか!
「どういう意味ですの?」
無意識のうちに片眉がくいっと上がる。
王女として使っていた威圧が、大臣たちに効いたようで彼らはみんな下を向き、何も言えなくなった。
しかし、その中で平気でわたくしに話し掛ける者がいた。
「ローゼリア、貴様には数年前に予定されていた通り、ペルジャ国に嫁いでもらう」
ルークは感情を表さず、滔々と述べる。
「ペルジャ国では、たった1人の王子である王太子には、未だ婚約者もいない。愛妾は何人もいるようだが、それらは生活に困って王太子に侍っている者達で、産まれてきた子も認知はしているが一切王位継承権を持たない。国内の貴族の娘達は王太子に嫁ぐことを嫌い、王家が婚姻を打診できる歳になる前に婚約を結び、婚姻できる歳になったと同時に結婚するのが近年の状態らしい」
わたくしは会ったことはないが、噂は聞いている。
前に婚約の打診が来た時に聞いたものだが、国王と王妃が歳を取ってから授かった一人息子で、甘やかし放題に育てた結果、動くこともしないため巨漢であり、仕事もしない怠け者。上手く側近を育てて政治は回るようにしてあるものの、貴族の娘は誰も王太子と結婚をしたがらず、打診をしただけで令嬢が自殺未遂をするくらい嫌われていると。
それなのに、当の本人は色事に溺れており、貴族の娘に相手にされないならばと、食うに困るような平民の娘を娶り、愛妾として何人も侍らせている。
愛妾達は、餓死するよりは王太子の相手をした方がマシと思うような者ばかり。
身分も知識もなく、側妃にすらすることができないものばかりだと。
「そっ、そんな者に、このわたくしに嫁げと言うのか!!」
激昂して声を荒げるも、ルークは微動だにしない。
「嫁げ。向こうには20年間は従順な妻となると伝えている。20年間は監視をつけ、逃げ出さないようにしても我が国からは抗議をしないと。ただ、20年経ったあとは本人の自由にさせてやって欲しいとも伝えてある。契約書も交わし、書面で確約をさせるつもりだ。もちろん、20年の間に子が産まれれば、ペルジャ国の後継となる」
ーーー!
すでに約束を交わしておると言うのか……!
「わたくしに身売りをしろと……?」
「いや、元々の道に戻しただけだ。オレとの婚約が無ければ、否応なしに嫁ぐことが決まっていただろう? こちらの婚約が白紙になったのだから、どの道嫁ぐことは決まっていた。そこに、20年という期限を儲けてやっただけ、感謝して欲しいくらいだ」
確かに、ルークとの婚約がなければ、ペルジャ国に嫁ぐことは決定事項ではあった。
しかし、わたくしとてそんな男に嫁ぎたくはなかった。
だから、ルークとの婚約を捩じ込んだというのに……!
「そうそう。王女としての身分は剥奪されているが、ペルジャ国ではそれは不問にしてくれるそうだ。元、という注釈はつくが王家の血筋をもち、王族としての教育を受けていればいいとのことだ。顔に火傷の跡があることも了承済みだ」
がたん。
わたくしは力無くその場に座り込んだ。
もう、逃げる術はないのか……?
お父様とお兄様は助けてくれないのか?
お姉様は?
お母様は?
塞ぎ込むわたくしに、ルークが歩み寄る。
「元国王と元王太子はすでに辺境の地にくだった。今は命懸けで隣国との諍いをボヤのうちに消してまわっている。頼りの第一王女と王妃は、第一王女の嫁ぎ先で大層肩身の狭い思いをしているそうだよ。後見が力を持っている側妃が第一王女の地位を脅かしているそうだ。まだ離縁に至っていないが、この先はわからない。子を成しているが、その子が王太子となれるかも不透明だ。だが、貴様がペルジャ国へ嫁ぎ、地位を確たるものにすれば、2人を助けられる道もあるのではないか?」
耳元で囁くは悪魔の囁き。
地獄へと誘う道標。
なぜわたくしが家族を救うため犠牲にならなければならないのか?
わたくしは末っ子で、みんなに可愛がられて育ったというのに。
お父様もお母様も、お兄様もお姉様も、みんなわたくしを可愛がってくださったわ。
こんな時に思い浮かぶのは、家族5人で微笑みあって過ごした時間。
「……ペルジャ国に、嫁ぎ、ま……す……!」
わたくしには、そういうことしかできなかった。
それから数日で輿入れの準備が行われ、わたくしは祖国を後にした。
平民のワンピースから一転し、元通りの豪華なドレスに身を包む。
憎きルークは、嫁いでからわたくしが侮られることのないように、ドレスや嫁入り支度を万全に整えてくれた。
魔獣火傷が見えぬよう、仮面も作ってもらった。
かつて、ルークがつけていた金のマスクに似た物を。
憎さが勝って、有り難いと思うことはできなかったが。
たくさんの嫁入り道具を持ち、王族として使っていた豪華な馬車で、わたくしは地獄へと足を踏み入れた。
会議室の真ん中に立たされているわたくしは、その言葉に憤りを覚えた。
判決よりも長く働かせようと言うのか!
「どういう意味ですの?」
無意識のうちに片眉がくいっと上がる。
王女として使っていた威圧が、大臣たちに効いたようで彼らはみんな下を向き、何も言えなくなった。
しかし、その中で平気でわたくしに話し掛ける者がいた。
「ローゼリア、貴様には数年前に予定されていた通り、ペルジャ国に嫁いでもらう」
ルークは感情を表さず、滔々と述べる。
「ペルジャ国では、たった1人の王子である王太子には、未だ婚約者もいない。愛妾は何人もいるようだが、それらは生活に困って王太子に侍っている者達で、産まれてきた子も認知はしているが一切王位継承権を持たない。国内の貴族の娘達は王太子に嫁ぐことを嫌い、王家が婚姻を打診できる歳になる前に婚約を結び、婚姻できる歳になったと同時に結婚するのが近年の状態らしい」
わたくしは会ったことはないが、噂は聞いている。
前に婚約の打診が来た時に聞いたものだが、国王と王妃が歳を取ってから授かった一人息子で、甘やかし放題に育てた結果、動くこともしないため巨漢であり、仕事もしない怠け者。上手く側近を育てて政治は回るようにしてあるものの、貴族の娘は誰も王太子と結婚をしたがらず、打診をしただけで令嬢が自殺未遂をするくらい嫌われていると。
それなのに、当の本人は色事に溺れており、貴族の娘に相手にされないならばと、食うに困るような平民の娘を娶り、愛妾として何人も侍らせている。
愛妾達は、餓死するよりは王太子の相手をした方がマシと思うような者ばかり。
身分も知識もなく、側妃にすらすることができないものばかりだと。
「そっ、そんな者に、このわたくしに嫁げと言うのか!!」
激昂して声を荒げるも、ルークは微動だにしない。
「嫁げ。向こうには20年間は従順な妻となると伝えている。20年間は監視をつけ、逃げ出さないようにしても我が国からは抗議をしないと。ただ、20年経ったあとは本人の自由にさせてやって欲しいとも伝えてある。契約書も交わし、書面で確約をさせるつもりだ。もちろん、20年の間に子が産まれれば、ペルジャ国の後継となる」
ーーー!
すでに約束を交わしておると言うのか……!
「わたくしに身売りをしろと……?」
「いや、元々の道に戻しただけだ。オレとの婚約が無ければ、否応なしに嫁ぐことが決まっていただろう? こちらの婚約が白紙になったのだから、どの道嫁ぐことは決まっていた。そこに、20年という期限を儲けてやっただけ、感謝して欲しいくらいだ」
確かに、ルークとの婚約がなければ、ペルジャ国に嫁ぐことは決定事項ではあった。
しかし、わたくしとてそんな男に嫁ぎたくはなかった。
だから、ルークとの婚約を捩じ込んだというのに……!
「そうそう。王女としての身分は剥奪されているが、ペルジャ国ではそれは不問にしてくれるそうだ。元、という注釈はつくが王家の血筋をもち、王族としての教育を受けていればいいとのことだ。顔に火傷の跡があることも了承済みだ」
がたん。
わたくしは力無くその場に座り込んだ。
もう、逃げる術はないのか……?
お父様とお兄様は助けてくれないのか?
お姉様は?
お母様は?
塞ぎ込むわたくしに、ルークが歩み寄る。
「元国王と元王太子はすでに辺境の地にくだった。今は命懸けで隣国との諍いをボヤのうちに消してまわっている。頼りの第一王女と王妃は、第一王女の嫁ぎ先で大層肩身の狭い思いをしているそうだよ。後見が力を持っている側妃が第一王女の地位を脅かしているそうだ。まだ離縁に至っていないが、この先はわからない。子を成しているが、その子が王太子となれるかも不透明だ。だが、貴様がペルジャ国へ嫁ぎ、地位を確たるものにすれば、2人を助けられる道もあるのではないか?」
耳元で囁くは悪魔の囁き。
地獄へと誘う道標。
なぜわたくしが家族を救うため犠牲にならなければならないのか?
わたくしは末っ子で、みんなに可愛がられて育ったというのに。
お父様もお母様も、お兄様もお姉様も、みんなわたくしを可愛がってくださったわ。
こんな時に思い浮かぶのは、家族5人で微笑みあって過ごした時間。
「……ペルジャ国に、嫁ぎ、ま……す……!」
わたくしには、そういうことしかできなかった。
それから数日で輿入れの準備が行われ、わたくしは祖国を後にした。
平民のワンピースから一転し、元通りの豪華なドレスに身を包む。
憎きルークは、嫁いでからわたくしが侮られることのないように、ドレスや嫁入り支度を万全に整えてくれた。
魔獣火傷が見えぬよう、仮面も作ってもらった。
かつて、ルークがつけていた金のマスクに似た物を。
憎さが勝って、有り難いと思うことはできなかったが。
たくさんの嫁入り道具を持ち、王族として使っていた豪華な馬車で、わたくしは地獄へと足を踏み入れた。
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