237 / 255
21章 責任
19
しおりを挟む
「なんだよ、なんか不都合でもあるのか?」
優雅に紅茶を飲むお兄様を見ていると、大丈夫な気がしてくるけど、そういうことではない。
「だって、わたしは普通に侯爵家にお勤めにきただけなのに、実家のお父さんお母さんだって、どう思うか……」
「まぁ、実家の方は少し揉める可能性があるな。買い物のフリして商会に行ってみたことがあるが、父親も母親も侯爵家に奉公に行った娘を自慢していたからなぁ」
お父さんとお母さん、何してるのよ!
「って、実家に行ったんですか?」
「うん。ニーナがジーナの生まれ変わりだってわかってからは、平民であるニーナをどうやって貴族にするか考えていたからな。いいご両親の元で今世も育てられたと知って、ほっとしたよ」
両親を褒められて、わたしは気付かず笑顔になる。
「はい! 本当にいい両親です。弟もいるんですよ。かわいいです」
「だから、養女にすると話に行って、簡単にOKがもらえるとは思っていないが、これだけ強いニーナの意思があれば、説得も可能だろう。だから、ルーク様は離籍することはないぞ? まぁ、侯爵家と子爵家で爵位の差は大きいが、元々デイヴィス家はミラー家と婚約の約束をしていたはずだし、王政廃止のドサクサでなんとかなるだろう」
そうしたら、わたしはルーク様のお嫁さんになれるの?
今度こそ、本当に?
貴族と平民で、しかもかつてのルーク様には婚約者がいらしたので、わたしはルーク様と結ばれることは諦めていた。
もう諦めなくてもいいの?
わたしはルーク様を振り返り、ルーク様のお顔を見た。
でも、ルーク様のお顔は予想に反して晴れやかではなかった。
「義兄上、とても嬉しい提案ですが、オレは元々討伐が成功しようが失敗しようが、離籍をするつもりでいました」
「それはなんでだ?」
「オレは討伐で命を落とすものと思われていたからです」
誰もがきっとその考えは浮かんでいた。
討伐は危険なものであると、思っていたから。
「だから、オレの弟のアロンは、次男なのに嫡男の教育を受けてきたんです。長男がいるにもかかわらず、厳しい教育を受けてきたアロンには、思うところがあるでしょう。そしてオレもまた、討伐のための教育を受けており、侯爵家嫡男としての教育はあまり受けていません。多少は受けましたよ? オレも必死に両立させようとしてきました。しかし、どう考えてもアロンに比べると圧倒的に侯爵家跡取りの勉強をした時間が足りないんです。この事実を考えた時に、オレがデイヴィス侯爵家を離籍するのが妥当だと考えました」
それは、苦渋の選択。
わたしは、ルーク様だって嫡男として努力した姿を知っている。
それでも、やはり跡取りとしての勉強を主にやっていたアロン様には敵わないのも確かだろう。
お兄様はため息を一つ吐くと、ティーカップをソーサーに戻した。
「まぁ、ルーク様がそう言うならそれでもいいさ。だが、ニーナはミラー子爵家の養女になる。それは決定だ。何しろ、父上と母上が乗り気だ。母上なんて、すでに嫁に行った長女に娘ができると手紙で知らせたために、エマから速馬でどういうことかと問い合わせの手紙がきていた」
……お母様、気が早すぎる……。
でも、商家の娘としてミラー子爵家に養女に行くなら、前世と来世の両親を、両方とも家族とすることができる。
問題がないわけではないけれど、わたしにとってとても良い事だと思えた。
ルーク様がデイヴィス家を離籍することはとても残念なことだけど、それがルーク様の決断であるなら、わたしは賛成する。
こうして、わたし達は未来に向かって歩き始めた。
幸せな、未来に向かって。
*****************
次話から最終章に突入します。
やっと。やっとです。
最初から読んでくださっていた方は、遅い更新にイライラなさっていたことでしょう。
明日は更新お休みか深夜になる予定です。
どうぞよろしくお願いします。
優雅に紅茶を飲むお兄様を見ていると、大丈夫な気がしてくるけど、そういうことではない。
「だって、わたしは普通に侯爵家にお勤めにきただけなのに、実家のお父さんお母さんだって、どう思うか……」
「まぁ、実家の方は少し揉める可能性があるな。買い物のフリして商会に行ってみたことがあるが、父親も母親も侯爵家に奉公に行った娘を自慢していたからなぁ」
お父さんとお母さん、何してるのよ!
「って、実家に行ったんですか?」
「うん。ニーナがジーナの生まれ変わりだってわかってからは、平民であるニーナをどうやって貴族にするか考えていたからな。いいご両親の元で今世も育てられたと知って、ほっとしたよ」
両親を褒められて、わたしは気付かず笑顔になる。
「はい! 本当にいい両親です。弟もいるんですよ。かわいいです」
「だから、養女にすると話に行って、簡単にOKがもらえるとは思っていないが、これだけ強いニーナの意思があれば、説得も可能だろう。だから、ルーク様は離籍することはないぞ? まぁ、侯爵家と子爵家で爵位の差は大きいが、元々デイヴィス家はミラー家と婚約の約束をしていたはずだし、王政廃止のドサクサでなんとかなるだろう」
そうしたら、わたしはルーク様のお嫁さんになれるの?
今度こそ、本当に?
貴族と平民で、しかもかつてのルーク様には婚約者がいらしたので、わたしはルーク様と結ばれることは諦めていた。
もう諦めなくてもいいの?
わたしはルーク様を振り返り、ルーク様のお顔を見た。
でも、ルーク様のお顔は予想に反して晴れやかではなかった。
「義兄上、とても嬉しい提案ですが、オレは元々討伐が成功しようが失敗しようが、離籍をするつもりでいました」
「それはなんでだ?」
「オレは討伐で命を落とすものと思われていたからです」
誰もがきっとその考えは浮かんでいた。
討伐は危険なものであると、思っていたから。
「だから、オレの弟のアロンは、次男なのに嫡男の教育を受けてきたんです。長男がいるにもかかわらず、厳しい教育を受けてきたアロンには、思うところがあるでしょう。そしてオレもまた、討伐のための教育を受けており、侯爵家嫡男としての教育はあまり受けていません。多少は受けましたよ? オレも必死に両立させようとしてきました。しかし、どう考えてもアロンに比べると圧倒的に侯爵家跡取りの勉強をした時間が足りないんです。この事実を考えた時に、オレがデイヴィス侯爵家を離籍するのが妥当だと考えました」
それは、苦渋の選択。
わたしは、ルーク様だって嫡男として努力した姿を知っている。
それでも、やはり跡取りとしての勉強を主にやっていたアロン様には敵わないのも確かだろう。
お兄様はため息を一つ吐くと、ティーカップをソーサーに戻した。
「まぁ、ルーク様がそう言うならそれでもいいさ。だが、ニーナはミラー子爵家の養女になる。それは決定だ。何しろ、父上と母上が乗り気だ。母上なんて、すでに嫁に行った長女に娘ができると手紙で知らせたために、エマから速馬でどういうことかと問い合わせの手紙がきていた」
……お母様、気が早すぎる……。
でも、商家の娘としてミラー子爵家に養女に行くなら、前世と来世の両親を、両方とも家族とすることができる。
問題がないわけではないけれど、わたしにとってとても良い事だと思えた。
ルーク様がデイヴィス家を離籍することはとても残念なことだけど、それがルーク様の決断であるなら、わたしは賛成する。
こうして、わたし達は未来に向かって歩き始めた。
幸せな、未来に向かって。
*****************
次話から最終章に突入します。
やっと。やっとです。
最初から読んでくださっていた方は、遅い更新にイライラなさっていたことでしょう。
明日は更新お休みか深夜になる予定です。
どうぞよろしくお願いします。
3
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

転生したら災難にあいましたが前世で好きだった人と再会~おまけに凄い力がありそうです
はなまる
恋愛
現代世界で天鬼組のヤクザの娘の聖龍杏奈はある日父が連れて来たロッキーという男を好きになる。だがロッキーは異世界から来た男だった。そんな時ヤクザの抗争に巻き込まれて父とロッキーが亡くなる。杏奈は天鬼組を解散して保育園で働くが保育園で事件に巻き込まれ死んでしまう。
そしていきなり異世界に転性する。
ルヴィアナ・ド・クーベリーシェという女性の身体に入ってしまった杏奈はもうこの世界で生きていくしかないと心を決める。だがルヴィアナは嫉妬深く酷い女性で婚約者から嫌われていた。何とか関係を修復させたいと努力するが婚約者に好きな人が出来てあえなく婚約解消。そしてラノベで読んだ修道院に行くことに。けれどいつの間にか違う人が婚約者になって結婚話が進んで行く。でもその人はロッキーにどことなく似ていて気になっていた人で…

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる