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21章 責任
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ぶーっっ!
お兄様がキレイな虹を描いて口に含んでいた紅茶を噴き出した。
「ル、ルーク様、なに言っちゃってんの!? 予定ではオレが帰ったあとでニーナに話すって」
「いえ。流れで」
「流れでプロポーズすんなよ!!」
2人のボケツッコミを聞きながら自分の中でルーク様の言葉を反芻する。
けっこん、ケッコン、結婚……。
「け、結婚ですかぁ!?」
わたしの声に、2人が揃ってこちらに顔を向ける。
「今頃!?」
「お兄様、だって結婚ですよ? わたし、まだ15歳ですよ?」
「もうすぐ16だろうが。それに、ジーナの時は学園を卒業したらすぐ結婚する予定だっただろう」
「そりゃ、そうですけど、実家の商会の2軒隣のキャロルちゃんだって、パン屋のユーリくんと婚約してるけど結婚はまだまだ先って言ってましたよ」
お兄様が紅茶で汚れたテーブルを拭きながらこちらを見た。
「だから、それは平民の結婚だろ? 貴族は10代で結婚なんか、珍しくもないだろうが」
「だって、わたしは平民ですも……」
平民ですもの。
そう、続くはずだった言葉は途中で切れる。
だからだ。
それゆえの離籍なんだ。
「ルーク様、もしかして、わたしと結婚するために侯爵家を離籍するということ?」
そう言っていて手が震える。
幼い頃のルーク様は、とてもがんばって勉強していた。
侯爵家嫡男としての重責は、子爵家のお気楽次女ではわからないくらい重かったと思う。
しかも、ルーク様は討伐隊を率いる義務があったから、そちらでもがんばらなければならなかった。
今、ルーク様が立派に英雄としての責務を果たし、歳若くして議会でも発言できるのは、ルーク様ががんばった成果だ。
それを、わたしなんかのために、全て棄てると言うの?
「わ、わたし……嫌です。ルーク様とは結婚しません」
それだけ言って立ちあがろうとすると、隣に座っていたルーク様が、がしっとわたしの手を掴んだ。
「逃がさないよ?」
ルーク様の麗しいお顔でそう言われたら、女の子ならキャーキャー騒ぎそうだけど、にっこりと笑うルーク様の笑顔に何故かほの暗いものを感じて、わたしは少し後ずさる。
「おいおい、ルーク様。ニーナが怖がってるから笑顔で脅すのはやめてくれ。あと、段取り全部ぶっ飛ばすのもやめてくれ。こっちにだって考えがあったんだから」
お兄様があきれたように言いながら、わたしの口にマカロンを放り込む。
「甘いもんでも食って落ち着け」
もぐもぐもぐ。うん。落ち着いた。
「でも、お兄様、わたしはルーク様が侯爵家から出るのを容認できません」
「だから、ルーク様も落ち着け」
お兄様はルーク様の口にもマカロンを放り込んだ。
「もぐ、義兄上。オレは落ち着いてますよ」
「いろいろと省略してプロポーズするところが落ち着いてないって言ってんだよ!」
お兄様は自分の口にもマカロンを入れる。
「まあ、離籍するしないはともかく、ニーナの身分に関してなら何も問題はないぞ?」
お兄様はわたしに慰謝料として渡したはずのマカロンをパクパクと自分の口に運ぶ。
うう~、追加請求してやる!
「義兄上、離籍をしないと侯爵家の身分のままでは平民のニーナとは結婚できません」
「わかってるって。だから、明日落ち着いたら話したいことがあるって、言っておいたじゃないか」
お兄様は紅茶にゆっくりと口をつけた。
「ニーナはミラー子爵家の養女に迎えようと思ってる。そうすれば、なんとか侯爵家に嫁入りできるだろう」
そっかぁ。
わたし、ミラー子爵家の養女になるのかぁ。
へー。
すごいねぇ。ニーナ、貴族になるんだねぇ……。
「って、ええーっ!! お兄様、嘘でしょう!?」
お兄様がキレイな虹を描いて口に含んでいた紅茶を噴き出した。
「ル、ルーク様、なに言っちゃってんの!? 予定ではオレが帰ったあとでニーナに話すって」
「いえ。流れで」
「流れでプロポーズすんなよ!!」
2人のボケツッコミを聞きながら自分の中でルーク様の言葉を反芻する。
けっこん、ケッコン、結婚……。
「け、結婚ですかぁ!?」
わたしの声に、2人が揃ってこちらに顔を向ける。
「今頃!?」
「お兄様、だって結婚ですよ? わたし、まだ15歳ですよ?」
「もうすぐ16だろうが。それに、ジーナの時は学園を卒業したらすぐ結婚する予定だっただろう」
「そりゃ、そうですけど、実家の商会の2軒隣のキャロルちゃんだって、パン屋のユーリくんと婚約してるけど結婚はまだまだ先って言ってましたよ」
お兄様が紅茶で汚れたテーブルを拭きながらこちらを見た。
「だから、それは平民の結婚だろ? 貴族は10代で結婚なんか、珍しくもないだろうが」
「だって、わたしは平民ですも……」
平民ですもの。
そう、続くはずだった言葉は途中で切れる。
だからだ。
それゆえの離籍なんだ。
「ルーク様、もしかして、わたしと結婚するために侯爵家を離籍するということ?」
そう言っていて手が震える。
幼い頃のルーク様は、とてもがんばって勉強していた。
侯爵家嫡男としての重責は、子爵家のお気楽次女ではわからないくらい重かったと思う。
しかも、ルーク様は討伐隊を率いる義務があったから、そちらでもがんばらなければならなかった。
今、ルーク様が立派に英雄としての責務を果たし、歳若くして議会でも発言できるのは、ルーク様ががんばった成果だ。
それを、わたしなんかのために、全て棄てると言うの?
「わ、わたし……嫌です。ルーク様とは結婚しません」
それだけ言って立ちあがろうとすると、隣に座っていたルーク様が、がしっとわたしの手を掴んだ。
「逃がさないよ?」
ルーク様の麗しいお顔でそう言われたら、女の子ならキャーキャー騒ぎそうだけど、にっこりと笑うルーク様の笑顔に何故かほの暗いものを感じて、わたしは少し後ずさる。
「おいおい、ルーク様。ニーナが怖がってるから笑顔で脅すのはやめてくれ。あと、段取り全部ぶっ飛ばすのもやめてくれ。こっちにだって考えがあったんだから」
お兄様があきれたように言いながら、わたしの口にマカロンを放り込む。
「甘いもんでも食って落ち着け」
もぐもぐもぐ。うん。落ち着いた。
「でも、お兄様、わたしはルーク様が侯爵家から出るのを容認できません」
「だから、ルーク様も落ち着け」
お兄様はルーク様の口にもマカロンを放り込んだ。
「もぐ、義兄上。オレは落ち着いてますよ」
「いろいろと省略してプロポーズするところが落ち着いてないって言ってんだよ!」
お兄様は自分の口にもマカロンを入れる。
「まあ、離籍するしないはともかく、ニーナの身分に関してなら何も問題はないぞ?」
お兄様はわたしに慰謝料として渡したはずのマカロンをパクパクと自分の口に運ぶ。
うう~、追加請求してやる!
「義兄上、離籍をしないと侯爵家の身分のままでは平民のニーナとは結婚できません」
「わかってるって。だから、明日落ち着いたら話したいことがあるって、言っておいたじゃないか」
お兄様は紅茶にゆっくりと口をつけた。
「ニーナはミラー子爵家の養女に迎えようと思ってる。そうすれば、なんとか侯爵家に嫁入りできるだろう」
そっかぁ。
わたし、ミラー子爵家の養女になるのかぁ。
へー。
すごいねぇ。ニーナ、貴族になるんだねぇ……。
「って、ええーっ!! お兄様、嘘でしょう!?」
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