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21章 責任
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ルーク様の意見に、お兄様も賛同する。
「ちょっとふざけて言ってみたが、本当のことだぞ。無償労働ではなく、強制労働に落として鉱山で穴掘りをやらせろという意見も王宮では出ていた。しかし、そんなところに温室育ちの国王や王太子を送り込んでも、数年もしないうちに死んでしまうだろう。そんなすぐに楽にはさせない。本当に身を粉にして働かせて、国民に罪を償わせないと。働いても無償労働だから給料は本人には払われない。発生した賃金に関しては、衣食に関する物だけ天引きして、あとは福祉に回される予定だ」
傍聴席の人達が、刑が軽いと怒っていたけど、これはあんまり軽くないんじゃ……。
お兄様はマカロンをパクリと口の中に放り込む。
「ま、国王と王太子はそれでいいだろう。あとはローゼリアだが……」
「処遇に困るようなら処刑してしまえばよかったんですよ」
ルーク様は苦虫を噛み潰したようにそう言う。
「オレはそれでも良かったが、多分後からルーク様は後悔するだろうよ。なあ、ニーナ」
「そうですよ、ルーク様。死んじゃったわたしが言うのもなんですけど、死んじゃうって、大変なことなんですよ? 身体は痛いし、魂になったら訳わかんなくなっちゃうし」
もぐもぐと口を動かしながら、死んだ当時のことを思い出して言うと、ルーク様とお兄様が顔を見合わせていた。
「……なんか、ニーナが言うとあんまり大変そうに聞こえないな」
「ほんとに。経験者の言葉がここまで軽いって、ある意味すごいですね。ミラー家の教育方針ってやつを、一度聞いてみたいです」
「ミラー家の問題じゃないぞ? オレだってエマだって、至って普通だ」
「じゃ、この能天気は生まれ持ってのものなんでしょうね……」
ふう。と、2人がため息をつく。
「なんなんですかっ! ひどいです! 侮辱されました! 慰謝料を請求します。このマカロンはみんなわたしのものです!」
「やるよ、マカロンくらい。まったく、死んでも食意地張ってるのは治らないんだな」
お兄様がお皿をわたしの目の前に持ってくる。
ふふ。マカロンたくさん。満足。
「ところで、ルーク様のこれからなんだけど……」
「ああ、そのことでしたらすでに両親には話してあります。アロンは反対していましたが、両親は説得できました」
説得? って、なにを説得したんだろう。
ルーク様は討伐からちゃんと帰ってきたから、侯爵家次期当主でしょう?
ひしひしと感じる嫌な予感に、わたしは耳を傾けた。
「オレは、後継をアロンに譲り、デイヴィス家から離籍します。一応、王城所属の騎士ではあるので、申請すれば騎士爵は受けられると思いますが……」
「はぁ~。やっぱりそうきたか。ルーク様ならそうすると思ったんだよな。だが、すんなり一介の騎士にはなれないと思うぞ。討伐隊の長を勤め、王政を廃止に追いやり、国民に絶大なる支持を得て。オレが騎士団長なら、そんなカリスマ性を持った部下なんか扱いにくいわ」
「そこはなんとでもできるでしょう」
2人のやり取りを聞いて、わたしは紅茶のカップを置いて思わず立ち上がった。
「ちょっと、ちょっと待ってよ! ルーク様、なんの話? なんで離籍なんて」
慌てるわたし向かい、ルーク様は微笑んだ。
「オレは、もうくだらないもののために、何も犠牲にしたくないんだ。だから、ニーナ、結婚しよう。ここから先の時間を、すべて君と一緒に過ごしたいんだ」
*****************
昨日は1話にまとめるつもりが長くなり過ぎて、2回の更新に分けました。
夜、どこまで書くか悩みながら、同じに日更新したいと慌てていたところ、最初の更新後にすぐエールをいただいて、すごく励みになりました。
更新も間に合って良かったです。
応援って、すごいですね^_^
いつもありがとうございます!
「ちょっとふざけて言ってみたが、本当のことだぞ。無償労働ではなく、強制労働に落として鉱山で穴掘りをやらせろという意見も王宮では出ていた。しかし、そんなところに温室育ちの国王や王太子を送り込んでも、数年もしないうちに死んでしまうだろう。そんなすぐに楽にはさせない。本当に身を粉にして働かせて、国民に罪を償わせないと。働いても無償労働だから給料は本人には払われない。発生した賃金に関しては、衣食に関する物だけ天引きして、あとは福祉に回される予定だ」
傍聴席の人達が、刑が軽いと怒っていたけど、これはあんまり軽くないんじゃ……。
お兄様はマカロンをパクリと口の中に放り込む。
「ま、国王と王太子はそれでいいだろう。あとはローゼリアだが……」
「処遇に困るようなら処刑してしまえばよかったんですよ」
ルーク様は苦虫を噛み潰したようにそう言う。
「オレはそれでも良かったが、多分後からルーク様は後悔するだろうよ。なあ、ニーナ」
「そうですよ、ルーク様。死んじゃったわたしが言うのもなんですけど、死んじゃうって、大変なことなんですよ? 身体は痛いし、魂になったら訳わかんなくなっちゃうし」
もぐもぐと口を動かしながら、死んだ当時のことを思い出して言うと、ルーク様とお兄様が顔を見合わせていた。
「……なんか、ニーナが言うとあんまり大変そうに聞こえないな」
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「じゃ、この能天気は生まれ持ってのものなんでしょうね……」
ふう。と、2人がため息をつく。
「なんなんですかっ! ひどいです! 侮辱されました! 慰謝料を請求します。このマカロンはみんなわたしのものです!」
「やるよ、マカロンくらい。まったく、死んでも食意地張ってるのは治らないんだな」
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ルーク様は討伐からちゃんと帰ってきたから、侯爵家次期当主でしょう?
ひしひしと感じる嫌な予感に、わたしは耳を傾けた。
「オレは、後継をアロンに譲り、デイヴィス家から離籍します。一応、王城所属の騎士ではあるので、申請すれば騎士爵は受けられると思いますが……」
「はぁ~。やっぱりそうきたか。ルーク様ならそうすると思ったんだよな。だが、すんなり一介の騎士にはなれないと思うぞ。討伐隊の長を勤め、王政を廃止に追いやり、国民に絶大なる支持を得て。オレが騎士団長なら、そんなカリスマ性を持った部下なんか扱いにくいわ」
「そこはなんとでもできるでしょう」
2人のやり取りを聞いて、わたしは紅茶のカップを置いて思わず立ち上がった。
「ちょっと、ちょっと待ってよ! ルーク様、なんの話? なんで離籍なんて」
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「オレは、もうくだらないもののために、何も犠牲にしたくないんだ。だから、ニーナ、結婚しよう。ここから先の時間を、すべて君と一緒に過ごしたいんだ」
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昨日は1話にまとめるつもりが長くなり過ぎて、2回の更新に分けました。
夜、どこまで書くか悩みながら、同じに日更新したいと慌てていたところ、最初の更新後にすぐエールをいただいて、すごく励みになりました。
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