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21章 責任
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ルーク様が席に戻り、王族の3人と国王の側近2人がルーク様達と反対の席に腰をおろした。
全員が座ったのを見計らったかのように、裁判官3人も入廷し、再びガベルが鳴らされる。
「これより、判決を言い渡します。まず、国王は身分剥奪の上、10年間の無償労働を命ずる」
国王はガタンと音を立てて席を立つ。
「なんだとっ! 誰のおかげでこれまで平和に暮らしてこれたのだと!」
「少なくともあなただけのおかげではないですね」
国王の訴えに、裁判長が淡々と返す。
「あなたは政治の場にもあまり姿を現さず、国の運営はあなたが任せた大臣たちが必死に考えて政をおこなってきたおかげです。しかし、あなたとて何もしなかった訳ではない。王の血筋のあなたが居たから成り立ったこともあるでしょう。それゆえ、この判決なのですよ。意味がわかったら、これ以上何も言わない方がいいでしょう」
裁判長の言葉の裏には、国王としてやってきた功績を評価できる部分があるから、処刑ではなく無償労働なのだという意味が隠れてるような気がする。
そして、その裏の隅には、『そこに居ただけの功績だぞ? 何か言うならその功績すらもなかったことにするぞ?』という意味も隠れていそう。
それがわかったからか、国王は悔しそうな表情で座り直した。
しかし、傍聴席に座っている人たちは、納得ができないようで、意を唱える声でザワザワとしだした。
裁判長は大きなざわめきも気にせずに、ガベルを鳴らす。
「次に、アレックス王子の処遇ですが、これもまた身分剥奪の上、無償労働3年とします」
王太子様は国王とは対照的に、ゆっくりと頭を下げてその判決を受け入れた。
そして、次の判決に移る前に、裁判長が渋い顔をする。
「最後に、王女の判決ですが、これは大変頭を悩ませるものです。ミラー卿から提出された資料は疑う余地のない内容でした。ローゼリア王女、今日裁判で公表されたことが真実なら、あなたは無償労働では済ますことができません」
ローゼリア様が、裁判長の言葉に身をこわばらせる。
「身分剥奪の上、極刑」
裁判長の声が法廷に響く。
「……と、判決を下すのが妥当と思われますが、供述から、幼少期より親に植え付けられた教えが多大に影響しているものと、わたしは考えます。実際に罪を犯したのは10代の時で、もうかなり昔の罪です。でも、だからと、言って罪が消えるわけでもありません。我が国に時効の制度はありませんから。よって、身分剥奪は変わりないが、幼少期の責任を親である国王に無償労働5年の追加、何であるアレックス王子に1年の追加とし、ローゼリア王女本人は20年の無償労働とします」
いい終わり、裁判長がガベルを一つ鳴らしたと同時に、ルーク様がガタンと大きな音を立てて立ち上がった。
「無償労働20年だって……? ジーナはこいつのせいで命を落としたのに、たった10年で解放されるなんて! オレはっ、オレは処刑を……!」
苦しそうに吐き出すようにそこまで言って、ルーク様はふと、何かに気付いたかのように傍聴席に居るわたしを振り返った。
ほんの刹那の時間、わたしたちは見つめ合う。
ルーク様、わたし、わたしのために誰かが命を落とすなんて嫌です。
例え、わたしを殺したのがローゼリア様だったとしても、わたしは彼女を殺したいとは思いません。
ルーク様にも、誰も殺めてほしくありません。
だから……だから!
心の中で一生懸命ルーク様にお願いをした。
処刑なんて、望まないでと。
そして、その意思が通じたのか、ルーク様はひとつため息をついて「なんでもありません」と言って座り直した。
「デイヴィス卿。意見があるなら聞きますよ。ミラー卿も、意義があれば今のうちに言ってください。この、法廷にいるあなたたちは意を唱えることができます。そして、もし意義があるのなら、裁判をやり直すことも可能です。二審に進みますので、結論が出るまで時間はかかりますが」
裁判長がルーク様とお兄様の方を見る。
この法廷にいる傍聴人の誰もが二審に進むと思っていた。
だけど……。
お兄様は立ち上がり、晴れやかな表情で宣言をした。
「わたしは、事実を伝えたかった。ローゼリア王女の罪をこの裁判で明かし、刑期に含んで欲しかった。それが叶ったので、意義はありません」
裁判長はそれを聞くと、にっこりと笑みを浮かべた。
「では、この3名の判決は、これで確定と致します」
カンカンカン、と大きくガベルの音がした。
全員が座ったのを見計らったかのように、裁判官3人も入廷し、再びガベルが鳴らされる。
「これより、判決を言い渡します。まず、国王は身分剥奪の上、10年間の無償労働を命ずる」
国王はガタンと音を立てて席を立つ。
「なんだとっ! 誰のおかげでこれまで平和に暮らしてこれたのだと!」
「少なくともあなただけのおかげではないですね」
国王の訴えに、裁判長が淡々と返す。
「あなたは政治の場にもあまり姿を現さず、国の運営はあなたが任せた大臣たちが必死に考えて政をおこなってきたおかげです。しかし、あなたとて何もしなかった訳ではない。王の血筋のあなたが居たから成り立ったこともあるでしょう。それゆえ、この判決なのですよ。意味がわかったら、これ以上何も言わない方がいいでしょう」
裁判長の言葉の裏には、国王としてやってきた功績を評価できる部分があるから、処刑ではなく無償労働なのだという意味が隠れてるような気がする。
そして、その裏の隅には、『そこに居ただけの功績だぞ? 何か言うならその功績すらもなかったことにするぞ?』という意味も隠れていそう。
それがわかったからか、国王は悔しそうな表情で座り直した。
しかし、傍聴席に座っている人たちは、納得ができないようで、意を唱える声でザワザワとしだした。
裁判長は大きなざわめきも気にせずに、ガベルを鳴らす。
「次に、アレックス王子の処遇ですが、これもまた身分剥奪の上、無償労働3年とします」
王太子様は国王とは対照的に、ゆっくりと頭を下げてその判決を受け入れた。
そして、次の判決に移る前に、裁判長が渋い顔をする。
「最後に、王女の判決ですが、これは大変頭を悩ませるものです。ミラー卿から提出された資料は疑う余地のない内容でした。ローゼリア王女、今日裁判で公表されたことが真実なら、あなたは無償労働では済ますことができません」
ローゼリア様が、裁判長の言葉に身をこわばらせる。
「身分剥奪の上、極刑」
裁判長の声が法廷に響く。
「……と、判決を下すのが妥当と思われますが、供述から、幼少期より親に植え付けられた教えが多大に影響しているものと、わたしは考えます。実際に罪を犯したのは10代の時で、もうかなり昔の罪です。でも、だからと、言って罪が消えるわけでもありません。我が国に時効の制度はありませんから。よって、身分剥奪は変わりないが、幼少期の責任を親である国王に無償労働5年の追加、何であるアレックス王子に1年の追加とし、ローゼリア王女本人は20年の無償労働とします」
いい終わり、裁判長がガベルを一つ鳴らしたと同時に、ルーク様がガタンと大きな音を立てて立ち上がった。
「無償労働20年だって……? ジーナはこいつのせいで命を落としたのに、たった10年で解放されるなんて! オレはっ、オレは処刑を……!」
苦しそうに吐き出すようにそこまで言って、ルーク様はふと、何かに気付いたかのように傍聴席に居るわたしを振り返った。
ほんの刹那の時間、わたしたちは見つめ合う。
ルーク様、わたし、わたしのために誰かが命を落とすなんて嫌です。
例え、わたしを殺したのがローゼリア様だったとしても、わたしは彼女を殺したいとは思いません。
ルーク様にも、誰も殺めてほしくありません。
だから……だから!
心の中で一生懸命ルーク様にお願いをした。
処刑なんて、望まないでと。
そして、その意思が通じたのか、ルーク様はひとつため息をついて「なんでもありません」と言って座り直した。
「デイヴィス卿。意見があるなら聞きますよ。ミラー卿も、意義があれば今のうちに言ってください。この、法廷にいるあなたたちは意を唱えることができます。そして、もし意義があるのなら、裁判をやり直すことも可能です。二審に進みますので、結論が出るまで時間はかかりますが」
裁判長がルーク様とお兄様の方を見る。
この法廷にいる傍聴人の誰もが二審に進むと思っていた。
だけど……。
お兄様は立ち上がり、晴れやかな表情で宣言をした。
「わたしは、事実を伝えたかった。ローゼリア王女の罪をこの裁判で明かし、刑期に含んで欲しかった。それが叶ったので、意義はありません」
裁判長はそれを聞くと、にっこりと笑みを浮かべた。
「では、この3名の判決は、これで確定と致します」
カンカンカン、と大きくガベルの音がした。
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