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21章 責任
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ルーク様が力なく笑う。
「義兄上は、ずっとこのことをオレに黙ってたんですね。ジーナが殺されたという事実を、ずっと一人で抱えてた」
「……ああ」
ルーク様が、勢いよくお兄様を仰ぎ見る。
「どうしてっ! どうして黙ってたんですか!?」
激昂するルーク様とは対照的に、お兄様は落ち着いて言葉を返す。
「そうやって、ルーク様は我を忘れるだろうと思ったからだよ」
「そんなこと!」
「協力者のモニカ嬢は死んだ。あの頃のルーク様が知ったら、ローゼリアを殺しに行っただろう?」
「それは……」
ルーク様が口籠もる。
「ルーク様。オレはな、長男なんだよ」
優しい声でお兄様が話しかけると、ルーク様はお兄様を仰ぎ見た。
「長男はな、下を守らなきゃいけないんだよ。ジーナはかわいい。傷つけられたなら仇を取りたいと思う。だがな、ジーナもかわいいがエマもかわいい。そして、義弟であるルーク様もオレにとってはかわいい義弟なんだ」
「……義兄上……」
「そりゃ、苦しかったさ。一人で誰にも言わずに抱えていくには、大きすぎることだった。ジーナの仇を取りたくても、子どものオレには出来ることは少なかった。だが、あのハンカチを拾った時に、どれだけ時間を掛かったとしても、絶対にジーナの仇を取るって決めたんだ。そして、コツコツと証拠を集めて、証人を集めて。いやあ、16年もかかっちまったなぁ」
大きく笑うお兄様を見て、ルーク様の瞳にはうっすらと涙の幕が張っているように見えた。
もうっ!
休憩時間なのに、どうしてふたりともこっちにきてくれないのよ!
わたしだって、話したいことがいっぱいあるのに。
だって、きっとお兄様は、今日この瞬間のためにいろんなものを犠牲にしてきたはずた。
本当なら、討伐隊に入る人ではなかった。
子爵家嫡男としての勉強をして、結婚をして、わたしがかつて家族の愛に包まれていたあの家で、新しい家庭を築いていたはずだ。
それを。
殺されたわたしですら知らなかった事実で、お兄様はローゼリア様に近づくため、ルーク様を守るために、討伐隊に入った。
結婚だって、まだしていない。
嫡男なら20代の初めに結婚して、子どもがいてもおかしくない。
と、いうか、いない方がおかしい。
子爵家の後継をのこすことだって、お兄様の義務だったはずだ。
それが、20代が終わっても独身だなんてありえない。
これまでのお兄様を思って、わたしの目からも涙が溢れる。
いても立ってもいられずに、お兄様とルーク様の側へと近付く。
傍聴席と法廷の間の柵に阻まれるけど、ふたりはわたしに気が付いてくれた。
「なんだなんだ? ルーク様もニーナも泣きながら。まだことは終わってないんだぞ。まだしっかりと終わるまで見とけよ。王族の犯した罪の行方を」
「わ、わかってますぅ。お兄様があんまりお兄様だから、目から汗が流れるんですもん」
こしこしとハンカチで目元を拭うと、ルーク様がこちらにやってくる。
「ニーナ、擦るな」
ルーク様はそう言うと、柵のところまでやってきて、柵越しにわたしのハンカチを手に取り、目じりをポンポンと押して拭ってくれた。
「これからは、ニーナの涙を拭うのはオレの役目だからな。ニーナは自分で拭いたらダメだ」
「~~ルーク様だって目に涙溜まってるじゃないですかぁ」
「こぼれ落ちなければいいんだよ」
「ふぇ~ん」
後から後から止めどなく溢れる涙を、ルーク様は黙って拭いてくれる。
「おいおい、ルーク様もニーナもこんなところでイチャイチャしないでくれよ」
お兄様は席から動かずに、机に頬杖をついてあきれ顔でこちらを見ていた。
「さあさあ。ルーク様もニーナも席に戻った。そろそろ休憩の終わる時間だ」
お兄様のその声に、入廷口の扉を見ると、確かにザワザワと声がする。
きっと、裁判官さん達が戻ってきたんだ。
「さぁ、ルーク様。ニーナ。最後まで瞬きもせずによく見ろよ。王族の今後がどうなるのか。どう、罪を償うのか」
いままでのおこないを、振り返る時が来たのだ。
「義兄上は、ずっとこのことをオレに黙ってたんですね。ジーナが殺されたという事実を、ずっと一人で抱えてた」
「……ああ」
ルーク様が、勢いよくお兄様を仰ぎ見る。
「どうしてっ! どうして黙ってたんですか!?」
激昂するルーク様とは対照的に、お兄様は落ち着いて言葉を返す。
「そうやって、ルーク様は我を忘れるだろうと思ったからだよ」
「そんなこと!」
「協力者のモニカ嬢は死んだ。あの頃のルーク様が知ったら、ローゼリアを殺しに行っただろう?」
「それは……」
ルーク様が口籠もる。
「ルーク様。オレはな、長男なんだよ」
優しい声でお兄様が話しかけると、ルーク様はお兄様を仰ぎ見た。
「長男はな、下を守らなきゃいけないんだよ。ジーナはかわいい。傷つけられたなら仇を取りたいと思う。だがな、ジーナもかわいいがエマもかわいい。そして、義弟であるルーク様もオレにとってはかわいい義弟なんだ」
「……義兄上……」
「そりゃ、苦しかったさ。一人で誰にも言わずに抱えていくには、大きすぎることだった。ジーナの仇を取りたくても、子どものオレには出来ることは少なかった。だが、あのハンカチを拾った時に、どれだけ時間を掛かったとしても、絶対にジーナの仇を取るって決めたんだ。そして、コツコツと証拠を集めて、証人を集めて。いやあ、16年もかかっちまったなぁ」
大きく笑うお兄様を見て、ルーク様の瞳にはうっすらと涙の幕が張っているように見えた。
もうっ!
休憩時間なのに、どうしてふたりともこっちにきてくれないのよ!
わたしだって、話したいことがいっぱいあるのに。
だって、きっとお兄様は、今日この瞬間のためにいろんなものを犠牲にしてきたはずた。
本当なら、討伐隊に入る人ではなかった。
子爵家嫡男としての勉強をして、結婚をして、わたしがかつて家族の愛に包まれていたあの家で、新しい家庭を築いていたはずだ。
それを。
殺されたわたしですら知らなかった事実で、お兄様はローゼリア様に近づくため、ルーク様を守るために、討伐隊に入った。
結婚だって、まだしていない。
嫡男なら20代の初めに結婚して、子どもがいてもおかしくない。
と、いうか、いない方がおかしい。
子爵家の後継をのこすことだって、お兄様の義務だったはずだ。
それが、20代が終わっても独身だなんてありえない。
これまでのお兄様を思って、わたしの目からも涙が溢れる。
いても立ってもいられずに、お兄様とルーク様の側へと近付く。
傍聴席と法廷の間の柵に阻まれるけど、ふたりはわたしに気が付いてくれた。
「なんだなんだ? ルーク様もニーナも泣きながら。まだことは終わってないんだぞ。まだしっかりと終わるまで見とけよ。王族の犯した罪の行方を」
「わ、わかってますぅ。お兄様があんまりお兄様だから、目から汗が流れるんですもん」
こしこしとハンカチで目元を拭うと、ルーク様がこちらにやってくる。
「ニーナ、擦るな」
ルーク様はそう言うと、柵のところまでやってきて、柵越しにわたしのハンカチを手に取り、目じりをポンポンと押して拭ってくれた。
「これからは、ニーナの涙を拭うのはオレの役目だからな。ニーナは自分で拭いたらダメだ」
「~~ルーク様だって目に涙溜まってるじゃないですかぁ」
「こぼれ落ちなければいいんだよ」
「ふぇ~ん」
後から後から止めどなく溢れる涙を、ルーク様は黙って拭いてくれる。
「おいおい、ルーク様もニーナもこんなところでイチャイチャしないでくれよ」
お兄様は席から動かずに、机に頬杖をついてあきれ顔でこちらを見ていた。
「さあさあ。ルーク様もニーナも席に戻った。そろそろ休憩の終わる時間だ」
お兄様のその声に、入廷口の扉を見ると、確かにザワザワと声がする。
きっと、裁判官さん達が戻ってきたんだ。
「さぁ、ルーク様。ニーナ。最後まで瞬きもせずによく見ろよ。王族の今後がどうなるのか。どう、罪を償うのか」
いままでのおこないを、振り返る時が来たのだ。
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