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21章 責任
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王国法規第五十四条。
健全なる国家、または行政保護の目的であれば、王族の処罰を認める。
「国王はこの法律を知っていますか?」
ルーク様は分厚い本の、あるページを開いて国王の前に差し出した。
「ここに、きちんと記載されております。ただ、この法律はこれまで執行されたことはありません。何故なら、裁判に持ってくる前に王族の強大な力を持って、訴えを起こそうとした貴族は闇に葬られたからだ。いつしか、この法律は記載されているだけで、何にも使われないものとなった。しかし、今日この日、やっと意味を持つものになる」
「それが一体なんだと言うのだ! わしは何もしておらん!」
「いいえ。あなたは魔物が魔法を使うために必要なものであると知っていた。そして、それを使うためには、魔物への生贄が必要なことも」
ルーク様が生贄の言葉を口にすると、傍聴席がざわつく。
「英雄として7つの星に指名された哀れな者を、なんの支援もせずに魔物の結界の中へ放り込み、その命を捧げさせた」
「なんの支援もなくだとっ! 支援はしておったではないかっ!」
「ええ、してくださいましたよ。討伐隊の訓練中にあなたや王太子が来て、長々と意味のない話をして訓練の邪魔をする。討伐に必要な剣が欲しいと言えば、買いたたいたナマクラを渡す。そんな、支援とも言えない支援をね」
「なんだとっ! 剣は納めた! 使えなかったのはおまえたちの腕前のせいではないかっ」
激昂する国王を見て、ルーク様の隣に座っていた大臣がぽんぽんと書類をまとめて立ち上がり、それを国王を渡す。
「陛下、それがあなたが納めてくださった剣の説明書きです。発注時の文言も聞き取り調査をして記しております」
~演劇で使うように、切れ味はともかく、ピカピカに磨き上げてくれ~
それを見た国王は大臣を睨んだ。
「そもそもっ、わしは王室典範によって護られているはずだ!」
怒り狂う国王を前に、ルーク様は落ち着いた様子で口を開いた。
「だからこそ、冒頭の王国法規第五十四条なのですよ」
訳がわかっていない国王を尻目に、お兄様が立ち上がり、何冊かの書籍を開いて国王に指し示す。
「こちらが五十四条の記載です。これは、制定されてから一度も効力を発揮しておりませんでした。制定した議会が解散した後の後任の者は、この五十四条の内容すら把握していなかったようです。何故だかわかりますか?」
「そんな何百、何十年も前の話を知る訳がないだろう」
しらばっくれているのか、本当に知らないのか。国王は憮然としたままで踏ん反り返った。
そして、今度はルーク様が国王の前に出る。
「おかしな話ですね。魔物の山に生贄を捧げることはご存じでしたのに、これを知らないなんて。これは、あなた方王族が最初に犠牲にした貴族の子どもの祖父が、息子も亡くした後で作った法律なのですよ。ミラー卿が調べたところによると、妻には先立たれ、孫も一人息子もその嫁も、王家によって闇に葬られた老齢の貴族が、反王族派の貴族に頭を下げて周り、やっとの思いで制定された法律なのです。しかし、この法律が施行されるのを見ずに、老貴族はこの世を去った。そして、今日この日までこの法律はただ王立法規全書に記載されているだけの、単なる文字だったが、やっと日の目を見ることができた」
「なんのことだ?」
わざとらしくわからないフリをする国王に、ルーク様はため息をついた。
「しらばっくれるなら教えて差し上げましょう。他国では使えない魔法が、何故我が国で使えるようになったのか。何百年も前の悲劇を」
そうして、ルーク様は魔物から聞いた話を裁判官や聴衆に向かって話した。
かつての国王が犯した罪をこの場で明らかにしたのだ。
「王族が罪を犯しても、処罰することができなかったが、この五十四条をもって、王族の処罰も可能となった。今まではその罪を明らかにする者がおらず、施行されたことはなかったが」
ルーク様は国王の目の前まで足を進める。
だんっ! と国王の前の机に右手を叩きつけると、冷たく鋭い眼差しを国王に向けた。
「貴様は王室典範になど、護られていない」
健全なる国家、または行政保護の目的であれば、王族の処罰を認める。
「国王はこの法律を知っていますか?」
ルーク様は分厚い本の、あるページを開いて国王の前に差し出した。
「ここに、きちんと記載されております。ただ、この法律はこれまで執行されたことはありません。何故なら、裁判に持ってくる前に王族の強大な力を持って、訴えを起こそうとした貴族は闇に葬られたからだ。いつしか、この法律は記載されているだけで、何にも使われないものとなった。しかし、今日この日、やっと意味を持つものになる」
「それが一体なんだと言うのだ! わしは何もしておらん!」
「いいえ。あなたは魔物が魔法を使うために必要なものであると知っていた。そして、それを使うためには、魔物への生贄が必要なことも」
ルーク様が生贄の言葉を口にすると、傍聴席がざわつく。
「英雄として7つの星に指名された哀れな者を、なんの支援もせずに魔物の結界の中へ放り込み、その命を捧げさせた」
「なんの支援もなくだとっ! 支援はしておったではないかっ!」
「ええ、してくださいましたよ。討伐隊の訓練中にあなたや王太子が来て、長々と意味のない話をして訓練の邪魔をする。討伐に必要な剣が欲しいと言えば、買いたたいたナマクラを渡す。そんな、支援とも言えない支援をね」
「なんだとっ! 剣は納めた! 使えなかったのはおまえたちの腕前のせいではないかっ」
激昂する国王を見て、ルーク様の隣に座っていた大臣がぽんぽんと書類をまとめて立ち上がり、それを国王を渡す。
「陛下、それがあなたが納めてくださった剣の説明書きです。発注時の文言も聞き取り調査をして記しております」
~演劇で使うように、切れ味はともかく、ピカピカに磨き上げてくれ~
それを見た国王は大臣を睨んだ。
「そもそもっ、わしは王室典範によって護られているはずだ!」
怒り狂う国王を前に、ルーク様は落ち着いた様子で口を開いた。
「だからこそ、冒頭の王国法規第五十四条なのですよ」
訳がわかっていない国王を尻目に、お兄様が立ち上がり、何冊かの書籍を開いて国王に指し示す。
「こちらが五十四条の記載です。これは、制定されてから一度も効力を発揮しておりませんでした。制定した議会が解散した後の後任の者は、この五十四条の内容すら把握していなかったようです。何故だかわかりますか?」
「そんな何百、何十年も前の話を知る訳がないだろう」
しらばっくれているのか、本当に知らないのか。国王は憮然としたままで踏ん反り返った。
そして、今度はルーク様が国王の前に出る。
「おかしな話ですね。魔物の山に生贄を捧げることはご存じでしたのに、これを知らないなんて。これは、あなた方王族が最初に犠牲にした貴族の子どもの祖父が、息子も亡くした後で作った法律なのですよ。ミラー卿が調べたところによると、妻には先立たれ、孫も一人息子もその嫁も、王家によって闇に葬られた老齢の貴族が、反王族派の貴族に頭を下げて周り、やっとの思いで制定された法律なのです。しかし、この法律が施行されるのを見ずに、老貴族はこの世を去った。そして、今日この日までこの法律はただ王立法規全書に記載されているだけの、単なる文字だったが、やっと日の目を見ることができた」
「なんのことだ?」
わざとらしくわからないフリをする国王に、ルーク様はため息をついた。
「しらばっくれるなら教えて差し上げましょう。他国では使えない魔法が、何故我が国で使えるようになったのか。何百年も前の悲劇を」
そうして、ルーク様は魔物から聞いた話を裁判官や聴衆に向かって話した。
かつての国王が犯した罪をこの場で明らかにしたのだ。
「王族が罪を犯しても、処罰することができなかったが、この五十四条をもって、王族の処罰も可能となった。今まではその罪を明らかにする者がおらず、施行されたことはなかったが」
ルーク様は国王の目の前まで足を進める。
だんっ! と国王の前の机に右手を叩きつけると、冷たく鋭い眼差しを国王に向けた。
「貴様は王室典範になど、護られていない」
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