もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
224 / 255
21章 責任

裁判を控えて

しおりを挟む

裁判院からの命を受けたオレは、王族達が乗る馬車を先導しながら城門をくぐった。

本当なら、このまま裁判院に連れて行くつもりだったが、民衆から投げつけられた腐った卵や訳の分からん汚物で汚れた者たちを、副隊長という地位を冠するオレが私怨のまま奴らを哀れな姿で連れて行くわけにはいかなかった。


第四騎士団の隊長に、裁判院で待つルーク様に遅れると伝令を出してもらった。


しかし、民衆もストレスが溜まっていたのだろうな。
何も言わずに耐えていたが、真実を知った途端、このような暴挙に出るとは。

オレは騎士たちと城に使えるメイドたちに指示を出し、王族達を風呂に入れてやるようにした。

逃走のおそれがあるため、見張りは王族1人につき3人以上付くようにと言ってある。

そして、もちろん、一人で入浴ができない王族の介助は、侍女ではなく下級メイドにしてもらうことにする。
貴族出身である侍女は、王族の息がかかっていて、逃走の手助けをする可能性があるからだ。

まあ、慣れていないメイドであっても、汚れたまま裁判院の牢で過ごすことを考えれば王族どもも耐えられるだろう。

オレは奴らを城の者に任せ、王宮編纂室へと足を運んだ。
ここは、王宮の歴史を正しく刻むためにある部署で、今回の裁判に使う資料はここから調達した。

王家の恥はもちろん、悪行も記録されている歴史書がここには存在した。
だが、もちろんそんな物は陽の目を見ないように、国王と宰相のみが持つ二つの鍵がないと開かない仕組みになっている、編纂室の奥にある隠し扉の書庫に隠されていた。
オレは、宰相を説得おどして、宰相の持つ鍵を、国王が逃亡した後に、国王の書斎に入り込んで鍵を見つけたのだ。

鍵のかかった書庫に入ったのは初めてだったが、思うより綺麗に整理された歴史書を探すのは簡単だった。
そして、魔物が言った通りの出来事が、史実として書き残されていた。

それらの証拠物件を両手に抱えて書庫から出る。
書庫の隣の手狭な執務室の机へと歴史書を置くと、新聞記者のチャーリーが部屋に入ってきた。

「これはミラー副隊長殿。これから裁判院に証拠の提出ですか?」

まだ年若い風貌のチャーリーは、実はもうすぐ40歳になるという。オレと同じくらいの歳だと思っていたのだが、童顔っておそろしいな。これならいくらでも歳を誤魔化せる。

「ああ、裁判院にはルーク様がいるからな。あいつは討伐が終わったというのに、これが片付くまでは安心できないと、屋敷に帰らないからなぁ」

オレが肩をすくめると、チャーリーはクスクスと笑い出す。

「本当に、ディヴィス卿と仲がよろしいのですね」
「まぁ、弟みたいなもんだからな」
「侯爵家嫡男と子爵家嫡男が兄弟のようとは、また不思議ですが、副隊長の面倒見の良さならそれもあり得るのでしょうね」

平民のチャーリーは知らない。
ルーク様の婚約者であったジーナのことを。
もう、貴族の世界でも、ジーナがルーク様の婚約者だったことを覚えている者も多くないだろう。

「……そうだな」

チャーリーの言葉にオレは目を閉じる。

このチャーリーという平民の新聞記者は、魔物に国を追われたり、他の災害が起こった時にいち早く知らせるために民間の新聞記者を王宮に入れるという新しい試みとして数年前から城に出入りできるようになった者だ。
発案はルーク様で、それを良い案だとばかりにゴリ押しして議会の承認をもぎ取ったのはオレだ。
閉じられた王家の門を打ち破るような存在が欲しかった。

オレは王家のことを調べようと王宮編纂室によく出入りをしていたのだが、そこでチャーリーと知り合った。
2人で編纂室の資料を読み漁り、鍵のかかった書庫を突き止めるまでは大変な苦労があった。

「そういえば、特ダネをありがとうございました。副隊長殿からいただいた情報を元に、海辺の街を我が社の記者数人で張らせて、今回の王族の暴挙を暴くことができました。それに、王族の歴史書だけでは埋められない史実を、実際に魔物に会った副隊長殿から話を聞くことができて、とても真実味のある記事を書くことができました」

野心家であるチャーリーは、不敬罪などなんのその。バンバン王家のスキャンダルを暴いている。

「いや、こちらこそ助かったよ。王女が脱出する時の御者に選ばれた少年は、ことが済んだら殺されるところだった。君たちが助けてくれなかったら、あの少年も危ないところだった」
「それは副隊長殿の手柄でしょう。我々が王家関係者が孤児と接触を持っていると情報を流しただけなのに、数人の騎士を貸してくださったから、助けに入る事ができたのです。まったく、平民のオレなんかの言葉も真剣に聞いてくださり、あなたのような貴族は珍しいですよ」
「おだててもこれ以上は特ダネを提供できないぞ」
「嫌ですね、本当のことですよ。これで王家が潰れた時に、あなたのような方が王になってくださるとオレ達平民は安泰なのですが」
「しがない子爵家のオレが政治などできるはずもない。夢物語にすらならないな」

オレが肩をすくめると、チャーリーは残念と言って少し笑った。

「今日は移動に時間が掛かった。王族も疲れが酷く、裁判に立てる状況ではなくなったので裁判は明朝から開かれることになった。チャーリーも
明日に備えて早く帰って休め」
「そうですね。明日は目を皿のように、耳をスープボウルのようにして裁判を傍聴しますよ」
「スープボウル? なんだそりゃ」
「なんとなく、音が耳に集まってきそうな気がしませんか?」
「隣の部屋の話を盗み聞きするときに、コップを耳にあてるようなもんか?」
「そんなもんです。コップより、間口の広いスープボウルの方が大きい分たくさん情報が入ってくるでしょう」
「よくわからんが、とにかく正確な情報を記事にしてくれよな」
「もちろんです」

そしてオレ達は明日の裁判のために、資料をまとめて、裁判で提出する資料の最終チェックをして家に帰った。



*****************

久しぶりの更新でございます。
あと少しで物語が終わりますので、今しばらくお付き合いくださいませ。。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...