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21章 責任
裁判を控えて
しおりを挟む裁判院からの命を受けたオレは、王族達が乗る馬車を先導しながら城門をくぐった。
本当なら、このまま裁判院に連れて行くつもりだったが、民衆から投げつけられた腐った卵や訳の分からん汚物で汚れた者たちを、副隊長という地位を冠するオレが私怨のまま奴らを哀れな姿で連れて行くわけにはいかなかった。
第四騎士団の隊長に、裁判院で待つルーク様に遅れると伝令を出してもらった。
しかし、民衆もストレスが溜まっていたのだろうな。
何も言わずに耐えていたが、真実を知った途端、このような暴挙に出るとは。
オレは騎士たちと城に使えるメイドたちに指示を出し、王族達を風呂に入れてやるようにした。
逃走のおそれがあるため、見張りは王族1人につき3人以上付くようにと言ってある。
そして、もちろん、一人で入浴ができない王族の介助は、侍女ではなく下級メイドにしてもらうことにする。
貴族出身である侍女は、王族の息がかかっていて、逃走の手助けをする可能性があるからだ。
まあ、慣れていないメイドであっても、汚れたまま裁判院の牢で過ごすことを考えれば王族どもも耐えられるだろう。
オレは奴らを城の者に任せ、王宮編纂室へと足を運んだ。
ここは、王宮の歴史を正しく刻むためにある部署で、今回の裁判に使う資料はここから調達した。
王家の恥はもちろん、悪行も記録されている歴史書がここには存在した。
だが、もちろんそんな物は陽の目を見ないように、国王と宰相のみが持つ二つの鍵がないと開かない仕組みになっている、編纂室の奥にある隠し扉の書庫に隠されていた。
オレは、宰相を説得して、宰相の持つ鍵を貸していただき、国王が逃亡した後に、国王の書斎に入り込んで鍵を見つけたのだ。
鍵のかかった書庫に入ったのは初めてだったが、思うより綺麗に整理された歴史書を探すのは簡単だった。
そして、魔物が言った通りの出来事が、史実として書き残されていた。
それらの証拠物件を両手に抱えて書庫から出る。
書庫の隣の手狭な執務室の机へと歴史書を置くと、新聞記者のチャーリーが部屋に入ってきた。
「これはミラー副隊長殿。これから裁判院に証拠の提出ですか?」
まだ年若い風貌のチャーリーは、実はもうすぐ40歳になるという。オレと同じくらいの歳だと思っていたのだが、童顔っておそろしいな。これならいくらでも歳を誤魔化せる。
「ああ、裁判院にはルーク様がいるからな。あいつは討伐が終わったというのに、これが片付くまでは安心できないと、屋敷に帰らないからなぁ」
オレが肩をすくめると、チャーリーはクスクスと笑い出す。
「本当に、ディヴィス卿と仲がよろしいのですね」
「まぁ、弟みたいなもんだからな」
「侯爵家嫡男と子爵家嫡男が兄弟のようとは、また不思議ですが、副隊長の面倒見の良さならそれもあり得るのでしょうね」
平民のチャーリーは知らない。
ルーク様の婚約者であったジーナのことを。
もう、貴族の世界でも、ジーナがルーク様の婚約者だったことを覚えている者も多くないだろう。
「……そうだな」
チャーリーの言葉にオレは目を閉じる。
このチャーリーという平民の新聞記者は、魔物に国を追われたり、他の災害が起こった時にいち早く知らせるために民間の新聞記者を王宮に入れるという新しい試みとして数年前から城に出入りできるようになった者だ。
発案はルーク様で、それを良い案だとばかりにゴリ押しして議会の承認をもぎ取ったのはオレだ。
閉じられた王家の門を打ち破るような存在が欲しかった。
オレは王家のことを調べようと王宮編纂室によく出入りをしていたのだが、そこでチャーリーと知り合った。
2人で編纂室の資料を読み漁り、鍵のかかった書庫を突き止めるまでは大変な苦労があった。
「そういえば、特ダネをありがとうございました。副隊長殿からいただいた情報を元に、海辺の街を我が社の記者数人で張らせて、今回の王族の暴挙を暴くことができました。それに、王族の歴史書だけでは埋められない史実を、実際に魔物に会った副隊長殿から話を聞くことができて、とても真実味のある記事を書くことができました」
野心家であるチャーリーは、不敬罪などなんのその。バンバン王家のスキャンダルを暴いている。
「いや、こちらこそ助かったよ。王女が脱出する時の御者に選ばれた少年は、ことが済んだら殺されるところだった。君たちが助けてくれなかったら、あの少年も危ないところだった」
「それは副隊長殿の手柄でしょう。我々が王家関係者が孤児と接触を持っていると情報を流しただけなのに、数人の騎士を貸してくださったから、助けに入る事ができたのです。まったく、平民のオレなんかの言葉も真剣に聞いてくださり、あなたのような貴族は珍しいですよ」
「おだててもこれ以上は特ダネを提供できないぞ」
「嫌ですね、本当のことですよ。これで王家が潰れた時に、あなたのような方が王になってくださるとオレ達平民は安泰なのですが」
「しがない子爵家のオレが政治などできるはずもない。夢物語にすらならないな」
オレが肩をすくめると、チャーリーは残念と言って少し笑った。
「今日は移動に時間が掛かった。王族も疲れが酷く、裁判に立てる状況ではなくなったので裁判は明朝から開かれることになった。チャーリーも
明日に備えて早く帰って休め」
「そうですね。明日は目を皿のように、耳をスープボウルのようにして裁判を傍聴しますよ」
「スープボウル? なんだそりゃ」
「なんとなく、音が耳に集まってきそうな気がしませんか?」
「隣の部屋の話を盗み聞きするときに、コップを耳にあてるようなもんか?」
「そんなもんです。コップより、間口の広いスープボウルの方が大きい分たくさん情報が入ってくるでしょう」
「よくわからんが、とにかく正確な情報を記事にしてくれよな」
「もちろんです」
そしてオレ達は明日の裁判のために、資料をまとめて、裁判で提出する資料の最終チェックをして家に帰った。
*****************
久しぶりの更新でございます。
あと少しで物語が終わりますので、今しばらくお付き合いくださいませ。。
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