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21章 責任
護送
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「騎士団が……? どういうことだ?」
お兄様がつぶやくように言い、わたくし達が訳もわからずに顔を見合わせていると、廊下が騒がしくなってきた。
「おやめください! ここは王族の別荘ですよ!」
「勝手にお入りにならないでください!」
侍従や侍女達の声がして、幾人もの人間の足音が聞こえて来る。
そのうちに、足音はこの部屋の扉の前までやってきた。
ばんっ!!
勢いよく、ドアが開け放たれる。
そこには、ルークの副官である、なんとかいう副隊長を先頭に、武装した騎士団と役所の文官らしき者が廊下狭しと押し寄せていた。
お兄様がわたくし達を庇うようにして、前へ出る。
「ミラー卿! 貴様、何様のつもりだ! ここは王女ローゼリアの部屋であり、陛下の御前であるぞ!」
すると、ミラー卿と呼ばれた副隊長は、口角を上げて笑みを作った。
「もちろん、承知した上での行動ですよ。王族であるあなた方3人には、これから裁判を受けていただかなくてはならないので、ここが王族の部屋であろうとなかろうと、わたしたちは裁判院の命により踏み込まなくてはならないのです」
「……っ、裁判だとっ」
「はい。民を守るという王族の責務を果たしていないこと。魔物や魔獣の発生を抑える術をしりつつ、兵として志願した民を殺し続けたこと。また、今回のことで言えば、少年の御者を仕事が終わった後に殺すため拉致したこと。そして、過去に遡れば子爵令嬢を罠に嵌めてその命を奪ったこと」
言い終わるとミラー卿の瞳が、仄暗く光る。
「さあ、言い訳なら裁判でしてもらいましょうか」
ミラー卿が手を上げて合図をすると、騎士たちがわたくし達を拘束した。
「何をする! 我は国王であるぞ! 自国の王に手をあげるか!」
お父様が声を荒げるが、騎士たちは無表情でわたくし達の手に縄をかけた。
この騎士たちの顔を見たことがない。
おそらく、第4騎士団あたりの者だろう。
近衛であれば、言うことを聞かせられたのに。
「こ、国王に縄をかけるとは……!」
「王太子であるオレがこんな屈辱を……!」
お父様とお兄様は呆然とその様子を見ていた。
わたくしも何がなんだかわからない。
何故、こんな目に合わなければならないのか。
騎士たちに引っ立てられて別荘の外に出と、高くしっかりと閉められていたはずの門は開け放たれて、平民たちが中を覗き込んでいた。
下賤の目にわたくしの姿を見せるなんて業腹だが、今は従うしかない。
言われるがままに歩いていくと、数台の馬車が見えてきたがあれは……。
わたくしが馬車を見たと同時にお兄様の声がする。
「おい、なんだあれは」
「なんだ、と申しますのは?」
ミラー卿が太々しく振り返る。
「ふざけるなっ! あれは王家がパレードの時に使う馬車ではないか!」
「さようでございます。国民にも我々の王がどのような方か、見てもらいたいと思いましたのでオープンタイプの馬車を用意しました。いいですね、王族のみなさん。あなた方の行いが国民にどう反映しているのか、確認するチャンスが得られて」
仕方なしに、わたくし達は馬車に乗り込んだ。
その馬車の前後を馬に乗った騎士たちが見張るようについてくる。
囚人の護送車を先導する隊列に、国民達が沿道に集まった。
しかし、何か祝い事があった時にするパレードと違い、沿道の国民の目には憎しみがこもっていた。
ガラガラと、無機質に馬車が進む音がする。
この馬車に乗る時は晴れやかな気分で国民に手を振るのに、今日、わたくし達は俯いたままだ。
それに、わたくしは顔の火傷をショールで隠すようにしている。
「来たぞ! あれが国王だ」
「魔獣発生の根源」
「知ってて魔物討伐に力を入れるあたしらを嘲笑ってたんだろうよ」
「結界は完全じゃないんだ。逃げ出した魔獣のせいで、オレ達が被害に合っても知らん顔するとは、それでも統治者かっ!」
沿道からぶつけられる悪意の塊り。
一層背を縮めていると、顔に何かがぶつけられた。
ぶつかったそれは、わたくしの顔で弾けて割れ、とてつもない悪臭を放った。
「なに……?」
ショールを外し、顔にべったりと張り付いたものを取ってみると、悪臭を放つ液体の中に、白い破片がこびり付いている。
「腐った卵……」
わたくしが呆然と手の中の卵のからを見ていると、お兄様が馬車の座席から立ち上がった。
「誰だっ! 今、ローゼリアに卵を投げたやつは誰だ! 出てこい! 死刑にしてくれる!」
国民達を威嚇するも、お兄様のその言葉は逆効果だった。
「聞いたかよ、死刑にするってよ」
「できるもんならやってみな! あたしらはあんたら王族のおもちゃじゃないんだよ」
「なあ、王女サマってのは綺麗な人って話じゃなかったか? あの顔見たかよ」
「見たぜ。あれだろう? 魔獣がオレたちを喰ってる間に逃げようとして、逆に自分が魔獣にやられたってやつ」
嘲笑う声が聞こえる。
「どうした? ほら、死刑にすんだろ」
沿道の国民の中には、家にとって返して卵を持ってくる者が現れた。
道の両側から卵を投げられ、わたくしはもちろん、お兄様もお父様も卵まみれになる。
「や、やめろ!」
「はん! 誰がやめるもんか! オレ達の苦しみは、こんなもんじゃないんだ!」
一層多くの卵が投げつけられ、中には小石を投げる者も出てきた。
額に衝撃を感じ、指で撫でると血がついている。
投げつけられた石で額を切ったのだ。
それを見ていた騎士が、民をなだめる。
「まだ裁判も始まっていない。その前に死んでしまっては、罪を暴けないぞ」
騎士のその言葉で、石を投げる者はいなくなったが、罵詈雑言と悪意はとめどなく投げつけられた。
何故、わたくしがこんな目に……?
王家に生まれた選ばれし者がこのような目に合うとは。
これは夢よ。
魔獣に襲われた恐怖で、悪夢を見ているに違いない。
ああ、早く目を覚さなければ。
早く目を覚まして、窓の外を見よう。
きっと、素晴らしい朝に、別荘の門の外では国民が魔獣に喰われているに違いない。
選ばれしわたくしは、それを見ながら優雅に食事をしよう。
だって、わたくしの為にあるのは、輝かしい未来だけなのだから。
お兄様がつぶやくように言い、わたくし達が訳もわからずに顔を見合わせていると、廊下が騒がしくなってきた。
「おやめください! ここは王族の別荘ですよ!」
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侍従や侍女達の声がして、幾人もの人間の足音が聞こえて来る。
そのうちに、足音はこの部屋の扉の前までやってきた。
ばんっ!!
勢いよく、ドアが開け放たれる。
そこには、ルークの副官である、なんとかいう副隊長を先頭に、武装した騎士団と役所の文官らしき者が廊下狭しと押し寄せていた。
お兄様がわたくし達を庇うようにして、前へ出る。
「ミラー卿! 貴様、何様のつもりだ! ここは王女ローゼリアの部屋であり、陛下の御前であるぞ!」
すると、ミラー卿と呼ばれた副隊長は、口角を上げて笑みを作った。
「もちろん、承知した上での行動ですよ。王族であるあなた方3人には、これから裁判を受けていただかなくてはならないので、ここが王族の部屋であろうとなかろうと、わたしたちは裁判院の命により踏み込まなくてはならないのです」
「……っ、裁判だとっ」
「はい。民を守るという王族の責務を果たしていないこと。魔物や魔獣の発生を抑える術をしりつつ、兵として志願した民を殺し続けたこと。また、今回のことで言えば、少年の御者を仕事が終わった後に殺すため拉致したこと。そして、過去に遡れば子爵令嬢を罠に嵌めてその命を奪ったこと」
言い終わるとミラー卿の瞳が、仄暗く光る。
「さあ、言い訳なら裁判でしてもらいましょうか」
ミラー卿が手を上げて合図をすると、騎士たちがわたくし達を拘束した。
「何をする! 我は国王であるぞ! 自国の王に手をあげるか!」
お父様が声を荒げるが、騎士たちは無表情でわたくし達の手に縄をかけた。
この騎士たちの顔を見たことがない。
おそらく、第4騎士団あたりの者だろう。
近衛であれば、言うことを聞かせられたのに。
「こ、国王に縄をかけるとは……!」
「王太子であるオレがこんな屈辱を……!」
お父様とお兄様は呆然とその様子を見ていた。
わたくしも何がなんだかわからない。
何故、こんな目に合わなければならないのか。
騎士たちに引っ立てられて別荘の外に出と、高くしっかりと閉められていたはずの門は開け放たれて、平民たちが中を覗き込んでいた。
下賤の目にわたくしの姿を見せるなんて業腹だが、今は従うしかない。
言われるがままに歩いていくと、数台の馬車が見えてきたがあれは……。
わたくしが馬車を見たと同時にお兄様の声がする。
「おい、なんだあれは」
「なんだ、と申しますのは?」
ミラー卿が太々しく振り返る。
「ふざけるなっ! あれは王家がパレードの時に使う馬車ではないか!」
「さようでございます。国民にも我々の王がどのような方か、見てもらいたいと思いましたのでオープンタイプの馬車を用意しました。いいですね、王族のみなさん。あなた方の行いが国民にどう反映しているのか、確認するチャンスが得られて」
仕方なしに、わたくし達は馬車に乗り込んだ。
その馬車の前後を馬に乗った騎士たちが見張るようについてくる。
囚人の護送車を先導する隊列に、国民達が沿道に集まった。
しかし、何か祝い事があった時にするパレードと違い、沿道の国民の目には憎しみがこもっていた。
ガラガラと、無機質に馬車が進む音がする。
この馬車に乗る時は晴れやかな気分で国民に手を振るのに、今日、わたくし達は俯いたままだ。
それに、わたくしは顔の火傷をショールで隠すようにしている。
「来たぞ! あれが国王だ」
「魔獣発生の根源」
「知ってて魔物討伐に力を入れるあたしらを嘲笑ってたんだろうよ」
「結界は完全じゃないんだ。逃げ出した魔獣のせいで、オレ達が被害に合っても知らん顔するとは、それでも統治者かっ!」
沿道からぶつけられる悪意の塊り。
一層背を縮めていると、顔に何かがぶつけられた。
ぶつかったそれは、わたくしの顔で弾けて割れ、とてつもない悪臭を放った。
「なに……?」
ショールを外し、顔にべったりと張り付いたものを取ってみると、悪臭を放つ液体の中に、白い破片がこびり付いている。
「腐った卵……」
わたくしが呆然と手の中の卵のからを見ていると、お兄様が馬車の座席から立ち上がった。
「誰だっ! 今、ローゼリアに卵を投げたやつは誰だ! 出てこい! 死刑にしてくれる!」
国民達を威嚇するも、お兄様のその言葉は逆効果だった。
「聞いたかよ、死刑にするってよ」
「できるもんならやってみな! あたしらはあんたら王族のおもちゃじゃないんだよ」
「なあ、王女サマってのは綺麗な人って話じゃなかったか? あの顔見たかよ」
「見たぜ。あれだろう? 魔獣がオレたちを喰ってる間に逃げようとして、逆に自分が魔獣にやられたってやつ」
嘲笑う声が聞こえる。
「どうした? ほら、死刑にすんだろ」
沿道の国民の中には、家にとって返して卵を持ってくる者が現れた。
道の両側から卵を投げられ、わたくしはもちろん、お兄様もお父様も卵まみれになる。
「や、やめろ!」
「はん! 誰がやめるもんか! オレ達の苦しみは、こんなもんじゃないんだ!」
一層多くの卵が投げつけられ、中には小石を投げる者も出てきた。
額に衝撃を感じ、指で撫でると血がついている。
投げつけられた石で額を切ったのだ。
それを見ていた騎士が、民をなだめる。
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