もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
223 / 255
21章 責任

護送

しおりを挟む
「騎士団が……? どういうことだ?」

お兄様がつぶやくように言い、わたくし達が訳もわからずに顔を見合わせていると、廊下が騒がしくなってきた。

「おやめください! ここは王族の別荘ですよ!」
「勝手にお入りにならないでください!」

侍従や侍女達の声がして、幾人もの人間の足音が聞こえて来る。

そのうちに、足音はこの部屋の扉の前までやってきた。

ばんっ!!

勢いよく、ドアが開け放たれる。

そこには、ルークの副官である、なんとかいう副隊長を先頭に、武装した騎士団と役所の文官らしき者が廊下狭しと押し寄せていた。

お兄様がわたくし達を庇うようにして、前へ出る。

「ミラー卿! 貴様、何様のつもりだ! ここは王女ローゼリアの部屋であり、陛下の御前であるぞ!」

すると、ミラー卿と呼ばれた副隊長は、口角を上げて笑みを作った。

「もちろん、承知した上での行動ですよ。王族であるあなた方3人には、これから裁判を受けていただかなくてはならないので、ここが王族の部屋であろうとなかろうと、わたしたちは裁判院の命により踏み込まなくてはならないのです」

「……っ、裁判だとっ」

「はい。民を守るという王族の責務を果たしていないこと。魔物や魔獣の発生を抑える術をしりつつ、兵として志願した民を殺し続けたこと。また、今回のことで言えば、少年の御者を仕事が終わった後に殺すため拉致したこと。そして、過去に遡れば子爵令嬢を罠に嵌めてその命を奪ったこと」

言い終わるとミラー卿の瞳が、仄暗く光る。

「さあ、言い訳なら裁判でしてもらいましょうか」

ミラー卿が手を上げて合図をすると、騎士たちがわたくし達を拘束した。

「何をする! 我は国王であるぞ! 自国の王に手をあげるか!」

お父様が声を荒げるが、騎士たちは無表情でわたくし達の手に縄をかけた。
この騎士たちの顔を見たことがない。
おそらく、第4騎士団あたりの者だろう。
近衛であれば、言うことを聞かせられたのに。

「こ、国王に縄をかけるとは……!」
「王太子であるオレがこんな屈辱を……!」

お父様とお兄様は呆然とその様子を見ていた。
わたくしも何がなんだかわからない。
何故、こんな目に合わなければならないのか。

騎士たちに引っ立てられて別荘の外に出と、高くしっかりと閉められていたはずの門は開け放たれて、平民たちが中を覗き込んでいた。

下賤の目にわたくしの姿を見せるなんて業腹だが、今は従うしかない。

言われるがままに歩いていくと、数台の馬車が見えてきたがあれは……。

わたくしが馬車を見たと同時にお兄様の声がする。

「おい、なんだあれは」
「なんだ、と申しますのは?」

ミラー卿が太々ふてぶてしく振り返る。

「ふざけるなっ! あれは王家がパレードの時に使う馬車ではないか!」
「さようでございます。国民にも我々の王がどのような方か、見てもらいたいと思いましたのでオープンタイプの馬車を用意しました。いいですね、王族のみなさん。あなた方の行いが国民にどう反映しているのか、確認するチャンスが得られて」

仕方なしに、わたくし達は馬車に乗り込んだ。

その馬車の前後を馬に乗った騎士たちが見張るようについてくる。

囚人の護送車を先導する隊列に、国民達が沿道に集まった。
しかし、何か祝い事があった時にするパレードと違い、沿道の国民の目には憎しみがこもっていた。

ガラガラと、無機質に馬車が進む音がする。

この馬車に乗る時は晴れやかな気分で国民に手を振るのに、今日、わたくし達は俯いたままだ。
それに、わたくしは顔の火傷をショールで隠すようにしている。

「来たぞ! あれが国王だ」
「魔獣発生の根源」
「知ってて魔物討伐に力を入れるあたしらを嘲笑ってたんだろうよ」
「結界は完全じゃないんだ。逃げ出した魔獣のせいで、オレ達が被害に合っても知らん顔するとは、それでも統治者かっ!」

沿道からぶつけられる悪意のかたまり。

一層背を縮めていると、顔に何かがぶつけられた。

ぶつかったそれは、わたくしの顔で弾けて割れ、とてつもない悪臭を放った。

「なに……?」

ショールを外し、顔にべったりと張り付いたものを取ってみると、悪臭を放つ液体の中に、白い破片がこびり付いている。

「腐った卵……」

わたくしが呆然と手の中の卵のからを見ていると、お兄様が馬車の座席から立ち上がった。

「誰だっ! 今、ローゼリアに卵を投げたやつは誰だ! 出てこい! 死刑にしてくれる!」

国民達を威嚇するも、お兄様のその言葉は逆効果だった。

「聞いたかよ、死刑にするってよ」
「できるもんならやってみな! あたしらはあんたら王族のおもちゃじゃないんだよ」
「なあ、王女サマってのは綺麗な人って話じゃなかったか? あの顔見たかよ」
「見たぜ。あれだろう? 魔獣がオレたちを喰ってる間に逃げようとして、逆に自分が魔獣にやられたってやつ」

嘲笑う声が聞こえる。

「どうした? ほら、死刑にすんだろ」

沿道の国民の中には、家にとって返して卵を持ってくる者が現れた。

道の両側から卵を投げられ、わたくしはもちろん、お兄様もお父様も卵まみれになる。

「や、やめろ!」

「はん! 誰がやめるもんか! オレ達の苦しみは、こんなもんじゃないんだ!」

一層多くの卵が投げつけられ、中には小石を投げる者も出てきた。

額に衝撃を感じ、指で撫でると血がついている。
投げつけられた石で額を切ったのだ。

それを見ていた騎士が、民をなだめる。

「まだ裁判も始まっていない。その前に死んでしまっては、罪を暴けないぞ」

騎士のその言葉で、石を投げる者はいなくなったが、罵詈雑言と悪意はとめどなく投げつけられた。



何故、わたくしがこんな目に……?
王家に生まれた選ばれし者がこのような目に合うとは。
これは夢よ。
魔獣に襲われた恐怖で、悪夢を見ているに違いない。

ああ、早く目を覚さなければ。
早く目を覚まして、窓の外を見よう。

きっと、素晴らしい朝に、別荘の門の外では国民が魔獣に喰われているに違いない。
選ばれしわたくしは、それを見ながら優雅に食事をしよう。

だって、わたくしの為にあるのは、輝かしい未来だけなのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...