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21章 責任
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ルーク様が花火を上げた後、わたし達は討伐塔の中へと入って行った。
塔に入ってすぐのホールでは、近衛と討伐隊員が何か激しく口論している。
「だから! 討伐は成功してるんだよ!」
「花火が上がったではないか! 花火は討伐失敗、魔物の逆襲に備えよ。の合図だろうが!」
「討伐の終わりがわからないのは困ると話が出て、花火一発のみは討伐失敗、二発上がれば討伐完了と決まっただろうが!!」
ホールで言い争う近衛と討伐隊を、光の隊員は遠巻きに眺めていた。
そこへ、ルーク様が割って入る。
「討伐は完了した。近衛は速やかに王女を連れて帰城し、国王に報告しろ」
ルーク様は討伐隊の隊員を背に庇い、近衛に指示を出す。
「しかし、ルーク殿。花火が二発の時の話など、我々は聞いていないが?」
「王家には報告済みだ。まぁ、最も、我々討伐隊の会議の内容など確認もしていないのだろう。城に帰ったら、王家に提出された我々の報告書に目を通してみろ。きちんと記載されているはずだ」
不満げな近衛を放っておいて、ルーク様はあたりを見回した。
「ロレンス、ここに義兄、副隊長が来なかっただろうか?」
ロレンスと呼ばれた隊員は、ルーク様の前に一歩踏み出した。
「はっ、1番に我々の様子を見に来てくださいました。その後は、王女様の控室を確認なさいました。自分は中に入れませんでしたが、おそらく王女様のご無事を確認されたら降りてくるのではないかと」
隊員の言葉を聞いて、ルーク様は訝しげな表情をする。
ルーク様もお兄様がローゼリア様の心配をするなんて、あり得ないと思っているのだわ。
「わかった。ロレンス、アラン、ご苦労であった。あとは戻ってきた隊員と共に、負傷者の手当にまわれ。ミルテ殿、元気な隊員は使ってくれて構わない。手当が終われば、撤退の準備を頼む」
光の副隊長ミルテ様は、ルーク様の指示に安心したように頷いた。
そして、ルーク様とわたしは階段を上がり、王女様の控室に入って行った。
控室の中は、豪華なベッドやソファセットが置かれていて、テーブルの上には飲みかけのワインと軽食が並んでいた。
「なに、ここ……。これが討伐中の光の隊長の部屋なの?」
「ローゼリアのやることなんて、こんなもんだろ。邪魔しないだけマシな方さ」
目を丸くするわたしをよそに、ルーク様は部屋を見渡した。
「義兄上がいないな……」
お兄様も王女様もいない。いったい、どこに行ったんだろう……。
部屋の隅に目をやると、本棚の横に、狭い出入口があるのが見えた。
「ルーク様、あれ」
「隠し通路か。ローゼリアは花火を聞いて、敗戦と勘違いをして逃げ出すことにしたんだろう。まったく。光の隊長なのに、報告書にも目を通していないんだな。義兄上はそれを追っていったのか」
ルーク様が隠し通路に足を向け、そこを通ろうとした時に、異変は起こった。
ズンっっ!
何かはわからない。
でも、何かがこの塔全体に圧力をかけるような圧迫感がわたしたちを襲った。
「なんだ!?」
ルーク様が慌てて階段に走って行き、隙間から階下の様子を見る。
「一階! 何があった? 報告をしろ!」
ルーク様の声に、下から隊員が反応する。
「よくわかりません。あの揺れ以外は特に変わったことはなく、外も変わりありません。小さな地震があっただけのような気がします」
「わかった。ご苦労。何かあるといけない。動けるものはあたりを警戒せよ」
「はっ!」
不安げにルーク様を見るわたしに気付き、ルーク様はふと笑った。
「まあ、魔物が居なくなったんだ。瘴気も消え始めているから、何か変化が起こっても不思議ではないかな。ニーナ、心配するな。おまえはオレが必ず護る」
「ルーク様……」
周りに変化がないことを確認したわたしたちは、再度隠し通路の前まで戻った。
「オレが行って、バカ王女と義兄上を呼んでくる。ニーナはここで待ってろよ」
「え、嫌ですよ。わたしも行きます」
ルーク様は渋い顔をしたが、討伐も終わっていることだしと、渋々連れて行くことを同意してくれた。
「オレの側を離れるなよ」
ルーク様の言葉にわたしが頷くのを確認して、ルーク様は隠し通路に一歩、足を踏み入れようとした。
「うっ!」
その途端、ルーク様はその場にうずくまった。
「ルーク様!?」
「なんでもない。何故か、ここに足を踏み入れようとしたら足に痛みが……」
そう言いながら、ルーク様は今度は手を伸ばした。
「うっ、」
唸り声と共に、手を引っ込める。
「何か、目に見えない結界のようなものが張られているようだ。魔物は死んだというのに、一体何が……」
隠し通路に触れなければ痛みは走らないようで、ルーク様はその場で口元に手をあてて、考えていた。
わたしにはなんにも見えないけど……。
わたしもそっと、隠し通路に手を伸ばしてみた。
ん?
全然平気。
怖々と足を踏み入れる。
ふむ。
全然平気。
「ルーク様、なんか大丈夫みたいです」
振り返って笑みを浮かべると、ルーク様が驚愕の表情でこちらを見ていた。
「結界が解けたのか?」
ルーク様も足を踏み入れようとすると、またさっきと同じようにその場にうずくまった。
でも、わたしは変わらずに隠し通路の中に居る。
……? どういうことなんだろう……。
通路のあちら側とこちら側で、ルーク様と2人で首を捻っていると、通路の奥から何か声が聞こえた。
「ルーク様、聞こえました?」
「ああ。バカ王女と義兄上の声だった気がする。くぞつ! なんでオレは入れないんだ!?」
焦るルーク様をよそに、奥からの声は、だんだんと切羽詰まったものになっていった。
「ルーク様、とにかく、ルーク様が行けないのであれば、わたしが様子を見てきます」
「だめだ! 何が起こっているのかわからないんだぞ!!」
「それでも、もしかしたらお兄様が困っているかもしれませんし。行って、状況を確認したら戻ってきます。危ないことになりそうだったら、すぐに逃げてきます。それに、魔物はいなくなったし、魔獣はルーク様達がやっつけてくださったでしょう? だから、大丈夫ですよ」
「ニーナ!」
「行ってきまーす」
「ニーナ!!」
わたしはルーク様が止める声を聞きながら、通路の奥へと走っていった。
塔に入ってすぐのホールでは、近衛と討伐隊員が何か激しく口論している。
「だから! 討伐は成功してるんだよ!」
「花火が上がったではないか! 花火は討伐失敗、魔物の逆襲に備えよ。の合図だろうが!」
「討伐の終わりがわからないのは困ると話が出て、花火一発のみは討伐失敗、二発上がれば討伐完了と決まっただろうが!!」
ホールで言い争う近衛と討伐隊を、光の隊員は遠巻きに眺めていた。
そこへ、ルーク様が割って入る。
「討伐は完了した。近衛は速やかに王女を連れて帰城し、国王に報告しろ」
ルーク様は討伐隊の隊員を背に庇い、近衛に指示を出す。
「しかし、ルーク殿。花火が二発の時の話など、我々は聞いていないが?」
「王家には報告済みだ。まぁ、最も、我々討伐隊の会議の内容など確認もしていないのだろう。城に帰ったら、王家に提出された我々の報告書に目を通してみろ。きちんと記載されているはずだ」
不満げな近衛を放っておいて、ルーク様はあたりを見回した。
「ロレンス、ここに義兄、副隊長が来なかっただろうか?」
ロレンスと呼ばれた隊員は、ルーク様の前に一歩踏み出した。
「はっ、1番に我々の様子を見に来てくださいました。その後は、王女様の控室を確認なさいました。自分は中に入れませんでしたが、おそらく王女様のご無事を確認されたら降りてくるのではないかと」
隊員の言葉を聞いて、ルーク様は訝しげな表情をする。
ルーク様もお兄様がローゼリア様の心配をするなんて、あり得ないと思っているのだわ。
「わかった。ロレンス、アラン、ご苦労であった。あとは戻ってきた隊員と共に、負傷者の手当にまわれ。ミルテ殿、元気な隊員は使ってくれて構わない。手当が終われば、撤退の準備を頼む」
光の副隊長ミルテ様は、ルーク様の指示に安心したように頷いた。
そして、ルーク様とわたしは階段を上がり、王女様の控室に入って行った。
控室の中は、豪華なベッドやソファセットが置かれていて、テーブルの上には飲みかけのワインと軽食が並んでいた。
「なに、ここ……。これが討伐中の光の隊長の部屋なの?」
「ローゼリアのやることなんて、こんなもんだろ。邪魔しないだけマシな方さ」
目を丸くするわたしをよそに、ルーク様は部屋を見渡した。
「義兄上がいないな……」
お兄様も王女様もいない。いったい、どこに行ったんだろう……。
部屋の隅に目をやると、本棚の横に、狭い出入口があるのが見えた。
「ルーク様、あれ」
「隠し通路か。ローゼリアは花火を聞いて、敗戦と勘違いをして逃げ出すことにしたんだろう。まったく。光の隊長なのに、報告書にも目を通していないんだな。義兄上はそれを追っていったのか」
ルーク様が隠し通路に足を向け、そこを通ろうとした時に、異変は起こった。
ズンっっ!
何かはわからない。
でも、何かがこの塔全体に圧力をかけるような圧迫感がわたしたちを襲った。
「なんだ!?」
ルーク様が慌てて階段に走って行き、隙間から階下の様子を見る。
「一階! 何があった? 報告をしろ!」
ルーク様の声に、下から隊員が反応する。
「よくわかりません。あの揺れ以外は特に変わったことはなく、外も変わりありません。小さな地震があっただけのような気がします」
「わかった。ご苦労。何かあるといけない。動けるものはあたりを警戒せよ」
「はっ!」
不安げにルーク様を見るわたしに気付き、ルーク様はふと笑った。
「まあ、魔物が居なくなったんだ。瘴気も消え始めているから、何か変化が起こっても不思議ではないかな。ニーナ、心配するな。おまえはオレが必ず護る」
「ルーク様……」
周りに変化がないことを確認したわたしたちは、再度隠し通路の前まで戻った。
「オレが行って、バカ王女と義兄上を呼んでくる。ニーナはここで待ってろよ」
「え、嫌ですよ。わたしも行きます」
ルーク様は渋い顔をしたが、討伐も終わっていることだしと、渋々連れて行くことを同意してくれた。
「オレの側を離れるなよ」
ルーク様の言葉にわたしが頷くのを確認して、ルーク様は隠し通路に一歩、足を踏み入れようとした。
「うっ!」
その途端、ルーク様はその場にうずくまった。
「ルーク様!?」
「なんでもない。何故か、ここに足を踏み入れようとしたら足に痛みが……」
そう言いながら、ルーク様は今度は手を伸ばした。
「うっ、」
唸り声と共に、手を引っ込める。
「何か、目に見えない結界のようなものが張られているようだ。魔物は死んだというのに、一体何が……」
隠し通路に触れなければ痛みは走らないようで、ルーク様はその場で口元に手をあてて、考えていた。
わたしにはなんにも見えないけど……。
わたしもそっと、隠し通路に手を伸ばしてみた。
ん?
全然平気。
怖々と足を踏み入れる。
ふむ。
全然平気。
「ルーク様、なんか大丈夫みたいです」
振り返って笑みを浮かべると、ルーク様が驚愕の表情でこちらを見ていた。
「結界が解けたのか?」
ルーク様も足を踏み入れようとすると、またさっきと同じようにその場にうずくまった。
でも、わたしは変わらずに隠し通路の中に居る。
……? どういうことなんだろう……。
通路のあちら側とこちら側で、ルーク様と2人で首を捻っていると、通路の奥から何か声が聞こえた。
「ルーク様、聞こえました?」
「ああ。バカ王女と義兄上の声だった気がする。くぞつ! なんでオレは入れないんだ!?」
焦るルーク様をよそに、奥からの声は、だんだんと切羽詰まったものになっていった。
「ルーク様、とにかく、ルーク様が行けないのであれば、わたしが様子を見てきます」
「だめだ! 何が起こっているのかわからないんだぞ!!」
「それでも、もしかしたらお兄様が困っているかもしれませんし。行って、状況を確認したら戻ってきます。危ないことになりそうだったら、すぐに逃げてきます。それに、魔物はいなくなったし、魔獣はルーク様達がやっつけてくださったでしょう? だから、大丈夫ですよ」
「ニーナ!」
「行ってきまーす」
「ニーナ!!」
わたしはルーク様が止める声を聞きながら、通路の奥へと走っていった。
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