もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
212 / 255
21章 責任

王女の逃走 追う報復

しおりを挟む
衛生兵から借り受けた馬を走らせながら、魔獣を討伐塔へと誘導していく。

誘導の手段は、ルーク様の血だ。

ルーク様が怪我をした時、手当の後でルーク様の血を拭った布をオレの剣にまとわりつかせた。

英雄ルーク様の匂いが剣につくように。

英雄であるルーク様の血は、魔獣を引き寄せる。
その特性を知って、オレは魔獣を討伐塔まで連れて行くことを考えた。

うまく風魔法を操り、剣先の匂いを討伐塔の方向へと持っていく。
魔法を使いながら馬を操るのは、とてつもなく疲弊するが、なんとか持ち堪えねばならない。

あと少しで討伐塔というところで、ルーク様が上げた花火の音がした。

少し間をおいて2回。

ちっ。
もう少し時間がかかると思っていたが、案外早かったな。
女の足での山歩きは大変なはずなのに、おてんばなニーナは身軽に歩いてしまったのだろう。

これが終わったら、ニーナをしとやかな淑女にする教育もしなければならない。
今のままでは、侯爵家に嫁ぐことはできないだろう。

これは、魔物を討伐するよりも難しい気がしてきた……。
まあ、ゆっくり考えるさ。

魔獣は討伐塔の扉を突き破り、塔の中へ侵入した。

壊された扉の向こうは、負傷者と疲れ切った光の隊員達がいて、突然現れた魔獣になすすべもなく立ち尽くしていた。

オレはひらりと馬から飛び降りて塔の中に入る。

「討伐は終わった!完全勝利だ。1匹だけ逃げ出した魔獣を追っているが、外は安全だ。あの魔獣に気をつけて身を隠せ!」

叫びながら剣を振りかざし、剣先の匂いをうまく魔獣の先へと持っていく。

塔の中の階段まで誘導できれば、あとは魔獣が勝手に王女の部屋へと向かって行くだろう。

オレは一度塔に戻った時に、ルーク様の血を拭った布を王女の部屋まで辿れるように壁になすりつけておいた。
階段から先は、オレが仕掛けた血に魔獣が誘導されるという訳だ。

魔獣の後ろ姿を追いながら、王女以外の者に危害が加えられないように剣を振るう。

魔獣を追うフリをして階段を上がって行くと、王女の護衛が見えた。

討伐隊から塔の護衛を任された、ロレンスがドアの前に立っている。
一緒に護衛の任についたアランは、下で他の光の隊員を守っていたため、ロレンスがひとりでここを請け負っているのだろう。

魔獣の姿を見た、ロレンスが剣を構える。

「ロレンスっ! 引け!」

オレの声でロレンスが剣を引いた。

オレはロレンスに害が及ばないように、でも魔獣を斬りつけるように見せかけて大きく剣を振り下ろした。

剣先に纏わりつかせた風魔法が、魔獣のすぐ横の扉を傷付けた。

すると、魔獣は扉に体当たりをして壊し、王女がいる部屋へと侵入した。

あとは近衛が王女を守っているはずだが……。
いや、部屋には近衛がいない?

「ロレンス、近衛はどこに行ったんだ?」

ロレンスは、はっと我に返り剣を構える。

「はっ! 王女の近衛が3人、花火の音を聞いて部屋から出ていきました。敗戦の時の指示を王女から受けていた模様です。しかし、我々にはなんの指示もなく……」
「わかった」

逃亡する姿を近衛に見せないためだな。

オレはロレンスにそのまま階下に行き、他の者を守るように指示する。

「討伐は勝利で終わった。もう魔物はいないはずだ。じきにルーク様が帰還される。それまで、パニックになる者もいると思うが、おまえが落ち着かせるようにしろ!」
「はっ!」

ロレンスが階段を降りて行く音を聞きながら、オレは部屋の中に入る。

隠し通路への道は開け放たれ、悲鳴が聞こえた。

走って行くと、そう広くない通路で、拙い光の魔法で魔獣と対峙している王女が見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

処理中です...