211 / 255
21章 責任
その実態
しおりを挟む
その後、すぐさま林にとって返し、日が傾く中おやじが言っていた別荘へとやって来た。
その別荘は絶壁の上に立っており、城と言うには小さいが、貴族が住む屋敷くらいの大きさはあった。正面さえ強固な守りで固めれば、中に入るのは容易ではないだろうと予想される。
騎乗したまま、別荘の中へ入ろうとすると、当然のことながら門番に止められた。
「こちらは王家につらなる方の屋敷であるぞ。名を名乗られよ」
門番は騎乗したままのオレを睨みつける。
「わたしは近衛隊第四分隊副長のパーシバル・トーレ。あの日が近付いてきたので、こちらの様子を確認しに参った」
ま、嘘だけど。
パーシバルが四分隊の副長であることはほんと。
ちょっと名前を借りただけだ。
ふたりいた門番はそろってオレの胸についている隊章を見た。
これは、登城が許される者が着けているものだ。
ただ、隊服はもちろん討伐隊のものなのだが、こいつらが騙されてくれるか……。
焦りを顔を出さずに、じっと門番を見る。
隊服が違うのだから、バレる可能性は多分にある。
もし、バレたら即座に馬を走らせよう。
こいつはなかなかの駿馬だから、逃げおおせることはできるだろう。
すぐに馬の腹を蹴られるように足に力を入れ、門番の言葉を待つ。
すると、門番はオレの胸から視線を外して一言「行って良し」と、そっけなく言った。
オレはにこやかに敷地内に入って行った。
王都からかなり離れているとは言え、近衛と他の隊の者の区別がつかないのは、まずいんじゃないかな。
ま、愚王と馬鹿王太子では教育なんて無理だろうけど。
あたりを見回して、何かあったときにすぐに屋敷を出られる場所に馬を繋ぎ、そのままそっと屋敷に入る。
屋敷の中は城と遜色がないくらいに華美に飾り立てられていた。
ただ、邸内を歩くメイドや侍従の数はこの屋敷の規模を考えると、ありえないくらいに少なかった。
オレとしては、バレる確率が下がるので有難いが。
屋敷のあちこちで身を隠しながら盗み聞きをしていくと、王家の奴らがしようとしていることがなんとなくわかってきた。
あいつらは、民を見捨てて自分達だけここに立て篭もる気だ。
討伐が失敗したあとは、魔獣が国内を闊歩するだろう。
歴史書によると、過去に魔物を討伐できなかった時は、国中に魔獣が溢れ返り、人間を虐殺していたが、数年で増え過ぎた魔獣は死んでいったということだ。
少しずつ復興して今の生活に戻すまで、国民は大変な苦労があったようだ。
それを、王家の奴らだけここに立て篭もり、何十人もの優秀な魔術師を使って食料を凍らせ貯蔵し、食べるものもなくなるであろう民を見殺しにする算段を立てている。
ここで働くメイドや侍従は、王家に連なる者たちで、口の固い人物だけに絞って働かせているようだった。
黙って口外しないで働くことを誓えば、この屋敷で匿ってやると言われているようだ。
生き汚い者たちは、固く口を閉ざして屋敷に入ったらしい。
それでも、所詮馬鹿な奴らの集まりだ。
屋敷内では好き勝手に今後のことを話していた。
自分さえ良ければいいと思う奴らの集まり。
反吐が出る。
オレは日が暮れて辺りが暗くなってから、こっそりと屋敷を出た。
愛馬には申し訳ないが、急いで帰らないと明日の訓練に間に合わない。
馬を走らせながら、あいつらをどう料理しようかと頭を巡らせる。
王家の奴らが、討伐が失敗した時には誰でもわかるようにしろと、花火を上げることを提案したのは、いち早く逃亡するためだろう。
それならば、それを逆手に取って花火に細工をしよう。
一発ならば討伐失敗。
続けて二発めが上がれば討伐完了としたらどうだろう。
王家には二発めの意味を知らせず、討伐隊のみにこの話をしておくのだ。
二発めの意味を知らなければ、王家は討伐失敗と思うだろう。
逃げ出す王家を、国民みんなで見届ける。
もちろん、国民にはすぐに種明かしをして、守るべき民を見捨てた事実を見せるのだ。
そしてー。
そして、ローゼリアにはもう一つ背負ってもらいたいものがある。
そのために、オレは討伐時のローゼリアの護衛を引き受けたのだ。
ジーナ。
おまえは仇を取るなんてことは考えていないだろう。
きっと、ローゼリアが仕組んで殺された事実を知っても、仕返しをしようとは思わないだろう。
だが、オレはジーナがどれくらいルーク様を大事に思っていたか知っている。
ジーナの命が消えた時の、ルーク様の慟哭を覚えている。
オレは、決してローゼリアを許すことはできない。
その別荘は絶壁の上に立っており、城と言うには小さいが、貴族が住む屋敷くらいの大きさはあった。正面さえ強固な守りで固めれば、中に入るのは容易ではないだろうと予想される。
騎乗したまま、別荘の中へ入ろうとすると、当然のことながら門番に止められた。
「こちらは王家につらなる方の屋敷であるぞ。名を名乗られよ」
門番は騎乗したままのオレを睨みつける。
「わたしは近衛隊第四分隊副長のパーシバル・トーレ。あの日が近付いてきたので、こちらの様子を確認しに参った」
ま、嘘だけど。
パーシバルが四分隊の副長であることはほんと。
ちょっと名前を借りただけだ。
ふたりいた門番はそろってオレの胸についている隊章を見た。
これは、登城が許される者が着けているものだ。
ただ、隊服はもちろん討伐隊のものなのだが、こいつらが騙されてくれるか……。
焦りを顔を出さずに、じっと門番を見る。
隊服が違うのだから、バレる可能性は多分にある。
もし、バレたら即座に馬を走らせよう。
こいつはなかなかの駿馬だから、逃げおおせることはできるだろう。
すぐに馬の腹を蹴られるように足に力を入れ、門番の言葉を待つ。
すると、門番はオレの胸から視線を外して一言「行って良し」と、そっけなく言った。
オレはにこやかに敷地内に入って行った。
王都からかなり離れているとは言え、近衛と他の隊の者の区別がつかないのは、まずいんじゃないかな。
ま、愚王と馬鹿王太子では教育なんて無理だろうけど。
あたりを見回して、何かあったときにすぐに屋敷を出られる場所に馬を繋ぎ、そのままそっと屋敷に入る。
屋敷の中は城と遜色がないくらいに華美に飾り立てられていた。
ただ、邸内を歩くメイドや侍従の数はこの屋敷の規模を考えると、ありえないくらいに少なかった。
オレとしては、バレる確率が下がるので有難いが。
屋敷のあちこちで身を隠しながら盗み聞きをしていくと、王家の奴らがしようとしていることがなんとなくわかってきた。
あいつらは、民を見捨てて自分達だけここに立て篭もる気だ。
討伐が失敗したあとは、魔獣が国内を闊歩するだろう。
歴史書によると、過去に魔物を討伐できなかった時は、国中に魔獣が溢れ返り、人間を虐殺していたが、数年で増え過ぎた魔獣は死んでいったということだ。
少しずつ復興して今の生活に戻すまで、国民は大変な苦労があったようだ。
それを、王家の奴らだけここに立て篭もり、何十人もの優秀な魔術師を使って食料を凍らせ貯蔵し、食べるものもなくなるであろう民を見殺しにする算段を立てている。
ここで働くメイドや侍従は、王家に連なる者たちで、口の固い人物だけに絞って働かせているようだった。
黙って口外しないで働くことを誓えば、この屋敷で匿ってやると言われているようだ。
生き汚い者たちは、固く口を閉ざして屋敷に入ったらしい。
それでも、所詮馬鹿な奴らの集まりだ。
屋敷内では好き勝手に今後のことを話していた。
自分さえ良ければいいと思う奴らの集まり。
反吐が出る。
オレは日が暮れて辺りが暗くなってから、こっそりと屋敷を出た。
愛馬には申し訳ないが、急いで帰らないと明日の訓練に間に合わない。
馬を走らせながら、あいつらをどう料理しようかと頭を巡らせる。
王家の奴らが、討伐が失敗した時には誰でもわかるようにしろと、花火を上げることを提案したのは、いち早く逃亡するためだろう。
それならば、それを逆手に取って花火に細工をしよう。
一発ならば討伐失敗。
続けて二発めが上がれば討伐完了としたらどうだろう。
王家には二発めの意味を知らせず、討伐隊のみにこの話をしておくのだ。
二発めの意味を知らなければ、王家は討伐失敗と思うだろう。
逃げ出す王家を、国民みんなで見届ける。
もちろん、国民にはすぐに種明かしをして、守るべき民を見捨てた事実を見せるのだ。
そしてー。
そして、ローゼリアにはもう一つ背負ってもらいたいものがある。
そのために、オレは討伐時のローゼリアの護衛を引き受けたのだ。
ジーナ。
おまえは仇を取るなんてことは考えていないだろう。
きっと、ローゼリアが仕組んで殺された事実を知っても、仕返しをしようとは思わないだろう。
だが、オレはジーナがどれくらいルーク様を大事に思っていたか知っている。
ジーナの命が消えた時の、ルーク様の慟哭を覚えている。
オレは、決してローゼリアを許すことはできない。
3
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる