もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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21章 責任

その実態

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その後、すぐさま林にとって返し、日が傾く中おやじが言っていた別荘へとやって来た。


その別荘は絶壁の上に立っており、城と言うには小さいが、貴族が住む屋敷くらいの大きさはあった。正面さえ強固な守りで固めれば、中に入るのは容易ではないだろうと予想される。

騎乗したまま、別荘の中へ入ろうとすると、当然のことながら門番に止められた。

「こちらは王家につらなる方の屋敷であるぞ。名を名乗られよ」

門番は騎乗したままのオレを睨みつける。

「わたしは近衛隊第四分隊副長のパーシバル・トーレ。あの日が近付いてきたので、こちらの様子を確認しに参った」

ま、嘘だけど。

パーシバルが四分隊の副長であることはほんと。
ちょっと名前を借りただけだ。

ふたりいた門番はそろってオレの胸についている隊章を見た。
これは、登城が許される者が着けているものだ。
ただ、隊服はもちろん討伐隊のものなのだが、こいつらが騙されてくれるか……。

焦りを顔を出さずに、じっと門番を見る。
隊服が違うのだから、バレる可能性は多分にある。
もし、バレたら即座に馬を走らせよう。
こいつはなかなかの駿馬だから、逃げおおせることはできるだろう。

すぐに馬の腹を蹴られるように足に力を入れ、門番の言葉を待つ。
すると、門番はオレの胸から視線を外して一言「行って良し」と、そっけなく言った。

オレはにこやかに敷地内に入って行った。

王都からかなり離れているとは言え、近衛と他の隊の者の区別がつかないのは、まずいんじゃないかな。
ま、愚王と馬鹿王太子では教育なんて無理だろうけど。

あたりを見回して、何かあったときにすぐに屋敷を出られる場所に馬を繋ぎ、そのままそっと屋敷に入る。

屋敷の中は城と遜色がないくらいに華美に飾り立てられていた。
ただ、邸内を歩くメイドや侍従の数はこの屋敷の規模を考えると、ありえないくらいに少なかった。

オレとしては、バレる確率が下がるので有難いが。

屋敷のあちこちで身を隠しながら盗み聞きをしていくと、王家の奴らがしようとしていることがなんとなくわかってきた。

あいつらは、民を見捨てて自分達だけここに立て篭もる気だ。

討伐が失敗したあとは、魔獣が国内を闊歩するだろう。
歴史書によると、過去に魔物を討伐できなかった時は、国中に魔獣が溢れ返り、人間を虐殺していたが、数年で増え過ぎた魔獣は死んでいったということだ。
少しずつ復興して今の生活に戻すまで、国民は大変な苦労があったようだ。

それを、王家の奴らだけここに立て篭もり、何十人もの優秀な魔術師を使って食料を凍らせ貯蔵し、食べるものもなくなるであろう民を見殺しにする算段を立てている。
ここで働くメイドや侍従は、王家に連なる者たちで、口の固い人物だけに絞って働かせているようだった。
黙って口外しないで働くことを誓えば、この屋敷で匿ってやると言われているようだ。
生き汚い者たちは、固く口を閉ざして屋敷に入ったらしい。

それでも、所詮馬鹿な奴らの集まりだ。
屋敷内では好き勝手に今後のことを話していた。

自分さえ良ければいいと思う奴らの集まり。
反吐が出る。

オレは日が暮れて辺りが暗くなってから、こっそりと屋敷を出た。

愛馬には申し訳ないが、急いで帰らないと明日の訓練に間に合わない。

馬を走らせながら、あいつらをどう料理しようかと頭を巡らせる。

王家の奴らが、討伐が失敗した時には誰でもわかるようにしろと、花火を上げることを提案したのは、いち早く逃亡するためだろう。

それならば、それを逆手に取って花火に細工をしよう。

一発ならば討伐失敗。
続けて二発めが上がれば討伐完了としたらどうだろう。
王家には二発めの意味を知らせず、討伐隊のみにこの話をしておくのだ。
二発めの意味を知らなければ、王家は討伐失敗と思うだろう。

逃げ出す王家を、国民みんなで見届ける。
もちろん、国民にはすぐに種明かしをして、守るべき民を見捨てた事実を見せるのだ。


そしてー。

そして、ローゼリアにはもう一つ背負ってもらいたいものがある。

そのために、オレは討伐時のローゼリアの護衛を引き受けたのだ。

ジーナ。
おまえは仇を取るなんてことは考えていないだろう。
きっと、ローゼリアが仕組んで殺された事実を知っても、仕返しをしようとは思わないだろう。

だが、オレはジーナがどれくらいルーク様を大事に思っていたか知っている。
ジーナの命が消えた時の、ルーク様の慟哭を覚えている。

オレは、決してローゼリアを許すことはできない。
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