208 / 255
20章 決着
8
しおりを挟む
見回りながら山を下山する。
たまに魔獣と戦っている隊士を見かけると、ルーク様が加勢してあっという間に魔獣を倒して、戦っていた隊士も加わりみんなで山を降りていった。
途中、動けなくなった隊士も居て、みんなで肩を貸したり助け合いながら歩いて行く。
もう、魔獣にも怪我をした隊士にも遭わなくなった頃、歩いていた道が平らになった。
山を降りたのだ。
そこから討伐塔へと続く道に、馬に乗った騎士を見つけた。
騎士は王家を護るために派遣された騎士だ。
山は討伐隊が魔獣を討ちに行ったが、山から討伐塔までは少数の隊士と騎士が魔獣が山から降りていくのを防いでいた。
ちなみに、討伐塔から先の街までは、各領地から派遣された市民である兵士が護っていた。
ルーク様は騎士に近付き、声を掛ける。
「上での討伐は終わった。この辺りで魔獣を見かけたか?」
騎士は馬に乗ったまま、居丈高に口を開いた。
「ここいらには魔獣はいない。ただ、先程山から逃げ出した魔獣を、馬に乗った隊士が追っていくのを見かけた。ここから先に居る魔獣はそいつだけだろう。あの隊士が無能でなければ」
馬から降りもせずに言う騎士に、わたしは腹が立った。
だって、ルーク様は侯爵家嫡男だよ?
それに、討伐隊の隊長もしている。
どう考えても、一騎士よりも身分が上だ。
それなのに、その態度はあまりにもバカにしてない?
しかも、馬に乗った隊士とはお兄様のことだ。
お兄様を無能って、許せない!
わたしが一歩足を進めると、ルーク様がなだめるようにわたしの腰を抱いて隣に並んだ。
「貴殿は王女を護るための近衛兵か?」
「いかにも。ローゼリア殿下をお護りする近衛は我々のことだ」
「では、オレのことは知っているな?」
「もちろん。討伐隊隊長であろう?」
一介の近衛でしかないこの男が、英雄であり侯爵家嫡男のルーク様に馬の上から敬語も使わずに話し続けるって、なんて失礼なの!?
文句を言ってやろうと体を強ばらせると、ルーク様が腰から手を離し、わたしの頭をくしゃりと撫でた。
わたしから手を離すと、腰のポーチを手を伸ばし、合図の花火を取り出すと、少し屈んで靴底を花火の先端に擦り合わせ、導火線に火をつけた。
「貴様、何を……」
近衛兵が手綱を持ち直すと同時に、ルーク様が空に向けて上げていた花火が、破裂音と共に空に上がり、赤い煙を辺りに撒き散らした。
ヒヒィィーン
音に驚いた馬は近衛兵を乗せたまま、暴れ出す。
近衛兵は悲鳴をあげながら、振り落とされないように馬にしがみ付いた。
ルーク様はおもしろそうにそれを見て、もう一本花火を取り出して、同じように火をつけた。
またしても、爆発音が辺りを包む。
爆音に驚き、耐えられなくなった馬は、前脚を上げて嘶き、近衛兵を振り落として走り去ってしまった。
落馬した近衛兵は呆然と馬を見送り、落とされた体が痛いのか、地面に座ったままで喚き始める。
「ルーク殿っ! 何をする! 馬が驚いて逃げてしまったではないか!!」
わたしと衛生兵さんは、近衛兵のあまりの剣幕にルーク様の後ろに隠れた。
こっそりと、ルーク様の背中からことの次第を見守る。
「討伐は終わったので合図を出すと言っただろう。馬から降りもせずに話すから聞こえなかったのではないか?」
ルーク様はいけしゃあしゃあと近衛兵を向かって言った。
……でも、わたしはルーク様の隣で聞いていたけど、言ってないよね? 花火上げるって。
「花火は敗戦の合図ではなかったのか!?」
「花火が一発しか上がらなければ敗戦、二発なら討伐完了と聞いているだろう。まさか、会議の最中も馬に乗ってて聞こえなかったわけでもあるまい」
「くっ、」
近衛兵は悔しそうに唇を噛み締めた。
会議中に馬に乗っていたわけではないんだろうけど、きっとルーク様のことを馬鹿にして、ちゃんと話を聞いていなかったんだろうな。
そんな感じが近衛兵から滲み出ていた。
「とにかく、討伐は終わった。今後、オレのことは討伐隊隊長ではなく、侯爵家嫡男として対応してもらおうか。貴様、確かレーネ伯爵家の三男だったな。しかと顔は覚えた」
いわずもがな、伯爵家より侯爵家の方が爵位は上だ。
伯爵家と言っても三男ならば、爵位を継げないので自分で功績を上げて叙爵するか、どこかの貴族の令嬢と婚姻して婿に入るしか貴族でいられる道はない。
近衛兵さんは顔色を真っ青にしてふるふると震え出した、
でも、もう遅いのだ。
高位貴族であるルーク様に、無礼な態度をとった事実は消えない。
魔物を討伐した英雄であるルーク様を無碍に扱った報いは、これから嫌というほど受けるだろう。
「何をしている。さっさと立ち上がって仕事をしろ。討伐処理をしなければならないだろう。今後どうなるかは知らんが給料分の仕事はしろ」
「は、はいっ」
近衛兵は立ち上がり、足を引きずるようにして、その場を立ち去って行った。
まだルーク様の後ろに隠れていたわたしたちだけど、そっとルーク様の背中から声をかけた。
「ルーク様?」
近衛兵を鋭い目で見送っていたルーク様は、まなじりを和らげてわたしたちを見た。
「急に大声を出してすまなかったな。討伐は終わったんだ。これでもう、王族の言うことを聞く必要もない。今までは討伐の邪魔をされると思って言いたいことを言わせていたが、もう気にすることもないんだ」
ルーク様は空を見上げる。
「もう、終わったんだ……」
終わったんだよ、ジーナ。
ルーク様の口元は動いていないのに、何故だかルーク様がつぶやく声が、聞こえたような気がした。
たまに魔獣と戦っている隊士を見かけると、ルーク様が加勢してあっという間に魔獣を倒して、戦っていた隊士も加わりみんなで山を降りていった。
途中、動けなくなった隊士も居て、みんなで肩を貸したり助け合いながら歩いて行く。
もう、魔獣にも怪我をした隊士にも遭わなくなった頃、歩いていた道が平らになった。
山を降りたのだ。
そこから討伐塔へと続く道に、馬に乗った騎士を見つけた。
騎士は王家を護るために派遣された騎士だ。
山は討伐隊が魔獣を討ちに行ったが、山から討伐塔までは少数の隊士と騎士が魔獣が山から降りていくのを防いでいた。
ちなみに、討伐塔から先の街までは、各領地から派遣された市民である兵士が護っていた。
ルーク様は騎士に近付き、声を掛ける。
「上での討伐は終わった。この辺りで魔獣を見かけたか?」
騎士は馬に乗ったまま、居丈高に口を開いた。
「ここいらには魔獣はいない。ただ、先程山から逃げ出した魔獣を、馬に乗った隊士が追っていくのを見かけた。ここから先に居る魔獣はそいつだけだろう。あの隊士が無能でなければ」
馬から降りもせずに言う騎士に、わたしは腹が立った。
だって、ルーク様は侯爵家嫡男だよ?
それに、討伐隊の隊長もしている。
どう考えても、一騎士よりも身分が上だ。
それなのに、その態度はあまりにもバカにしてない?
しかも、馬に乗った隊士とはお兄様のことだ。
お兄様を無能って、許せない!
わたしが一歩足を進めると、ルーク様がなだめるようにわたしの腰を抱いて隣に並んだ。
「貴殿は王女を護るための近衛兵か?」
「いかにも。ローゼリア殿下をお護りする近衛は我々のことだ」
「では、オレのことは知っているな?」
「もちろん。討伐隊隊長であろう?」
一介の近衛でしかないこの男が、英雄であり侯爵家嫡男のルーク様に馬の上から敬語も使わずに話し続けるって、なんて失礼なの!?
文句を言ってやろうと体を強ばらせると、ルーク様が腰から手を離し、わたしの頭をくしゃりと撫でた。
わたしから手を離すと、腰のポーチを手を伸ばし、合図の花火を取り出すと、少し屈んで靴底を花火の先端に擦り合わせ、導火線に火をつけた。
「貴様、何を……」
近衛兵が手綱を持ち直すと同時に、ルーク様が空に向けて上げていた花火が、破裂音と共に空に上がり、赤い煙を辺りに撒き散らした。
ヒヒィィーン
音に驚いた馬は近衛兵を乗せたまま、暴れ出す。
近衛兵は悲鳴をあげながら、振り落とされないように馬にしがみ付いた。
ルーク様はおもしろそうにそれを見て、もう一本花火を取り出して、同じように火をつけた。
またしても、爆発音が辺りを包む。
爆音に驚き、耐えられなくなった馬は、前脚を上げて嘶き、近衛兵を振り落として走り去ってしまった。
落馬した近衛兵は呆然と馬を見送り、落とされた体が痛いのか、地面に座ったままで喚き始める。
「ルーク殿っ! 何をする! 馬が驚いて逃げてしまったではないか!!」
わたしと衛生兵さんは、近衛兵のあまりの剣幕にルーク様の後ろに隠れた。
こっそりと、ルーク様の背中からことの次第を見守る。
「討伐は終わったので合図を出すと言っただろう。馬から降りもせずに話すから聞こえなかったのではないか?」
ルーク様はいけしゃあしゃあと近衛兵を向かって言った。
……でも、わたしはルーク様の隣で聞いていたけど、言ってないよね? 花火上げるって。
「花火は敗戦の合図ではなかったのか!?」
「花火が一発しか上がらなければ敗戦、二発なら討伐完了と聞いているだろう。まさか、会議の最中も馬に乗ってて聞こえなかったわけでもあるまい」
「くっ、」
近衛兵は悔しそうに唇を噛み締めた。
会議中に馬に乗っていたわけではないんだろうけど、きっとルーク様のことを馬鹿にして、ちゃんと話を聞いていなかったんだろうな。
そんな感じが近衛兵から滲み出ていた。
「とにかく、討伐は終わった。今後、オレのことは討伐隊隊長ではなく、侯爵家嫡男として対応してもらおうか。貴様、確かレーネ伯爵家の三男だったな。しかと顔は覚えた」
いわずもがな、伯爵家より侯爵家の方が爵位は上だ。
伯爵家と言っても三男ならば、爵位を継げないので自分で功績を上げて叙爵するか、どこかの貴族の令嬢と婚姻して婿に入るしか貴族でいられる道はない。
近衛兵さんは顔色を真っ青にしてふるふると震え出した、
でも、もう遅いのだ。
高位貴族であるルーク様に、無礼な態度をとった事実は消えない。
魔物を討伐した英雄であるルーク様を無碍に扱った報いは、これから嫌というほど受けるだろう。
「何をしている。さっさと立ち上がって仕事をしろ。討伐処理をしなければならないだろう。今後どうなるかは知らんが給料分の仕事はしろ」
「は、はいっ」
近衛兵は立ち上がり、足を引きずるようにして、その場を立ち去って行った。
まだルーク様の後ろに隠れていたわたしたちだけど、そっとルーク様の背中から声をかけた。
「ルーク様?」
近衛兵を鋭い目で見送っていたルーク様は、まなじりを和らげてわたしたちを見た。
「急に大声を出してすまなかったな。討伐は終わったんだ。これでもう、王族の言うことを聞く必要もない。今までは討伐の邪魔をされると思って言いたいことを言わせていたが、もう気にすることもないんだ」
ルーク様は空を見上げる。
「もう、終わったんだ……」
終わったんだよ、ジーナ。
ルーク様の口元は動いていないのに、何故だかルーク様がつぶやく声が、聞こえたような気がした。
3
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる