もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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20章 決着

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見回りながら山を下山する。

たまに魔獣と戦っている隊士を見かけると、ルーク様が加勢してあっという間に魔獣を倒して、戦っていた隊士も加わりみんなで山を降りていった。

途中、動けなくなった隊士も居て、みんなで肩を貸したり助け合いながら歩いて行く。

もう、魔獣にも怪我をした隊士にも遭わなくなった頃、歩いていた道が平らになった。

山を降りたのだ。

そこから討伐塔へと続く道に、馬に乗った騎士を見つけた。
騎士は王家を護るために派遣された騎士だ。

山は討伐隊が魔獣を討ちに行ったが、山から討伐塔までは少数の隊士と騎士が魔獣が山から降りていくのを防いでいた。
ちなみに、討伐塔から先の街までは、各領地から派遣された市民である兵士が護っていた。

ルーク様は騎士に近付き、声を掛ける。

「上での討伐は終わった。この辺りで魔獣を見かけたか?」

騎士は馬に乗ったまま、居丈高に口を開いた。

「ここいらには魔獣はいない。ただ、先程山から逃げ出した魔獣を、馬に乗った隊士が追っていくのを見かけた。ここから先に居る魔獣はそいつだけだろう。あの隊士が無能でなければ」

馬から降りもせずに言う騎士に、わたしは腹が立った。
だって、ルーク様は侯爵家嫡男だよ?
それに、討伐隊の隊長もしている。
どう考えても、一騎士よりも身分が上だ。
それなのに、その態度はあまりにもバカにしてない?
しかも、馬に乗った隊士とはお兄様のことだ。
お兄様を無能って、許せない!

わたしが一歩足を進めると、ルーク様がなだめるようにわたしの腰を抱いて隣に並んだ。

「貴殿は王女を護るための近衛兵か?」
「いかにも。ローゼリア殿下をお護りする近衛は我々のことだ」
「では、オレのことは知っているな?」
「もちろん。討伐隊隊長であろう?」

一介の近衛でしかないこの男が、英雄であり侯爵家嫡男のルーク様に馬の上から敬語も使わずに話し続けるって、なんて失礼なの!?

文句を言ってやろうと体を強ばらせると、ルーク様が腰から手を離し、わたしの頭をくしゃりと撫でた。

わたしから手を離すと、腰のポーチを手を伸ばし、合図の花火を取り出すと、少し屈んで靴底を花火の先端に擦り合わせ、導火線に火をつけた。

「貴様、何を……」

近衛兵が手綱を持ち直すと同時に、ルーク様が空に向けて上げていた花火が、破裂音と共に空に上がり、赤い煙を辺りに撒き散らした。

ヒヒィィーン

音に驚いた馬は近衛兵を乗せたまま、暴れ出す。
近衛兵は悲鳴をあげながら、振り落とされないように馬にしがみ付いた。

ルーク様はおもしろそうにそれを見て、もう一本花火を取り出して、同じように火をつけた。

またしても、爆発音が辺りを包む。

爆音に驚き、耐えられなくなった馬は、前脚を上げていななき、近衛兵を振り落として走り去ってしまった。

落馬した近衛兵は呆然と馬を見送り、落とされた体が痛いのか、地面に座ったままで喚き始める。

「ルーク殿っ! 何をする! 馬が驚いて逃げてしまったではないか!!」

わたしと衛生兵さんは、近衛兵のあまりの剣幕にルーク様の後ろに隠れた。
こっそりと、ルーク様の背中からことの次第を見守る。

「討伐は終わったので合図を出すと言っただろう。馬から降りもせずに話すから聞こえなかったのではないか?」

ルーク様はいけしゃあしゃあと近衛兵を向かって言った。
……でも、わたしはルーク様の隣で聞いていたけど、言ってないよね? 花火上げるって。

「花火は敗戦の合図ではなかったのか!?」
「花火が一発しか上がらなければ敗戦、二発なら討伐完了と聞いているだろう。まさか、会議の最中も馬に乗ってて聞こえなかったわけでもあるまい」
「くっ、」

近衛兵は悔しそうに唇を噛み締めた。

会議中に馬に乗っていたわけではないんだろうけど、きっとルーク様のことを馬鹿にして、ちゃんと話を聞いていなかったんだろうな。

そんな感じが近衛兵から滲み出ていた。

「とにかく、討伐は終わった。今後、オレのことは討伐隊隊長ではなく、侯爵家嫡男として対応してもらおうか。貴様、確かレーネ伯爵家の三男だったな。しかと顔は覚えた」

いわずもがな、伯爵家より侯爵家の方が爵位は上だ。
伯爵家と言っても三男ならば、爵位を継げないので自分で功績を上げて叙爵するか、どこかの貴族の令嬢と婚姻して婿に入るしか貴族でいられる道はない。

近衛兵さんは顔色を真っ青にしてふるふると震え出した、

でも、もう遅いのだ。
高位貴族であるルーク様に、無礼な態度をとった事実は消えない。
魔物を討伐した英雄であるルーク様を無碍に扱った報いは、これから嫌というほど受けるだろう。

「何をしている。さっさと立ち上がって仕事をしろ。討伐処理をしなければならないだろう。給料分の仕事はしろ」
「は、はいっ」

近衛兵は立ち上がり、足を引きずるようにして、その場を立ち去って行った。

まだルーク様の後ろに隠れていたわたしたちだけど、そっとルーク様の背中から声をかけた。

「ルーク様?」

近衛兵を鋭い目で見送っていたルーク様は、まなじりを和らげてわたしたちを見た。

「急に大声を出してすまなかったな。討伐は終わったんだ。これでもう、王族の言うことを聞く必要もない。今までは討伐の邪魔をされると思って言いたいことを言わせていたが、もう気にすることもないんだ」

ルーク様は空を見上げる。

「もう、終わったんだ……」



終わったんだよ、ジーナ。



ルーク様の口元は動いていないのに、何故だかルーク様がつぶやく声が、聞こえたような気がした。
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