もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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20章 決着

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洞窟の外に出ると、眩しいくらいの陽射しに目を細めた。



終わったのだ。



ルーク様の人生を賭けた、魔物の討伐が終わったのだ。



気が抜けたわたしは、そのままそこにぺたんと座り込んでしまった。

「ニーナ!」

ルーク様がすぐにわたしを支えてくれる。

「ルーク様、なんだか気が抜けてしまって……」
「そうだな。ニーナ、よくがんばったな」

そのまま抱きしめてくれるルーク様に、わたしは安心してその身を任せた。

「おいおい。ニーナもルーク様もまだ気を緩めないでくれよ? まだ魔獣はいるんだからな」

そうでした。
魔物が死んだからといって、すぐに魔獣が居なくなるというわけではないのでした。

もう今後、魔獣が増えることはない。
わたしたちは残された魔獣を討伐しながら山を降りていった。

「義兄上、そろそろ合図の花火を上げましょう」

討伐が無事に済んだという、勝利の合図だ。

「いや、こんなところで花火を上げるのはやめよう。もし、近くで魔獣と戦っている隊士がいたら、音で魔獣を興奮させてしまうだろう。もう少し、魔獣の数を把握してからの方がいい」

ルーク様は一瞬、不思議そうな顔をしたけどそのままお兄様の言葉にうなずいた。

しばらく行くと、衛生兵が馬で駆け寄ってくるのが見えた。
魔獣は黒豹のような背の低いものが多いため、討伐は徒歩で行われていたから、馬に乗っている隊士はほとんどいない。
数名の衛生兵だけが馬に乗り、負傷者を見つけたらその馬に乗せて討伐塔まで運ぶのだ。

「ルーク隊長、ご無事で!」
衛生兵は馬を降りて、ルーク様とお兄様を見た後、怪訝そうな顔をしてわたしを見る。

まあ、そりゃそうだろう。
白いローブを着ているわたしは光の術者で、本来なら討伐塔から出ないはずだから。

「ああ、この光の隊員はオレを助けるために塔からきてくれたんだ」
ルーク様は人目も憚らずわたしを抱き寄せた。

ローゼリア様という婚約者がいるのに、わたしを抱き寄せるルーク様を、衛生兵さんは目を丸くして見ていた。

「まあまあ。ルーク様も討伐が終わったからと言って気を抜くな。まだ、が残ってるんだぞ」
「そうですね、義兄上。王家とこれからの戦いがね」

ふたりだけでわかったような話をするルーク様たちに、衛生兵は身を固くして剣に手を伸ばした。
「まっ、まだ、魔物がいるんでしょうか!?」

すると、ルーク様とお兄様は顔を見合わせて笑った。

「違う違う。大丈夫だ。魔物はもう居ない。もう少し、残った魔獣を片付けたら、合図の花火を上げる予定だ」
「そ、そうですか……」

衛生兵さんは、ホッと肩を下げていた。

お兄様は衛生兵さんが乗っていた馬をひと撫ですると、衛生兵さんに笑顔を見せる。

「なぁ、この周りに隊士や魔獣はどれくらいいる?」
「はいっ! 魔獣はほぼおりませんでした。隊士は残りの魔獣がいないか確認をしている数名がおりますが、その他の者は、その……討伐塔におります」

言いにくそうに現状を報告する衛生兵さん。
そうか。やっぱり、怪我人が多かったんだわ。
討伐塔に居るということは、怪我をしているということだから。

「そうか。わかった。ところで、会話からもわかったかと思うが、ルーク様の魔物討伐は終わった。どこからか湧き出てきた魔獣たちだが、もう今後は魔獣は発生しない。安心して山を降りてくれ。それで、申し訳ないがこの馬をオレに貸してもらえないか?」
「副隊長殿に、ですか?」
「ああ。しっかり、この近辺の様子を見て回りたい。ルーク様、問題があればすぐに戻ってくるから、このままニーナと衛生兵と共に山を降りてもらって、オレが戻らなければ降りきった平地の所で花火をあげてくれ」

お兄様は衛生兵さんから馬の手綱を受け取りながら、ルーク様に顔を向けた。

「……わかりました。義兄上も、気をつけて」
「花火は二発上げてくれ」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと二発持っています」

そして、二人はうなずき合うと、お兄様はひらりと馬の背に乗って、まるで急いでいるかのように駆けて行き、すぐに見えなくなってしまった。

「あれで見周りする気あるんですかね? ちゃんとお仕事するのか心配ですね」
わたしが呆れたように声を出すと、衛生兵さんがくすりと笑って、わたしにこっそりと話し掛けた。

「御心配いりません。副隊長殿は、我ら隊員の憧れです。ここだけの話、人気は隊長と二分するくらいですし、実力は言わずもがな、です。急いで駆けているように見えても、きっちり周りを見ていらっしゃますよ」

ふーん。そうなんだ。
人気も実力もルーク様と張るなんて。
妹の知らないお兄様の顔を見た気分……。

それなのに、未だに独身なのはやっぱり討伐があったからなんだろうな。

わたしは切ない気持ちと、これからの幸せを思って、お兄様の後ろ姿を見送るのだった。





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