もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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20章 決着

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シューっと身体の中に吸い込まれたわたしは、突然の激痛に悲鳴をあげる。

「いゃぁぁあ!!!」

さっきまで、冷たいと感じていた背中は、今は燃えるように熱い。
冷たいと思ったのは血の気が引いてもうすぐ命が消えるから感じたことであって、本当の痛みは炎で焼かれるような痛みだったのだ。

「ニーナっっ!!」

ルーク様がびっくりして、抱きしめていたわたしから顔を離し、わたしを見つめた。

「け、剣を、ルークさ、ま、剣を、お願、いっ!」

あまりの痛みにちゃんと話すことができず、片言で魔物の剣をわたしにくれるようにルーク様にお願いする。

「ニーナ剣ってなんのことだ!?」

そう言ってお兄様が慌ててわたしに近寄ると、ルーク様は何も言わずにお兄様にわたしを託した。

「えっ、おい! ルーク様!」

お兄様はわたしを腕に抱くと、何がなんだかわからないながらも背中の傷口がどこにも触れないように横を向かせる。

その間に、ルーク様は魔物の側に落ちていた自分の剣を手に取った。

違うっ!
それじゃない!

わたしはそう思うけど、もう痛くて痛くて、喋ることができなかった。

でも、ルーク様はその後ですぐ、魔物の剣も手に取ると、わたしに駆け寄ってきた。
さすがルーク様だ。

「ニーナ、剣だ」

そう言って、2本の剣をわたしに差し出した。
わたしは痛みを振り切って、魔物の剣に手を伸ばす。

やっとの思いで剣身に指先が触れると、剣は温かな光を放ち、その指先からすーっと痛みが引いてきた。

「っく、はぁ、はぁ、はぁ~…」

痛みで呼吸困難に陥っていたのも、痛みが引いたからか、ちゃんと息が吸えている。

息が吸える。
生きてるっ……!!

落ち着いて深呼吸をした後で、目を開けると、じっとわたしを見つめるルーク様とお兄様がいた。

お兄様の腕の中から身を起こし、身体のどこにも痛みがないことを確かめる。

「ルーク様、お兄様、ニーナは只今、天の道から戻って参りました。ご心配をおかけしましたが、もう大丈夫です」

少し身体がだるいような気もするけど、痛みは何もない。
腕を背中にまわして傷があった場所を触るけど、傷口も塞がっているようだった。

「魔物の剣に移した、光の魔法、か……」
ルーク様が魔物の剣をじっと見ると、お兄様も覗き込む。
「ニーナの光の魔法は、ニーナに効かないんじゃなかったか?」
「魔物の魔力と合わさって、変異したのかもしれないですね」

ふたりは念入りに剣を調べ、他の反応がないことに安堵してわたしの方を見た。

「……っ、ニーナ……!」

ルーク様が息もできないくらいにきつく、きつく抱きしめる。

「ルーク様、苦しいですよ」
「ばか、ニーナのばか。また、オレを置いて逝こうとするなんて」
「だって、ルーク様が死んじゃうなんて、嫌です」
「ばか。オレだって、ニーナのいない世界なんて嫌だ。二度とごめんだ。今、ここで約束してくれ。もう二度、オレから離れないって」
「苦しいです! ルーク様、約束します。もう、絶対にルーク様から離れません! だから、ちょっと腕を緩めてくださーい!」

じりじりと身体を動かすと、ルーク様がわたしの肩に埋めていたお顔が見えた。
その目には、光るものがほろほろと流れ出ているのだった。



「ほら、ルーク様、ニーナ。そろそろ無事を喜び合うのはその辺にして、外の様子を確認しに行こう」

お兄様は呆れたようにわたしたちを見るけれど、よく見るとお兄様の目も少し赤くなっていた。

「お兄様、ご心配をおかけしました」
「……ばーか。殊勝なニーナなんて、薄気味悪いや」
ピシッとわたしにデコピンをするお兄様は、反対側の手で、目元を拭っていたけど、わたしは見てみないフリをした。

「あ、お兄様、待って」

心配そうにわたしを抱えるルーク様の腕から飛び出し、魔物の身体が倒れている方へと足を進めた。

魔物の抜け殻に、寄り添っている2体の魔獣。

確かに、他の魔獣より体も大きくて、何かが他の魔獣と違うような気がする。
ずっと、気の遠くなるような時間を魔物と過ごしていたせいかもしれない。

わたしは魔獣たちの近くに膝をついた。

「あなたたちの大事にしていた魂は、さっき天に昇りましたよ。あなたたちも、どうぞ安らかに……」

そっと、魔獣たちの背を撫でると、わたしが触ったところから光の魔法がこぼれ出し、魔獣の身体を包んだ。
そのやわらかな光が収まると、2体の魔獣はその場で息絶えた。

「なんだ? ニーナ、魔獣をどうしたんだ?」

警戒して魔獣に剣を構えていたお兄様が、剣を下ろして魔獣の亡き骸をじっと見つめる。

「この魔獣、魔物のお父さんお母さんかも知れないですよ?」
「は?」

わたしと魔物の対話を知らないお兄様とルーク様に、魔物から聞いた話をしながらわたしたちは洞窟を後にした。
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