206 / 255
20章 決着
6
しおりを挟む
シューっと身体の中に吸い込まれたわたしは、突然の激痛に悲鳴をあげる。
「いゃぁぁあ!!!」
さっきまで、冷たいと感じていた背中は、今は燃えるように熱い。
冷たいと思ったのは血の気が引いてもうすぐ命が消えるから感じたことであって、本当の痛みは炎で焼かれるような痛みだったのだ。
「ニーナっっ!!」
ルーク様がびっくりして、抱きしめていたわたしから顔を離し、わたしを見つめた。
「け、剣を、ルークさ、ま、剣を、お願、いっ!」
あまりの痛みにちゃんと話すことができず、片言で魔物の剣をわたしにくれるようにルーク様にお願いする。
「ニーナ剣ってなんのことだ!?」
そう言ってお兄様が慌ててわたしに近寄ると、ルーク様は何も言わずにお兄様にわたしを託した。
「えっ、おい! ルーク様!」
お兄様はわたしを腕に抱くと、何がなんだかわからないながらも背中の傷口がどこにも触れないように横を向かせる。
その間に、ルーク様は魔物の側に落ちていた自分の剣を手に取った。
違うっ!
それじゃない!
わたしはそう思うけど、もう痛くて痛くて、喋ることができなかった。
でも、ルーク様はその後ですぐ、魔物の剣も手に取ると、わたしに駆け寄ってきた。
さすがルーク様だ。
「ニーナ、剣だ」
そう言って、2本の剣をわたしに差し出した。
わたしは痛みを振り切って、魔物の剣に手を伸ばす。
やっとの思いで剣身に指先が触れると、剣は温かな光を放ち、その指先からすーっと痛みが引いてきた。
「っく、はぁ、はぁ、はぁ~…」
痛みで呼吸困難に陥っていたのも、痛みが引いたからか、ちゃんと息が吸えている。
息が吸える。
生きてるっ……!!
落ち着いて深呼吸をした後で、目を開けると、じっとわたしを見つめるルーク様とお兄様がいた。
お兄様の腕の中から身を起こし、身体のどこにも痛みがないことを確かめる。
「ルーク様、お兄様、ニーナは只今、天の道から戻って参りました。ご心配をおかけしましたが、もう大丈夫です」
少し身体がだるいような気もするけど、痛みは何もない。
腕を背中にまわして傷があった場所を触るけど、傷口も塞がっているようだった。
「魔物の剣に移した、光の魔法、か……」
ルーク様が魔物の剣をじっと見ると、お兄様も覗き込む。
「ニーナの光の魔法は、ニーナに効かないんじゃなかったか?」
「魔物の魔力と合わさって、変異したのかもしれないですね」
ふたりは念入りに剣を調べ、他の反応がないことに安堵してわたしの方を見た。
「……っ、ニーナ……!」
ルーク様が息もできないくらいにきつく、きつく抱きしめる。
「ルーク様、苦しいですよ」
「ばか、ニーナのばか。また、オレを置いて逝こうとするなんて」
「だって、ルーク様が死んじゃうなんて、嫌です」
「ばか。オレだって、ニーナのいない世界なんて嫌だ。二度とごめんだ。今、ここで約束してくれ。もう二度、オレから離れないって」
「苦しいです! ルーク様、約束します。もう、絶対にルーク様から離れません! だから、ちょっと腕を緩めてくださーい!」
じりじりと身体を動かすと、ルーク様がわたしの肩に埋めていたお顔が見えた。
その目には、光るものがほろほろと流れ出ているのだった。
「ほら、ルーク様、ニーナ。そろそろ無事を喜び合うのはその辺にして、外の様子を確認しに行こう」
お兄様は呆れたようにわたしたちを見るけれど、よく見るとお兄様の目も少し赤くなっていた。
「お兄様、ご心配をおかけしました」
「……ばーか。殊勝なニーナなんて、薄気味悪いや」
ピシッとわたしにデコピンをするお兄様は、反対側の手で、目元を拭っていたけど、わたしは見てみないフリをした。
「あ、お兄様、待って」
心配そうにわたしを抱えるルーク様の腕から飛び出し、魔物の身体が倒れている方へと足を進めた。
魔物の抜け殻に、寄り添っている2体の魔獣。
確かに、他の魔獣より体も大きくて、何かが他の魔獣と違うような気がする。
ずっと、気の遠くなるような時間を魔物と過ごしていたせいかもしれない。
わたしは魔獣たちの近くに膝をついた。
「あなたたちの大事にしていた魂は、さっき天に昇りましたよ。あなたたちも、どうぞ安らかに……」
そっと、魔獣たちの背を撫でると、わたしが触ったところから光の魔法がこぼれ出し、魔獣の身体を包んだ。
そのやわらかな光が収まると、2体の魔獣はその場で息絶えた。
「なんだ? ニーナ、魔獣をどうしたんだ?」
警戒して魔獣に剣を構えていたお兄様が、剣を下ろして魔獣の亡き骸をじっと見つめる。
「この魔獣、魔物のお父さんお母さんかも知れないですよ?」
「は?」
わたしと魔物の対話を知らないお兄様とルーク様に、魔物から聞いた話をしながらわたしたちは洞窟を後にした。
「いゃぁぁあ!!!」
さっきまで、冷たいと感じていた背中は、今は燃えるように熱い。
冷たいと思ったのは血の気が引いてもうすぐ命が消えるから感じたことであって、本当の痛みは炎で焼かれるような痛みだったのだ。
「ニーナっっ!!」
ルーク様がびっくりして、抱きしめていたわたしから顔を離し、わたしを見つめた。
「け、剣を、ルークさ、ま、剣を、お願、いっ!」
あまりの痛みにちゃんと話すことができず、片言で魔物の剣をわたしにくれるようにルーク様にお願いする。
「ニーナ剣ってなんのことだ!?」
そう言ってお兄様が慌ててわたしに近寄ると、ルーク様は何も言わずにお兄様にわたしを託した。
「えっ、おい! ルーク様!」
お兄様はわたしを腕に抱くと、何がなんだかわからないながらも背中の傷口がどこにも触れないように横を向かせる。
その間に、ルーク様は魔物の側に落ちていた自分の剣を手に取った。
違うっ!
それじゃない!
わたしはそう思うけど、もう痛くて痛くて、喋ることができなかった。
でも、ルーク様はその後ですぐ、魔物の剣も手に取ると、わたしに駆け寄ってきた。
さすがルーク様だ。
「ニーナ、剣だ」
そう言って、2本の剣をわたしに差し出した。
わたしは痛みを振り切って、魔物の剣に手を伸ばす。
やっとの思いで剣身に指先が触れると、剣は温かな光を放ち、その指先からすーっと痛みが引いてきた。
「っく、はぁ、はぁ、はぁ~…」
痛みで呼吸困難に陥っていたのも、痛みが引いたからか、ちゃんと息が吸えている。
息が吸える。
生きてるっ……!!
落ち着いて深呼吸をした後で、目を開けると、じっとわたしを見つめるルーク様とお兄様がいた。
お兄様の腕の中から身を起こし、身体のどこにも痛みがないことを確かめる。
「ルーク様、お兄様、ニーナは只今、天の道から戻って参りました。ご心配をおかけしましたが、もう大丈夫です」
少し身体がだるいような気もするけど、痛みは何もない。
腕を背中にまわして傷があった場所を触るけど、傷口も塞がっているようだった。
「魔物の剣に移した、光の魔法、か……」
ルーク様が魔物の剣をじっと見ると、お兄様も覗き込む。
「ニーナの光の魔法は、ニーナに効かないんじゃなかったか?」
「魔物の魔力と合わさって、変異したのかもしれないですね」
ふたりは念入りに剣を調べ、他の反応がないことに安堵してわたしの方を見た。
「……っ、ニーナ……!」
ルーク様が息もできないくらいにきつく、きつく抱きしめる。
「ルーク様、苦しいですよ」
「ばか、ニーナのばか。また、オレを置いて逝こうとするなんて」
「だって、ルーク様が死んじゃうなんて、嫌です」
「ばか。オレだって、ニーナのいない世界なんて嫌だ。二度とごめんだ。今、ここで約束してくれ。もう二度、オレから離れないって」
「苦しいです! ルーク様、約束します。もう、絶対にルーク様から離れません! だから、ちょっと腕を緩めてくださーい!」
じりじりと身体を動かすと、ルーク様がわたしの肩に埋めていたお顔が見えた。
その目には、光るものがほろほろと流れ出ているのだった。
「ほら、ルーク様、ニーナ。そろそろ無事を喜び合うのはその辺にして、外の様子を確認しに行こう」
お兄様は呆れたようにわたしたちを見るけれど、よく見るとお兄様の目も少し赤くなっていた。
「お兄様、ご心配をおかけしました」
「……ばーか。殊勝なニーナなんて、薄気味悪いや」
ピシッとわたしにデコピンをするお兄様は、反対側の手で、目元を拭っていたけど、わたしは見てみないフリをした。
「あ、お兄様、待って」
心配そうにわたしを抱えるルーク様の腕から飛び出し、魔物の身体が倒れている方へと足を進めた。
魔物の抜け殻に、寄り添っている2体の魔獣。
確かに、他の魔獣より体も大きくて、何かが他の魔獣と違うような気がする。
ずっと、気の遠くなるような時間を魔物と過ごしていたせいかもしれない。
わたしは魔獣たちの近くに膝をついた。
「あなたたちの大事にしていた魂は、さっき天に昇りましたよ。あなたたちも、どうぞ安らかに……」
そっと、魔獣たちの背を撫でると、わたしが触ったところから光の魔法がこぼれ出し、魔獣の身体を包んだ。
そのやわらかな光が収まると、2体の魔獣はその場で息絶えた。
「なんだ? ニーナ、魔獣をどうしたんだ?」
警戒して魔獣に剣を構えていたお兄様が、剣を下ろして魔獣の亡き骸をじっと見つめる。
「この魔獣、魔物のお父さんお母さんかも知れないですよ?」
「は?」
わたしと魔物の対話を知らないお兄様とルーク様に、魔物から聞いた話をしながらわたしたちは洞窟を後にした。
12
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる