205 / 255
20章 決着
5
しおりを挟む
わたしが天へと昇って行こうとすると、魔物だった男性がくすりと笑う。
『キミはまだ死んではいないよ』
『へっ?』
その言葉に慌てて自分の身体を見下ろすけれど、必死に掻き抱くルーク様の腕の中で、わたしは青い顔でぐったりとしている。
出血も酷く、どう控えめに考えても生きていそうにない。
『あの、死んでますけど……。もしくは、もうすぐ死にますけど……』
男性は笑いを堪えられずに吹き出した。
『ははっ! 面白い子だね、キミは。何のためにオレの剣に光の魔法を馴染ませたと思っているの? 英雄を殺すだけでよければ、ただ斬ればいいだけさ』
『と、言うと?』
『光の魔法とオレの闇の魔力が合わさったオレの剣は、オレを受け入れた者を生き延ばすことができる』
わたしは慌てて男性の魂の首根っこを引っ掴む。
『えっ! では、わたしは生き還ることができるのですかっ!?』
『く、苦しいよ。いくら魂とはいえ、魂同士掴む感覚がある以上、痛みも感じるんだから』
わたしは男性の襟元の手をぱっ、と手を離す。
『すみません。慌ててしまいました』
『いや、いいよ。2回も生を諦めなきゃならないと、悲壮な決意をしてたんだから。
ただし、生き還るチャンスは一瞬。キミの魂が身体に戻ったら、一刻も早くオレの剣に触れて。本来なら、オレの剣で斬られた英雄は、そのままその剣の魔力で甦るはずだけど、キミは魔獣に引き裂かれて死んだから、剣の魔力に触れていない。心臓が動いている間に、剣に触れられなければ、キミは本当に死んでしまう。いいね? 何を置いても、まず剣に触れるんだ』
わたしは黙って頷いた。
男性は「チャンスは一瞬」と言っている。
確かに、あの状態の身体では、魂が戻ってもすぐに死んでしまうだろう。
『あと、剣に触れる前の身体は、まだ魔力を帯びていないため、魂が身体に宿った瞬間から、身体が感じる激痛を受けるだろう』
うっ、痛いのかぁ。
でも、それが生きてるってことだもんね。
仕方ない。甘んじて受け止めよう。
『あと、これは個人的なお願いなんだけど……』
男性はわたしに申し訳なさそうに、ちらりと視線を下のわたしたちの身体に移した。
『身体に戻ったら、オレの身体の横にいる魔獣2体の身体を撫でて欲しいんだ。剣の魔力を分け与える為に。あの2体だけは何故か特別でね。毎回、何度転生をして生まれても、いつでもオレの近くにいてくれたんだ。生まれたばかりの幼体の頃は、彼らの助けなしには生きていけなかったくらいに』
『わかりました。お父さん、お母さんみたいなものなんですね』
わたしが、魔物にも愛してくれる存在がいたことにほっとすると、男性は目を見開いた。
『お父さん、お母さん……?』
男性は2体の魔獣に視線を移す。
そして、温かな笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。
『そうだね。お父さんお母さん、だね。さぁ、キミも早く身体に戻った方がいいな。生き還ったあと、魔獣たちはすぐにはいなくならないから、それだけは注意して。オレが居なくなったのが、この世の空気を伝わり、国全体に広がれば魔獣は息絶える。魔獣が存在しなくなるのと同時に、魔法も使えなくなるから』
『わかりました』
男性がそっと手を離すと、わたしの魂は身体に引き寄せられていった。
『魔物さーん、今度は幸せになってくださいねー』
魔物だった男性は、わたしの言葉に目を見開き、そして輝くばかりの笑顔を向けた。
『ありがとう。キミも、英雄くんと幸せにね』
その言葉を残して、魔物だった男性の魂は、天へと昇っていった。
わたしはというと、それを見届ける暇もなく、すごい勢いで身体へと魂が吸い込まれていった。
……身体に激痛を受ける覚悟を決める間もなく、身体の中に入ってしまったのだった。
*****************
余談ですが、2匹の魔獣は魔物さんのお父さんとお母さんの魂が入ったものでした。
息子が捨てられた山に入り、自ら息子と同じに魂を山に留め置いたのです。
息子と違って呪われて魂をこの世に結びつけた訳ではないので力が足りず、魔獣の姿しか取れませんでした。
この後は、魔獣2体も天に召され、生まれ変わります。
魔物の魂は疲れを癒すため、ゆっくりと転生の輪に入っていきますが、魔獣2体は現世で息子を迎えるべく、すぐに転生します。
強く結ばれた家族の愛情で、2体は近くに転生し結婚して、魂が癒されて転生した息子の魂を再び我が子として産み落とします。
来世では、それはそれは幸せに暮らすのですが、それはまた別のお話……。
『キミはまだ死んではいないよ』
『へっ?』
その言葉に慌てて自分の身体を見下ろすけれど、必死に掻き抱くルーク様の腕の中で、わたしは青い顔でぐったりとしている。
出血も酷く、どう控えめに考えても生きていそうにない。
『あの、死んでますけど……。もしくは、もうすぐ死にますけど……』
男性は笑いを堪えられずに吹き出した。
『ははっ! 面白い子だね、キミは。何のためにオレの剣に光の魔法を馴染ませたと思っているの? 英雄を殺すだけでよければ、ただ斬ればいいだけさ』
『と、言うと?』
『光の魔法とオレの闇の魔力が合わさったオレの剣は、オレを受け入れた者を生き延ばすことができる』
わたしは慌てて男性の魂の首根っこを引っ掴む。
『えっ! では、わたしは生き還ることができるのですかっ!?』
『く、苦しいよ。いくら魂とはいえ、魂同士掴む感覚がある以上、痛みも感じるんだから』
わたしは男性の襟元の手をぱっ、と手を離す。
『すみません。慌ててしまいました』
『いや、いいよ。2回も生を諦めなきゃならないと、悲壮な決意をしてたんだから。
ただし、生き還るチャンスは一瞬。キミの魂が身体に戻ったら、一刻も早くオレの剣に触れて。本来なら、オレの剣で斬られた英雄は、そのままその剣の魔力で甦るはずだけど、キミは魔獣に引き裂かれて死んだから、剣の魔力に触れていない。心臓が動いている間に、剣に触れられなければ、キミは本当に死んでしまう。いいね? 何を置いても、まず剣に触れるんだ』
わたしは黙って頷いた。
男性は「チャンスは一瞬」と言っている。
確かに、あの状態の身体では、魂が戻ってもすぐに死んでしまうだろう。
『あと、剣に触れる前の身体は、まだ魔力を帯びていないため、魂が身体に宿った瞬間から、身体が感じる激痛を受けるだろう』
うっ、痛いのかぁ。
でも、それが生きてるってことだもんね。
仕方ない。甘んじて受け止めよう。
『あと、これは個人的なお願いなんだけど……』
男性はわたしに申し訳なさそうに、ちらりと視線を下のわたしたちの身体に移した。
『身体に戻ったら、オレの身体の横にいる魔獣2体の身体を撫でて欲しいんだ。剣の魔力を分け与える為に。あの2体だけは何故か特別でね。毎回、何度転生をして生まれても、いつでもオレの近くにいてくれたんだ。生まれたばかりの幼体の頃は、彼らの助けなしには生きていけなかったくらいに』
『わかりました。お父さん、お母さんみたいなものなんですね』
わたしが、魔物にも愛してくれる存在がいたことにほっとすると、男性は目を見開いた。
『お父さん、お母さん……?』
男性は2体の魔獣に視線を移す。
そして、温かな笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。
『そうだね。お父さんお母さん、だね。さぁ、キミも早く身体に戻った方がいいな。生き還ったあと、魔獣たちはすぐにはいなくならないから、それだけは注意して。オレが居なくなったのが、この世の空気を伝わり、国全体に広がれば魔獣は息絶える。魔獣が存在しなくなるのと同時に、魔法も使えなくなるから』
『わかりました』
男性がそっと手を離すと、わたしの魂は身体に引き寄せられていった。
『魔物さーん、今度は幸せになってくださいねー』
魔物だった男性は、わたしの言葉に目を見開き、そして輝くばかりの笑顔を向けた。
『ありがとう。キミも、英雄くんと幸せにね』
その言葉を残して、魔物だった男性の魂は、天へと昇っていった。
わたしはというと、それを見届ける暇もなく、すごい勢いで身体へと魂が吸い込まれていった。
……身体に激痛を受ける覚悟を決める間もなく、身体の中に入ってしまったのだった。
*****************
余談ですが、2匹の魔獣は魔物さんのお父さんとお母さんの魂が入ったものでした。
息子が捨てられた山に入り、自ら息子と同じに魂を山に留め置いたのです。
息子と違って呪われて魂をこの世に結びつけた訳ではないので力が足りず、魔獣の姿しか取れませんでした。
この後は、魔獣2体も天に召され、生まれ変わります。
魔物の魂は疲れを癒すため、ゆっくりと転生の輪に入っていきますが、魔獣2体は現世で息子を迎えるべく、すぐに転生します。
強く結ばれた家族の愛情で、2体は近くに転生し結婚して、魂が癒されて転生した息子の魂を再び我が子として産み落とします。
来世では、それはそれは幸せに暮らすのですが、それはまた別のお話……。
13
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる