もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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20章 決着

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わたしが天へと昇って行こうとすると、魔物だった男性がくすりと笑う。

『キミはまだ死んではいないよ』
『へっ?』

その言葉に慌てて自分の身体を見下ろすけれど、必死に掻き抱くルーク様の腕の中で、わたしは青い顔でぐったりとしている。
出血も酷く、どう控えめに考えても生きていそうにない。

『あの、死んでますけど……。もしくは、もうすぐ死にますけど……』

男性は笑いを堪えられずに吹き出した。

『ははっ! 面白い子だね、キミは。何のためにオレの剣に光の魔法を馴染ませたと思っているの? 英雄を殺すだけでよければ、ただ斬ればいいだけさ』

『と、言うと?』
『光の魔法とオレの闇の魔力が合わさったオレの剣は、オレを受け入れた者を生き延ばすことができる』

わたしは慌てて男性の魂の首根っこを引っ掴む。

『えっ! では、わたしは生き還ることができるのですかっ!?』
『く、苦しいよ。いくら魂とはいえ、魂同士掴む感覚がある以上、痛みも感じるんだから』

わたしは男性の襟元の手をぱっ、と手を離す。

『すみません。慌ててしまいました』
『いや、いいよ。2回も生を諦めなきゃならないと、悲壮な決意をしてたんだから。
ただし、生き還るチャンスは一瞬。キミの魂が身体に戻ったら、一刻も早くオレの剣に触れて。本来なら、オレの剣で斬られた英雄は、そのままその剣の魔力で甦るはずだけど、キミは魔獣に引き裂かれて死んだから、剣の魔力に触れていない。心臓が動いている間に、剣に触れられなければ、キミは本当に死んでしまう。いいね? 何を置いても、まず剣に触れるんだ』

わたしは黙って頷いた。

男性は「チャンスは一瞬」と言っている。
確かに、あの状態の身体では、魂が戻ってもすぐに死んでしまうだろう。

『あと、剣に触れる前の身体は、まだ魔力を帯びていないため、魂が身体に宿った瞬間から、身体が感じる激痛を受けるだろう』

うっ、痛いのかぁ。
でも、それが生きてるってことだもんね。
仕方ない。甘んじて受け止めよう。

『あと、これは個人的なお願いなんだけど……』

男性はわたしに申し訳なさそうに、ちらりと視線を下のわたしたちの身体に移した。

『身体に戻ったら、オレの身体の横にいる魔獣2体の身体を撫でて欲しいんだ。剣の魔力を分け与える為に。あの2体だけは何故か特別でね。毎回、何度転生をして生まれても、いつでもオレの近くにいてくれたんだ。生まれたばかりの幼体の頃は、彼らの助けなしには生きていけなかったくらいに』
『わかりました。お父さん、お母さんみたいなものなんですね』

わたしが、魔物にも愛してくれる存在がいたことにほっとすると、男性は目を見開いた。

『お父さん、お母さん……?』

男性は2体の魔獣に視線を移す。
そして、温かな笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。

『そうだね。お父さんお母さん、だね。さぁ、キミも早く身体に戻った方がいいな。生き還ったあと、魔獣たちはすぐにはいなくならないから、それだけは注意して。オレが居なくなったのが、この世の空気を伝わり、国全体に広がれば魔獣は息絶える。魔獣が存在しなくなるのと同時に、魔法も使えなくなるから』
『わかりました』

男性がそっと手を離すと、わたしの魂は身体に引き寄せられていった。

『魔物さーん、今度は幸せになってくださいねー』

魔物だった男性は、わたしの言葉に目を見開き、そして輝くばかりの笑顔を向けた。

『ありがとう。キミも、英雄くんと幸せにね』

その言葉を残して、魔物だった男性の魂は、天へと昇っていった。

わたしはというと、それを見届ける暇もなく、すごい勢いで身体へと魂が吸い込まれていった。


……身体に激痛を受ける覚悟を決める間もなく、身体の中に入ってしまったのだった。








*****************






余談ですが、2匹の魔獣は魔物さんのお父さんとお母さんの魂が入ったものでした。
息子が捨てられた山に入り、自ら息子と同じに魂を山に留め置いたのです。
息子と違って呪われて魂をこの世に結びつけた訳ではないので力が足りず、魔獣の姿しか取れませんでした。
この後は、魔獣2体も天に召され、生まれ変わります。
魔物の魂は疲れを癒すため、ゆっくりと転生の輪に入っていきますが、魔獣2体は現世で息子を迎えるべく、すぐに転生します。
強く結ばれた家族の愛情で、2体は近くに転生し結婚して、魂が癒されて転生した息子の魂を再び我が子として産み落とします。
来世では、それはそれは幸せに暮らすのですが、それはまた別のお話……。
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