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20章 決着
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キィィィン……!
剣と剣とがぶつかり合う音がする。
わたしは岩の影で隠れていたけど、見ていられなくて思わず目を閉じてしまった。
打ち合いをすると言っていたのに、それ以降の音が聞こえず、おっかなびっくり目を開けると、そこにはお兄様ではなく、ルーク様が魔物と剣を重ねている姿が見えた。
「なぜ……」
「義兄上。これはオレの戦いだ。これまでも義兄上にはいろいろと世話になった。これ以上、あなたに甘えていてはいけない」
「ニーナはどうなるっ!? ルーク様を、おまえを追いかけてあり得ない奇跡まで起こして、ここまでたどり着いたジーナはどうなるんだ!!」
魔物とルーク様が対峙するのを確認したように、一頭の魔獣がお兄様を襲う。
お兄様もルーク様も、それぞれ剣を振るい、それをいなす。
「義兄上、ジーナが奇跡を起こしたことはすごいことだと思う。それなら、オレも奇跡を起こそう。オレだって、何があってもニーナの元へ還ってくる。オレはニーナを愛している! 必ず戻る! だから、義兄上。それまで、ニーナを、ジーナを頼みます」
「ルーク様……」
お兄様の表情が緩んだその隙に、魔獣はお兄様に飛びかかった。
でも、お兄様も副官を務めるだけあって、爪の餌食になることはなかったが、お兄様より大きな黒豹の魔獣に押し倒される形となった。
両手で持つ剣で魔獣の牙を押さえ、かろうじて殺されるのを防いでいる状態だ。
「義兄上っ! 大丈夫ですかっ!?」
お兄様を気遣うルーク様も、魔物からの攻撃で後ろを向く余裕がない。
「こっちのことは大丈夫だ。それより、しっかり斬られないようにしてくれよ? 光と闇を融合させる前に、ルーク様が斬り殺されてしまったらジーナが浮かばれない」
「わかってますよ!」
ふたりとも、軽口を叩いているようで余裕がないのが側から見てもよくわかる。
わたしには、何もできることはないの?
ここから光の魔法をかけてみる?
ダメだ。届くわけがない。
石でも投げてぶつけてみようか?
いやいや、ノーコンのわたしが投げたら、運が悪ければルーク様に当っちゃう。
オロオロと様子を見ていると、二人の影でうごめくものを発見した。
二頭のいたうちの、もう一頭だ。
大人しくしていたから、ルーク様もお兄様も注意をはらっていない。
黒豹のような魔獣は、姿勢を低くしてルーク様を狙っているのがわかった。
でも、ルーク様は目の前の魔物しか見ていない。
どうしよう。
魔獣が飛びかかりそう。
どうしよう。
ルーク様が殺されちゃう。
どうしよう。
そんな時、わたしが取る行動は一つしかない。
決まっている。
「ルーク様っ! 危ない!!」
わたしはルークの前に飛び出した。
ガッ!
もの凄い衝撃と、静寂。
あぁ、背中が冷たい。
あの時と同じだ。
過ぎた痛みは冷たく感じるのは、今世でも変わらないんだね。
わたしは魔獣の爪で、背中を引き裂かれている。
背中、きっとひどい怪我だ。
だんだんと、指先にも冷たさが広がっていく。
ルーク様は振り向くと同時に、わたしを襲った魔獣を斬り裂いた。
お兄様もなんとか剣を振り抜き、魔獣を倒す。
最後の敵、魔物は剣を下ろし、わたしたちを見つめていた。
ルーク様がまた泣きそうな顔でわたしに駆け寄り、わたしを抱き起こした。
ふふ。
もう大人になったのに、あの時と同じお顔だね。
「ニーナっ! ニーナっ!!」
また、わたしはルーク様のところに還って来られるかなぁ。
次に転生して、あなたに逢ったらあなたは何歳?
そんな歳の差があっても、あなたはわたしを愛してくれるかしら?
今度はわたし、産まれた時からルーク様のことを思い出したいな。
だって、ルーク様に会うのが遅くなっちゃうもの。
「だめだっ! 逝くな、ニーナ、逝かないでくれ! これ以上、オレを置いて逝くなっ!!」
あの時と同じに、ルーク様の瞳からポロポロと涙が溢れる。
ごめんなさい。
また、あなたを泣かせてしまっ……た……ね……。
剣と剣とがぶつかり合う音がする。
わたしは岩の影で隠れていたけど、見ていられなくて思わず目を閉じてしまった。
打ち合いをすると言っていたのに、それ以降の音が聞こえず、おっかなびっくり目を開けると、そこにはお兄様ではなく、ルーク様が魔物と剣を重ねている姿が見えた。
「なぜ……」
「義兄上。これはオレの戦いだ。これまでも義兄上にはいろいろと世話になった。これ以上、あなたに甘えていてはいけない」
「ニーナはどうなるっ!? ルーク様を、おまえを追いかけてあり得ない奇跡まで起こして、ここまでたどり着いたジーナはどうなるんだ!!」
魔物とルーク様が対峙するのを確認したように、一頭の魔獣がお兄様を襲う。
お兄様もルーク様も、それぞれ剣を振るい、それをいなす。
「義兄上、ジーナが奇跡を起こしたことはすごいことだと思う。それなら、オレも奇跡を起こそう。オレだって、何があってもニーナの元へ還ってくる。オレはニーナを愛している! 必ず戻る! だから、義兄上。それまで、ニーナを、ジーナを頼みます」
「ルーク様……」
お兄様の表情が緩んだその隙に、魔獣はお兄様に飛びかかった。
でも、お兄様も副官を務めるだけあって、爪の餌食になることはなかったが、お兄様より大きな黒豹の魔獣に押し倒される形となった。
両手で持つ剣で魔獣の牙を押さえ、かろうじて殺されるのを防いでいる状態だ。
「義兄上っ! 大丈夫ですかっ!?」
お兄様を気遣うルーク様も、魔物からの攻撃で後ろを向く余裕がない。
「こっちのことは大丈夫だ。それより、しっかり斬られないようにしてくれよ? 光と闇を融合させる前に、ルーク様が斬り殺されてしまったらジーナが浮かばれない」
「わかってますよ!」
ふたりとも、軽口を叩いているようで余裕がないのが側から見てもよくわかる。
わたしには、何もできることはないの?
ここから光の魔法をかけてみる?
ダメだ。届くわけがない。
石でも投げてぶつけてみようか?
いやいや、ノーコンのわたしが投げたら、運が悪ければルーク様に当っちゃう。
オロオロと様子を見ていると、二人の影でうごめくものを発見した。
二頭のいたうちの、もう一頭だ。
大人しくしていたから、ルーク様もお兄様も注意をはらっていない。
黒豹のような魔獣は、姿勢を低くしてルーク様を狙っているのがわかった。
でも、ルーク様は目の前の魔物しか見ていない。
どうしよう。
魔獣が飛びかかりそう。
どうしよう。
ルーク様が殺されちゃう。
どうしよう。
そんな時、わたしが取る行動は一つしかない。
決まっている。
「ルーク様っ! 危ない!!」
わたしはルークの前に飛び出した。
ガッ!
もの凄い衝撃と、静寂。
あぁ、背中が冷たい。
あの時と同じだ。
過ぎた痛みは冷たく感じるのは、今世でも変わらないんだね。
わたしは魔獣の爪で、背中を引き裂かれている。
背中、きっとひどい怪我だ。
だんだんと、指先にも冷たさが広がっていく。
ルーク様は振り向くと同時に、わたしを襲った魔獣を斬り裂いた。
お兄様もなんとか剣を振り抜き、魔獣を倒す。
最後の敵、魔物は剣を下ろし、わたしたちを見つめていた。
ルーク様がまた泣きそうな顔でわたしに駆け寄り、わたしを抱き起こした。
ふふ。
もう大人になったのに、あの時と同じお顔だね。
「ニーナっ! ニーナっ!!」
また、わたしはルーク様のところに還って来られるかなぁ。
次に転生して、あなたに逢ったらあなたは何歳?
そんな歳の差があっても、あなたはわたしを愛してくれるかしら?
今度はわたし、産まれた時からルーク様のことを思い出したいな。
だって、ルーク様に会うのが遅くなっちゃうもの。
「だめだっ! 逝くな、ニーナ、逝かないでくれ! これ以上、オレを置いて逝くなっ!!」
あの時と同じに、ルーク様の瞳からポロポロと涙が溢れる。
ごめんなさい。
また、あなたを泣かせてしまっ……た……ね……。
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