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20章 決着
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『オレのように、たまたま星が流れた夜に産まれてしまった英雄よ。おまえ一人に全てを負わせることを、許してくれないか』
ルーク様と対面している魔物が、少しずつルーク様に近寄る。
わたしは岩の影でお兄様と一緒に、魔物の語る真実を聞いていた。
「お兄様、ルーク様が……」
泣きそうになりながらお兄様の顔を見ると、お兄様も複雑そうなお顔をしていた。
「ああ、やばいな。あの魔物の言っていることが真実かどうかの確証がないし、あいつが求めるものはルーク様の命だろう。騙して殺されることも考えられる。しかし……」
しかし。
そう、しかし。
王家の人たちが酷いことを身をもって知っているわたし達には、魔物の言うことを笑い飛ばすことはできなかった。
わたしがどうしたらいいのか、頭の中でぐるぐると、まとまらない考えを巡らせていると、不意にお兄様と向き合うように身体をまわされる。
そして、お兄様はわたしの両肩に手を置くと、じっとわたしの目を見つめた。
「オレ、ちょっとルーク様を助けに行ってくる。いいか、ニーナ。絶対にここを動くなよ。何があっても、何が起こっても、だ」
「お兄様……」
お兄様は真剣な目を少し細めて笑った。
「オレは、妹のジーナがとても大切だった。上の妹のエマはしっかり者のおしゃまさんで、下の妹のジーナはお調子者だが愛嬌のある妹だった。家族5人で笑い合ったあの時はとても幸せだった。そして、生まれ変わったニーナに会えて、オレの幸せはまた増えた。できれば、父上やエマとも一緒に、ニーナを囲んでみたかったけど、まぁ、そこまで望んだら欲張り過ぎだろう。何より、ルーク様が、ニーナと笑い合っているところが見られたんだから、それで良しとしなきゃな」
幸せを語るお兄様に、嫌な予感がする。
「お兄様、何を」
「未来の義弟を助けに行かないとな。いいか、ニーナ。ここを動くな」
わたしに言い聞かせると、お兄様は剣を手に、岩陰から出て行った。
魔物と対峙しているルーク様が驚いたようにお兄様を振り返る。
魔物を護るようにして姿勢を低く威嚇していた二体の魔獣が、お兄様に向かって唸り声をあげた。
「ルーク様、ここで死んじゃダメだ。ルークは魔物を倒して幸せにならなきゃダメなんだ。なあ、魔物よ。オレがその役を引き受けられないか?オレが、おまえの痛みを引き受ける」
「義兄上!」
驚いた顔で、ルーク様はお兄様を振り返った。
お兄様はおどけたように笑う。
「ルーク様はこれまで苦しんできたんだ。長い人生の中では、すっきりと何も心配のないところで笑える時間がなきゃダメだ。オレは、今までの中で、そんな時間もあったからさ」
お兄様は剣を手に持ったまま、構えもせずに魔物の方に身体を向ける。
「よぉ、おまえも大変だったな。あの王家の連中を相手にして、気の遠くなる長い時間を過ごすなんてな。ほんと地獄だな。--オレが、おまえの痛みを受け入れる。どうすればいいのか、教えてくれ」
お兄様の言葉に、魔物は目を見張る。
『驚いたな。今代の英雄は随分と人望がある。身代わりを名乗り出る者がいるなんて』
魔物はルーク様ではなく、お兄様に目を向けた。
『オレの痛みを受けてくれるなら、オレはどちらでも構わないが。闇を人が受け入れれば、人に返せれば、オレはここからやっと解放される。だが……』
魔物は膝をつき、二頭の魔獣の頭を撫でた。
でも、二頭の魔獣はルーク様への威嚇をやめない。
『魔獣達はどう思うかわからない。魔獣達には知性がない。本能で動いているからな。英雄の血は魔獣の興奮剤だ。その辺はそっちでなんとかしろよ』
ルーク様に向かってそう言うと、魔物はお兄様に向かっ剣を構えた。
『その剣は光の魔法を纏っているな? オレの闇を纏う剣と撃ち合いをして光と闇が融合したところで、おまえの身でオレの剣を受け止めるのだ』
ゆっくりと、お兄様も剣を構えた。
「……わかった。来い!」
魔物は両手で頭上へと剣を構えて、そして、振り下ろした。
ルーク様と対面している魔物が、少しずつルーク様に近寄る。
わたしは岩の影でお兄様と一緒に、魔物の語る真実を聞いていた。
「お兄様、ルーク様が……」
泣きそうになりながらお兄様の顔を見ると、お兄様も複雑そうなお顔をしていた。
「ああ、やばいな。あの魔物の言っていることが真実かどうかの確証がないし、あいつが求めるものはルーク様の命だろう。騙して殺されることも考えられる。しかし……」
しかし。
そう、しかし。
王家の人たちが酷いことを身をもって知っているわたし達には、魔物の言うことを笑い飛ばすことはできなかった。
わたしがどうしたらいいのか、頭の中でぐるぐると、まとまらない考えを巡らせていると、不意にお兄様と向き合うように身体をまわされる。
そして、お兄様はわたしの両肩に手を置くと、じっとわたしの目を見つめた。
「オレ、ちょっとルーク様を助けに行ってくる。いいか、ニーナ。絶対にここを動くなよ。何があっても、何が起こっても、だ」
「お兄様……」
お兄様は真剣な目を少し細めて笑った。
「オレは、妹のジーナがとても大切だった。上の妹のエマはしっかり者のおしゃまさんで、下の妹のジーナはお調子者だが愛嬌のある妹だった。家族5人で笑い合ったあの時はとても幸せだった。そして、生まれ変わったニーナに会えて、オレの幸せはまた増えた。できれば、父上やエマとも一緒に、ニーナを囲んでみたかったけど、まぁ、そこまで望んだら欲張り過ぎだろう。何より、ルーク様が、ニーナと笑い合っているところが見られたんだから、それで良しとしなきゃな」
幸せを語るお兄様に、嫌な予感がする。
「お兄様、何を」
「未来の義弟を助けに行かないとな。いいか、ニーナ。ここを動くな」
わたしに言い聞かせると、お兄様は剣を手に、岩陰から出て行った。
魔物と対峙しているルーク様が驚いたようにお兄様を振り返る。
魔物を護るようにして姿勢を低く威嚇していた二体の魔獣が、お兄様に向かって唸り声をあげた。
「ルーク様、ここで死んじゃダメだ。ルークは魔物を倒して幸せにならなきゃダメなんだ。なあ、魔物よ。オレがその役を引き受けられないか?オレが、おまえの痛みを引き受ける」
「義兄上!」
驚いた顔で、ルーク様はお兄様を振り返った。
お兄様はおどけたように笑う。
「ルーク様はこれまで苦しんできたんだ。長い人生の中では、すっきりと何も心配のないところで笑える時間がなきゃダメだ。オレは、今までの中で、そんな時間もあったからさ」
お兄様は剣を手に持ったまま、構えもせずに魔物の方に身体を向ける。
「よぉ、おまえも大変だったな。あの王家の連中を相手にして、気の遠くなる長い時間を過ごすなんてな。ほんと地獄だな。--オレが、おまえの痛みを受け入れる。どうすればいいのか、教えてくれ」
お兄様の言葉に、魔物は目を見張る。
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魔物はルーク様ではなく、お兄様に目を向けた。
『オレの痛みを受けてくれるなら、オレはどちらでも構わないが。闇を人が受け入れれば、人に返せれば、オレはここからやっと解放される。だが……』
魔物は膝をつき、二頭の魔獣の頭を撫でた。
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ゆっくりと、お兄様も剣を構えた。
「……わかった。来い!」
魔物は両手で頭上へと剣を構えて、そして、振り下ろした。
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