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19章 闘い
終わらない罪
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赤い月に7つの星が流れた夜、国王の枕元に立つ者がいた。
王妃は別室にいたため、部屋には国王一人だった。
侵入者に気付いた国王は、枕の下に隠していた剣を取り、大声で護衛を呼んだ。
「誰かある! 侵入者だ! 我を助けよ!!」
出せるだけの声を出したにも関わらず、部屋に来る者は誰も居なかった。
国王の枕元に立つ侵入者は、月明かりに照らさた逆光で、影しか見えなかったが、若い男のようだった。
『助けは来ない』
男は国王に目を向ける。
『外にいた護衛は、オレの放つ瘴気でこの部屋には近付けまい。誰にも邪魔されずおまえと話ができるように、この部屋を囲んであるからな』
月明かりに目が慣れた頃、男の顔を見ると、どこかで見たことのある顔だと思った。
『あれから十数年。雨は降っただろう? もう、オレを開放してくれ』
国王は急いで考えを巡らすが、男が誰なのか思い当たる者はいなかった。
『愚かな国王よ。オレが誰だかわからんとは……。オレは、おまえが山に捨てた生け贄だ。おまえが掛けた呪詛のせいで、この国から魂さえも動けない』
国王は呪詛などかけた覚えはなかったが、言われてみれば、確かにあの時地下牢に入れた大臣の顔に男は似ていた。大臣の産まれたばかりの息子なのだろう。
「だからわしを怨んで復讐にきたのか」
国王の言葉に、男は悲しげに首を振る。
『怨んでいるのは確かだが、復讐をしに来た訳ではない。オレの魂を開放させるためにきたのだ。わかっていると思うが、山に捨てられた赤ん坊が生きていけるわけがない。オレの肉体は朽ち、魔物として変化したのだ。光があれば影がある。世の理だ。おまえたちは魔法が使えることの代償に、魔獣に喰われることを選んだのだ』
国王は思い出す。
宰相が言っていたのだ。
魔法が使えるようになってから湧いて出た魔獣は、何か関係があるのではないかと。
だが、確かめる術もなく、興味もない国王は気にも留めなかった。
『もう充分だろう。飢饉は脱し、国は豊かになった。オレの魂を開放してくれ』
国王はベッドに腰掛けたまま、剣を握りしめた。
「解放とは、どのようにするのだ」
『オレが剣でおまえを斬った時に、オレの魂をその身で受け止め、オレが受けた苦痛を体感しろ』
魔物はそう言うと右腕を胸の前へと折る。
するとそこに、影が吸い込められて、長剣の形を取った。
国王はカタカタと震えながら考える。
何故、自分が生け贄などに斬られなければならないのか。
生け贄が受けた苦痛など、自分には関係ない。
王とは、選ばれた者だ。
民は王の為に全てを捧げるのが当然のことではないか。
護衛は部屋には来ない。
国王は震える手で、剣を構えた。
『最後まで腐った気質は治らないか……』
魔物が剣を構える丁度その時、瘴気漂う部屋に入ってくる者がいた。
「陛下!」
慌てた走り込んでくるその人は、国王の伴侶である王妃だった。
『光の魔法を持つ者か……』
魔物は構えた剣を下ろさずに呟いた。
王妃は何も知らない者だった。
国王に寄り添い、ただ横で微笑んでいるだけだった。
自分の伴侶が、いかに冷酷で自分勝手な者かもわからず、わかろうともせず、与えられた裕福な暮らしを甘受するだけの者だった。
魔物の心に一瞬の隙ができる。
諸悪の根源は国王だ。
何も知らぬ者を斬っていいはずがない。
しかし、王妃という国を統べる立場の人間でもある。
無知は罪なり……か。
魔物が剣を振り上げると、国王が叫び出した。
「王妃よ、わしに光の魔法をかけろ!」
「え、陛下、どのようにっ」
「ええい! ノロマめ! わしに護るように光の魔法をかけるのだ!」
王妃は何もわからず、国王に魔法をかける。
光の術者が水晶に込めたのと同じ魔法を。
国王が剣を振り下ろす方が、魔物よりほんの少し早かった。
その速度は、何がなんでも私利私欲の為に魔物を殺したい国王と、心優しき魔物の違いしかなかっただろう。
国王が振り下ろした剣は国王自身の土の魔法と王妃の光の魔法が組み合わさった。
光を帯びた土の魔法は、床を突き抜け土を魔物の身体に纏わりつかせた。
首から下を土が覆い、身動きが取れなくなったところで、国王はその首に再度剣を振り下ろした。
その身に相応わしい黒い血飛沫を上げながら、魔物の首は足元に転がった。
国王がほっとしたのも束の間、腰を抜かした国王は知らず知らずのうちに魔法を解いてしまっていた。
土がポロポロと落ち、自由になった腕で、魔物は国王の身体を真っ二つに切り裂いた。
首のない魔物の身体は剣を振り下ろすと同時に崩れ去った。
彼の、最期の力だったのだろう。
赤い月に7つの星が流れた夜、魔物と国王は命を落とした。
何も知らない国民は魔物を倒した国王を英雄と讃え、魔物が死んで魔獣もいなくなると喜んだ。
しかし、魔物が死んでも魔獣がいなくなることはなかった。
王妃は別室にいたため、部屋には国王一人だった。
侵入者に気付いた国王は、枕の下に隠していた剣を取り、大声で護衛を呼んだ。
「誰かある! 侵入者だ! 我を助けよ!!」
出せるだけの声を出したにも関わらず、部屋に来る者は誰も居なかった。
国王の枕元に立つ侵入者は、月明かりに照らさた逆光で、影しか見えなかったが、若い男のようだった。
『助けは来ない』
男は国王に目を向ける。
『外にいた護衛は、オレの放つ瘴気でこの部屋には近付けまい。誰にも邪魔されずおまえと話ができるように、この部屋を囲んであるからな』
月明かりに目が慣れた頃、男の顔を見ると、どこかで見たことのある顔だと思った。
『あれから十数年。雨は降っただろう? もう、オレを開放してくれ』
国王は急いで考えを巡らすが、男が誰なのか思い当たる者はいなかった。
『愚かな国王よ。オレが誰だかわからんとは……。オレは、おまえが山に捨てた生け贄だ。おまえが掛けた呪詛のせいで、この国から魂さえも動けない』
国王は呪詛などかけた覚えはなかったが、言われてみれば、確かにあの時地下牢に入れた大臣の顔に男は似ていた。大臣の産まれたばかりの息子なのだろう。
「だからわしを怨んで復讐にきたのか」
国王の言葉に、男は悲しげに首を振る。
『怨んでいるのは確かだが、復讐をしに来た訳ではない。オレの魂を開放させるためにきたのだ。わかっていると思うが、山に捨てられた赤ん坊が生きていけるわけがない。オレの肉体は朽ち、魔物として変化したのだ。光があれば影がある。世の理だ。おまえたちは魔法が使えることの代償に、魔獣に喰われることを選んだのだ』
国王は思い出す。
宰相が言っていたのだ。
魔法が使えるようになってから湧いて出た魔獣は、何か関係があるのではないかと。
だが、確かめる術もなく、興味もない国王は気にも留めなかった。
『もう充分だろう。飢饉は脱し、国は豊かになった。オレの魂を開放してくれ』
国王はベッドに腰掛けたまま、剣を握りしめた。
「解放とは、どのようにするのだ」
『オレが剣でおまえを斬った時に、オレの魂をその身で受け止め、オレが受けた苦痛を体感しろ』
魔物はそう言うと右腕を胸の前へと折る。
するとそこに、影が吸い込められて、長剣の形を取った。
国王はカタカタと震えながら考える。
何故、自分が生け贄などに斬られなければならないのか。
生け贄が受けた苦痛など、自分には関係ない。
王とは、選ばれた者だ。
民は王の為に全てを捧げるのが当然のことではないか。
護衛は部屋には来ない。
国王は震える手で、剣を構えた。
『最後まで腐った気質は治らないか……』
魔物が剣を構える丁度その時、瘴気漂う部屋に入ってくる者がいた。
「陛下!」
慌てた走り込んでくるその人は、国王の伴侶である王妃だった。
『光の魔法を持つ者か……』
魔物は構えた剣を下ろさずに呟いた。
王妃は何も知らない者だった。
国王に寄り添い、ただ横で微笑んでいるだけだった。
自分の伴侶が、いかに冷酷で自分勝手な者かもわからず、わかろうともせず、与えられた裕福な暮らしを甘受するだけの者だった。
魔物の心に一瞬の隙ができる。
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「え、陛下、どのようにっ」
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その速度は、何がなんでも私利私欲の為に魔物を殺したい国王と、心優しき魔物の違いしかなかっただろう。
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光を帯びた土の魔法は、床を突き抜け土を魔物の身体に纏わりつかせた。
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彼の、最期の力だったのだろう。
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何も知らない国民は魔物を倒した国王を英雄と讃え、魔物が死んで魔獣もいなくなると喜んだ。
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