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19章 闘い
悪の始まり
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それから数日。次の生け贄について考えていると、宰相から報告があるという知らせが入った。
執務室に宰相を呼ぶと、興奮した様子で執務室に入ってきた。
「陛下! 飢饉をなんとかできそうです!」
「なんだと?」
「雨は降りませんが、大地が潤っております!!」
興奮した宰相の話をまとめると、どうやら不思議な力を手に入れたのが、自分だけでないことを知る。
国王が手にしたのは土を操る力だったが、臣下や民は他の力を得た者もいるようだ。
ある者は水を操り、またある者は風を操る。
そして、火を操ることができる者もいると。
水を操る者は、何もないところから水を生み出すことができ、風を操る者は作物の受粉を助けることができた。
そして、土を操る者は土を掘り起こし畑の土に栄養を行き渡らせることができ、もちろん火を操る者は生活を豊かにした。
ただ、あくまで小範囲でのことで、一人の力では田畑全域を潤すことはできず、一人の力でこの国の畑全ての土を掘り起こすことはできなかった。
しかし、そんなことは些末なこと。
働く民は大勢いる。
全員で力を合わせればいいだけのこと。
全てが上手くいっているかのように見えた。
ー魔獣が出始めるまでは。
数年は平和な日が続いたが、ある日、生け贄の儀式をした山の方から、世にも不思議な生き物が降りてきたと報告があった。
その生き物は全身が黒く、狂犬病にかかった犬のように涎を垂らし、爪には毒があるようで、その爪に引き裂かれた皮膚は黒く腐食し、治ることがないという。
また、魔獣を斬りつけても少しの傷では死なず、首を落とすか身体を真っ二つに切るしか殺す方法はないという。
訳の分からない魔獣の存在に頭を痛めていたところ、新たな報告が耳に入る。
水、土、風、火の魔法の他に、違う魔法を使える者がいるという。
国民のほとんど全ての者が力の大小はあるものの、どれかしらの魔法が使えるというのに、そのどれも使えない者がいるという報告は上がっていた。
その、どれも使えない無能な民が、実は最も希少価値の高い魔法が使える者だとわかった。
それは、光の魔法と呼ばれた。
光の魔法は癒しの魔法。
触れた者の傷を治す力であった。
ただ、魔獣につけられた魔獣火傷だけはかなりの人数で魔法をかけないと癒すことはできず、しかも完全に治すことは出来なかった。
それでも、魔獣に負傷させられた者の希望にはなった。
その報告を受けてからしばらくしてから、また光の魔法について新たな報告が上がった。
とある村で、光の術者を母に持つ子どもが魔獣に襲われた。
火の術者である父親が鍬で魔獣を殺そうとし、光の術者である母が同時に魔法を使った。
鍬は炎を纏い、魔獣を斬りつけた。
それまで、首を落とさねば殺すことの出来なかった魔獣が、腹を一部切り裂かれただけで死滅した。
光の魔法を纏った武器は、魔獣をそれまでより容易く殺すことができるというのだ。
数少ない光の術者を探すため、教会で最初の祝福を受ける時に魔力検査を行うように法改正をする。
そして、教会に光の術者の組織を作り、魔獣退治にあたるようにした。
これでなんとか体裁は整ったものの、まだまだ魔獣による被害は小さくなかった。
いろいろなテストをしたところ、魔獣は光の魔法を恐れているようで、強い光の魔法には近寄らないようだった。
そこで国王は光の術者を集めて、7つの水晶に光の魔法を込めさせた。
極限まで魔法を搾り取り、水晶に入れさせたところ、7人の光の術者が魔力切れで命を落とした。
あとからの報告で、一つの水晶に何人かで魔力を詰めても効果は変わらなかったが、まあ、平民の光の術者など使い捨てのようなものだからどうでもいいだろう。
教会に登録させた光の術者を集めて、生け贄の儀式をした小さな山を囲み、周りに光の魔法を込めた水晶を埋め、更に光の術者全員に魔法をかけさせた。
結界と呼ばれる物が張られ、これで魔獣に悩まさせることもないと思っていたある晩、赤い月夜に7つの星が流れたのだった。
執務室に宰相を呼ぶと、興奮した様子で執務室に入ってきた。
「陛下! 飢饉をなんとかできそうです!」
「なんだと?」
「雨は降りませんが、大地が潤っております!!」
興奮した宰相の話をまとめると、どうやら不思議な力を手に入れたのが、自分だけでないことを知る。
国王が手にしたのは土を操る力だったが、臣下や民は他の力を得た者もいるようだ。
ある者は水を操り、またある者は風を操る。
そして、火を操ることができる者もいると。
水を操る者は、何もないところから水を生み出すことができ、風を操る者は作物の受粉を助けることができた。
そして、土を操る者は土を掘り起こし畑の土に栄養を行き渡らせることができ、もちろん火を操る者は生活を豊かにした。
ただ、あくまで小範囲でのことで、一人の力では田畑全域を潤すことはできず、一人の力でこの国の畑全ての土を掘り起こすことはできなかった。
しかし、そんなことは些末なこと。
働く民は大勢いる。
全員で力を合わせればいいだけのこと。
全てが上手くいっているかのように見えた。
ー魔獣が出始めるまでは。
数年は平和な日が続いたが、ある日、生け贄の儀式をした山の方から、世にも不思議な生き物が降りてきたと報告があった。
その生き物は全身が黒く、狂犬病にかかった犬のように涎を垂らし、爪には毒があるようで、その爪に引き裂かれた皮膚は黒く腐食し、治ることがないという。
また、魔獣を斬りつけても少しの傷では死なず、首を落とすか身体を真っ二つに切るしか殺す方法はないという。
訳の分からない魔獣の存在に頭を痛めていたところ、新たな報告が耳に入る。
水、土、風、火の魔法の他に、違う魔法を使える者がいるという。
国民のほとんど全ての者が力の大小はあるものの、どれかしらの魔法が使えるというのに、そのどれも使えない者がいるという報告は上がっていた。
その、どれも使えない無能な民が、実は最も希少価値の高い魔法が使える者だとわかった。
それは、光の魔法と呼ばれた。
光の魔法は癒しの魔法。
触れた者の傷を治す力であった。
ただ、魔獣につけられた魔獣火傷だけはかなりの人数で魔法をかけないと癒すことはできず、しかも完全に治すことは出来なかった。
それでも、魔獣に負傷させられた者の希望にはなった。
その報告を受けてからしばらくしてから、また光の魔法について新たな報告が上がった。
とある村で、光の術者を母に持つ子どもが魔獣に襲われた。
火の術者である父親が鍬で魔獣を殺そうとし、光の術者である母が同時に魔法を使った。
鍬は炎を纏い、魔獣を斬りつけた。
それまで、首を落とさねば殺すことの出来なかった魔獣が、腹を一部切り裂かれただけで死滅した。
光の魔法を纏った武器は、魔獣をそれまでより容易く殺すことができるというのだ。
数少ない光の術者を探すため、教会で最初の祝福を受ける時に魔力検査を行うように法改正をする。
そして、教会に光の術者の組織を作り、魔獣退治にあたるようにした。
これでなんとか体裁は整ったものの、まだまだ魔獣による被害は小さくなかった。
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そこで国王は光の術者を集めて、7つの水晶に光の魔法を込めさせた。
極限まで魔法を搾り取り、水晶に入れさせたところ、7人の光の術者が魔力切れで命を落とした。
あとからの報告で、一つの水晶に何人かで魔力を詰めても効果は変わらなかったが、まあ、平民の光の術者など使い捨てのようなものだからどうでもいいだろう。
教会に登録させた光の術者を集めて、生け贄の儀式をした小さな山を囲み、周りに光の魔法を込めた水晶を埋め、更に光の術者全員に魔法をかけさせた。
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