もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
194 / 255
19章 闘い

7

しおりを挟む
外から見た岩の砦は、中に入ると洞窟のように薄暗く不気味だった。

そして、もっと魔獣がうじゃうじゃしているのを想像していたのに、中に魔獣は見当たらなかった。

見当たらないのは嬉しいけど、何もない空洞のようで、本当にここが魔物の住処なのか不安だわ。

カツーンカツーンと、ルーク様とお兄様が歩く鎧の足音が岩場の奥までこだまする。
それくらい、静まり返っていた。

そういえば、ここに近くなるにつれて増えていた魔獣は、岩の砦が見えて来ると数が減ってきたっけ。

わたしを守るように両側を剣を構えながら歩くルーク様とお兄様が、眉間に皺を寄せる。

「外に置いてこれないと思って連れてきたが、失敗だったかもしれねぇなぁ」
「そうですね。魔獣がいない理由もこれですかね」
「おそらくな」

慎重に歩きながら、わたしに分からない会話をしている。

「ねぇねぇ、ルーク様。魔獣がいない理由ってなんですか?」

わたしの言葉に、ふたりはピタッと足を止めた。

「義兄上、光の術者というものは、その性質上もしかしてわからないとか?」
「いや、ニーナは鈍感だからじゃないか?」

ふたりしてじっとわたしを見つめる。

「なっ、なんですか! お兄様! 鈍感ってどういう意味ですか!?」
「鈍いって意味の他にどんな意味があるんだよ。だっておまえ、何も感じないんだろう?」
「感じるって何をですか?」
「気だよ。この奥から重苦しい気が流れてきている。おそらく、雑魚魔獣はこの気のせいでここに近寄れないんだろう。だから、この岩の砦に近付くにつれて、魔獣も近寄れずに少なくなっていったんだ」

ルーク様も黙って頷いた。

気?

気って、空気?

わたしは洞窟の奥の方へ視線をやった。
ところどころ開いている岩の窓のおかげで、光が入るから真っ暗と言うわけでもないけど、奥に行くにつれて、段々と薄暗くはなっている。
不気味ではあるけれど、何も感じない。

不思議そうにしているわたしに、ルーク様は微笑む。
「ニーナ、無理に感じようとしなくていいよ。だけど、この奥にとてつもなく強い魔物がいると思っててくれたらそれだけでいい。必要以上に怖がる必要はない。魔物にはオレが立ち向かうから、ニーナは魔物と対峙することなく、身を隠していてくれ。義兄上はオレが魔物を斬るまで、ニーナを守っていて欲しい。お願いできますか?」

ルーク様が視線をわたしからお兄様へと移す。

「そりゃ、ばかだけど可愛い妹だからな。守るけど、ルーク様のことも守るぞ」
「いや、オレは……」
「もちろん、ルーク様が安心して戦えるようにニーナのことを一番に守るさ。だが、ルーク様が危険な時はオレも剣を出すから、そのつもりでいてくれ。ルーク様も、可愛い義弟だからな」
「義兄上……」

二人の交わす視線に、わたしの知らない月日の長さを感じた。
ジーナわたしがいなくなった後、きっと、お兄様はルーク様を支えて来たんだろう。
急にいなくなってしまった愚妹の代わりに、当主になるはずだった道を違えてまで討伐隊に入ってまで。

わたしがほんわかと二人を見ていると、急に二人が同時に剣に手をやった。

「義兄上」
「ああ、いよいよだな」

二人が同時に洞窟の奥へと視線を向ける。

魔物が、ルーク様に自分の存在を示した瞬間だった。







*****************



更新がいつもより時間がかかり、申し訳ありません。
急性胃腸炎にやられました…
ここ数日、固形物を口にできていません……。
今日から、食べていいと医師から言われているので、お昼ごはんが楽しみです^_^
みなさまも、めちゃくちゃ寒いですがお身体に気をつけて……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...