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19章 闘い
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かすかに何がが割れる音がして、しばらくすると魔獣の唸り声や鎧が擦り合う音がし始めた。
きっと、討伐が始まったんだ。
わたし達光の隊員は塔の入り口をしっかりと閉じ、祭壇の前に集まって祈りを捧げていた。
塔の入り口には隊士が二人、守りについていてくれるらしい。
上の階にある、ローゼリア様の控室には討伐エリア侵入許可のワッペンをつけた近衛が二人、護衛についていた。
こんな時でもローゼリア様はお祈りに出てこない。
まあ、わかっていたけれど。
わたしはわたしで一心不乱にお祈りをする。
どうか、どうかルーク様がご無事で討伐を終わらせますように。
しばらくすると、塔の入り口が大きな音を立てて開いた。
「怪我人だ!」
数人の負傷者が運び込まれ、広くあけておいたスペースに寝かされていく。
お祈りをしていた者が一斉に動き出し、治癒の魔法を掛ける者、薬を用いての消毒や包帯を巻く者に分かれて作業を始めた。
微かに役割分担がされているような感じではあるけど、こっそりわたしも混ざって介抱にあたる。
わたしがオロオロとそれを見ているうちに、ひとりまたひとりと怪我人が運ばれて来る。
「ちょっとあんた! 手が空いてるならこっちにきてくれ!」
負傷者を運び込んだ隊士に声をかけられ、わたしはそちらの方へと急いで足を運ぶ。
床に敷かれた簡易マットに怪我人を寝かせると、運んできた人は、また慌ただしく出て行った。
「だ、大丈夫ですか……?」
大丈夫なわけないのに、どうしてこう聞いてしまうんだろう……我ながら情けない。
怪我は足のようで、上半身を起こしてわたしに笑みを見せる。
「オレは足だけだから。もし、光の魔法で動けるくらい治るのなら、早く前線に復帰したいんだけど」
早く治療をしてくれと目線で言われて、わたしはゆっくりとグリーブ(足の鎧)をはずす。
鎧と鎧の接続部を狙われたらしく、魔獣の咬み傷と魔獣焼けの痕が見えた。
咬み傷はただ皮膚が切れただけだが、魔獣の体液をかぶることによって火傷を負う魔獣火傷は、何故か光の魔法が効かないのだ。
痛みは薄れるし瘡蓋にはなるが、そこから治すのにはちょっと光の魔法を使っただけじゃだめだ。
ジーナの時に、毎日倒れる寸前までルーク様の火傷に魔力を注ぎ込み、それでも治すことができたのはほんの数ミリ程度。
ひとまず、傷の手当をしようと震える手で清潔な布を取り出して血を拭き取り、噛み傷に光の魔法を流す。
これくらいの浅い傷なら、すぐに塞がるけど……。
「すみません。わたしにできるのはこれだけです。魔獣火傷は、一朝一夕には治らなくて……」
わたしが申し訳なさそうに言うと、隊士さんは微笑んでくれた。
「わかってる。隊長が幼少期に魔獣火傷にどれだけ苦しんだかは、風の噂で聞いているから。傷を塞いでくれて、火傷も瘡蓋になるまで治してくれたのなら助かる。また、隊長をお助けすることができる」
隊士さんは足が動くのを軽く確認した後、剣を持ってまた討伐へと向かって行った。
運び込まれてくる怪我人が増えるのに比例して、剣に受けた加護が切れて再度掛け直してもらいに来る人も増えてきた。
光の討伐隊は、自分の担当隊士が来るのが見えると、治療班からスッと抜け出し、魔法を掛けると2階の休憩室へと上がって行く。
加護の魔法を使った後は、きちんと休憩を取って魔力を溜めているみたい。
魔法を掛け直しに来る人が増えるに連れて、段々とわたしは不安になる。
ルーク様は、加護が切れてもここには来ない。
だって、わたしがここに居ることを知らないんだもの。
それなら、わたしは討伐現場に行かなければならないけど、どのタイミングで行ったらいいんだろう。
ひとまず、運び込まれた怪我人に戦況を聞いてみる。
「はい。これで動けますよ。ところで、隊長さんは怪我や加護切れは大丈夫なんでしょうか」
腕を怪我した隊士を治して、さりげなく言う。
「あ? 隊長? あの人は大丈夫だろう。怪我ひとつしていないし、王女様の加護も元々掛かってないから加護切れもないしな」
「そうですか」
怪我をしていないと言われて笑顔になるが、でも隊士さんの言う、加護が掛かっていないというのは間違っているので、安心はできない。
よく、様子を見て行動しなければ。
ルーク様が加護切れを起こす前に、わたしが死んでしまったらなんにもならない。
生きて、ルーク様のところに辿り着かなければ!
きっと、討伐が始まったんだ。
わたし達光の隊員は塔の入り口をしっかりと閉じ、祭壇の前に集まって祈りを捧げていた。
塔の入り口には隊士が二人、守りについていてくれるらしい。
上の階にある、ローゼリア様の控室には討伐エリア侵入許可のワッペンをつけた近衛が二人、護衛についていた。
こんな時でもローゼリア様はお祈りに出てこない。
まあ、わかっていたけれど。
わたしはわたしで一心不乱にお祈りをする。
どうか、どうかルーク様がご無事で討伐を終わらせますように。
しばらくすると、塔の入り口が大きな音を立てて開いた。
「怪我人だ!」
数人の負傷者が運び込まれ、広くあけておいたスペースに寝かされていく。
お祈りをしていた者が一斉に動き出し、治癒の魔法を掛ける者、薬を用いての消毒や包帯を巻く者に分かれて作業を始めた。
微かに役割分担がされているような感じではあるけど、こっそりわたしも混ざって介抱にあたる。
わたしがオロオロとそれを見ているうちに、ひとりまたひとりと怪我人が運ばれて来る。
「ちょっとあんた! 手が空いてるならこっちにきてくれ!」
負傷者を運び込んだ隊士に声をかけられ、わたしはそちらの方へと急いで足を運ぶ。
床に敷かれた簡易マットに怪我人を寝かせると、運んできた人は、また慌ただしく出て行った。
「だ、大丈夫ですか……?」
大丈夫なわけないのに、どうしてこう聞いてしまうんだろう……我ながら情けない。
怪我は足のようで、上半身を起こしてわたしに笑みを見せる。
「オレは足だけだから。もし、光の魔法で動けるくらい治るのなら、早く前線に復帰したいんだけど」
早く治療をしてくれと目線で言われて、わたしはゆっくりとグリーブ(足の鎧)をはずす。
鎧と鎧の接続部を狙われたらしく、魔獣の咬み傷と魔獣焼けの痕が見えた。
咬み傷はただ皮膚が切れただけだが、魔獣の体液をかぶることによって火傷を負う魔獣火傷は、何故か光の魔法が効かないのだ。
痛みは薄れるし瘡蓋にはなるが、そこから治すのにはちょっと光の魔法を使っただけじゃだめだ。
ジーナの時に、毎日倒れる寸前までルーク様の火傷に魔力を注ぎ込み、それでも治すことができたのはほんの数ミリ程度。
ひとまず、傷の手当をしようと震える手で清潔な布を取り出して血を拭き取り、噛み傷に光の魔法を流す。
これくらいの浅い傷なら、すぐに塞がるけど……。
「すみません。わたしにできるのはこれだけです。魔獣火傷は、一朝一夕には治らなくて……」
わたしが申し訳なさそうに言うと、隊士さんは微笑んでくれた。
「わかってる。隊長が幼少期に魔獣火傷にどれだけ苦しんだかは、風の噂で聞いているから。傷を塞いでくれて、火傷も瘡蓋になるまで治してくれたのなら助かる。また、隊長をお助けすることができる」
隊士さんは足が動くのを軽く確認した後、剣を持ってまた討伐へと向かって行った。
運び込まれてくる怪我人が増えるのに比例して、剣に受けた加護が切れて再度掛け直してもらいに来る人も増えてきた。
光の討伐隊は、自分の担当隊士が来るのが見えると、治療班からスッと抜け出し、魔法を掛けると2階の休憩室へと上がって行く。
加護の魔法を使った後は、きちんと休憩を取って魔力を溜めているみたい。
魔法を掛け直しに来る人が増えるに連れて、段々とわたしは不安になる。
ルーク様は、加護が切れてもここには来ない。
だって、わたしがここに居ることを知らないんだもの。
それなら、わたしは討伐現場に行かなければならないけど、どのタイミングで行ったらいいんだろう。
ひとまず、運び込まれた怪我人に戦況を聞いてみる。
「はい。これで動けますよ。ところで、隊長さんは怪我や加護切れは大丈夫なんでしょうか」
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「あ? 隊長? あの人は大丈夫だろう。怪我ひとつしていないし、王女様の加護も元々掛かってないから加護切れもないしな」
「そうですか」
怪我をしていないと言われて笑顔になるが、でも隊士さんの言う、加護が掛かっていないというのは間違っているので、安心はできない。
よく、様子を見て行動しなければ。
ルーク様が加護切れを起こす前に、わたしが死んでしまったらなんにもならない。
生きて、ルーク様のところに辿り着かなければ!
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