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19章 闘い
水晶が割れる時
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「ルーク様、思い切ったことしたなあ」
義兄上がニヤニヤと笑いながらオレの肩に手を置いた。
「当然でしょう。せっかくニーナがくれた祝福に上書きされてはたまらない」
「ま、この後のことは何とかなるだろう。この討伐はオレ達だけじゃなく、王族にとっても転機となるだろうからな。魔物を討伐して国民を守ってくれた英雄と、自分達のことしか考えていない王族。さて、怒り狂った王族を民はどう見るか」
「義兄上。ゴシップ記者のようなことを言っていないで、義兄上も位置についてください」
「まあまあ。隊員達が結界を壊すまでまだ時間があるだろう? オレはお役目に行ってくるよ」
義兄上はそう言うと塔の方へ足を向けた。
「お役目?」
「ローゼリア王女の護衛を任されていたろう? 出撃前に一度顔を出してくるよ」
「そんなもの、放っておけばいいんですよ」
オレがそう言っても、義兄上はオレに背中を向けたまま、手だけをオレに振った。
まったく。
あの人は掴めないな。
飄々としているクセに、恐ろしく頭が切れる。
だが、決してオレを裏切ったりはしない。
きっと、ローゼリアのところに行くのも、何か考えがあるのだろう。
あの人のことだ。討伐よりも、一つ先を見て行動しているに違いない。
それであれば、オレはオレの責務を全うすることだけを考えよう。
魔物は、オレが倒す!
魔物の森の結界は、それを囲むように光の術者が祈りを込めた水晶がいくつか地面に埋められている。
目印に大人が両手で囲めるくらいの大きさの祠が立っている。
それを壊して埋められている水晶を割れば、結界は解かれる。
鎧を身に纏った隊士達が数人ずつのグループになり、祠を取り囲む。
上を見上げると、もう少しで太陽は完全に昇るところだ。
夜が明ける。
「悪い! ルーク様、遅くなった」
塔に行ってからしばらくして、義兄上が走って俺の下に来る。
「いえ。まだ祠を壊したところです」
数メートルおきに建てられている祠の周りの隊士から、旗が上げられた。
「ほら、ちょうど今、水晶を見つけたようですよ」
見渡す限りの祠の隣に立つ隊士全員の旗が上がったのを見る。
「間に合ってよかった。そうだ、ルーク様。これを」
義兄上が差し出したのは、討伐が終わった時に上げる花火だ。
「議会からは一つしかもらっていないだろう? なんの手違いかは知らないが、慌ててもう一つ調達してきたんだ」
そう言う義兄上から花火を受け取り、腰につけている小さな鞄に入れる。
「議会も怠慢ですね。ちゃんと決まったことの手配ができていないとは」
そもそも、花火は敗戦の時にだけ上げると決まっていたものを、土壇場になって隊士達の声から2回上げることになったのだ。
一度だけしか花火が上がらなかった時は、敗戦。
続いて二度目の花火が上がれば魔物を倒し、勝利。
オレは直接聞いていないが、副官である義兄上から、知らせがなければ戦いが終わったことがわからないと隊士達が言っていると聞いたことから、花火は2回上げることに決まったはずだ。
そのまま、義兄上に頼んで花火は二つ用意してもらうようにしていたはずなのに。
オレは花火を落とさないよう、しっかりと鞄の口を閉じた。
「では、義兄上。行きましょう」
オレと義兄上は鞘から剣を抜いた。
オレはそのまま、剣を天に向ける。
太陽が剣に反射し眩しく光ると、旗を持っている隊士とは別に待機していた隊士が、一斉に水晶を壊した。
あちこちからガシャンと水晶の割れる音がする。
すると、途端に森から瘴気が立ち込めてきた。
ガルル……。
獣の唸り声が聞こえて来る。
オレが剣を構えると同時に、森から一体の魔獣が飛び出してきた。
「人々に仇なす獣よ。地獄へ還れ!」
オレが少しの魔力を込めて、ニーナの光の魔法を剣から解放すると、剣から聖なる炎が出てあっという間に魔獣を黒焦げにした。
緊張した面持ちでそれを見ていた隊士達は、魔獣に光の魔法が効くのを目の前で見て、気分が高揚したようだ。
何度も訓練はしたが、本物の魔獣を相手にするのは、今日が初めてだからだろう。
雄叫びをあげて、森の中へ突進して行った。
魔獣の方もそれなりの数がいるようで、結界の破れた森から出てこようと、大群で押し寄せてくる。
隊士達はそれを次々と切って前へと進んで行った。
勇ましい隊士達を見て、義兄上がオレの肩を叩く。
「訓練の成果が出ているようでよかったな。さて、ルーク様。オレ達も行こう。なるべくオレや隊士達が魔獣を切るから、ルーク様はニーナの魔法を温存してくれ。他の隊士と違って、ルーク様は光の魔法を補充できないんだからな」
「わかっています」
ゆっくり頷くと、義兄上は剣を構えた。
「ルーク様、行くぞっ!」
先を走り魔獣を切っていく義兄上と共に、オレも走り出した。
必ず、魔物を倒してニーナの元に帰るんだ。
こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。
義兄上がニヤニヤと笑いながらオレの肩に手を置いた。
「当然でしょう。せっかくニーナがくれた祝福に上書きされてはたまらない」
「ま、この後のことは何とかなるだろう。この討伐はオレ達だけじゃなく、王族にとっても転機となるだろうからな。魔物を討伐して国民を守ってくれた英雄と、自分達のことしか考えていない王族。さて、怒り狂った王族を民はどう見るか」
「義兄上。ゴシップ記者のようなことを言っていないで、義兄上も位置についてください」
「まあまあ。隊員達が結界を壊すまでまだ時間があるだろう? オレはお役目に行ってくるよ」
義兄上はそう言うと塔の方へ足を向けた。
「お役目?」
「ローゼリア王女の護衛を任されていたろう? 出撃前に一度顔を出してくるよ」
「そんなもの、放っておけばいいんですよ」
オレがそう言っても、義兄上はオレに背中を向けたまま、手だけをオレに振った。
まったく。
あの人は掴めないな。
飄々としているクセに、恐ろしく頭が切れる。
だが、決してオレを裏切ったりはしない。
きっと、ローゼリアのところに行くのも、何か考えがあるのだろう。
あの人のことだ。討伐よりも、一つ先を見て行動しているに違いない。
それであれば、オレはオレの責務を全うすることだけを考えよう。
魔物は、オレが倒す!
魔物の森の結界は、それを囲むように光の術者が祈りを込めた水晶がいくつか地面に埋められている。
目印に大人が両手で囲めるくらいの大きさの祠が立っている。
それを壊して埋められている水晶を割れば、結界は解かれる。
鎧を身に纏った隊士達が数人ずつのグループになり、祠を取り囲む。
上を見上げると、もう少しで太陽は完全に昇るところだ。
夜が明ける。
「悪い! ルーク様、遅くなった」
塔に行ってからしばらくして、義兄上が走って俺の下に来る。
「いえ。まだ祠を壊したところです」
数メートルおきに建てられている祠の周りの隊士から、旗が上げられた。
「ほら、ちょうど今、水晶を見つけたようですよ」
見渡す限りの祠の隣に立つ隊士全員の旗が上がったのを見る。
「間に合ってよかった。そうだ、ルーク様。これを」
義兄上が差し出したのは、討伐が終わった時に上げる花火だ。
「議会からは一つしかもらっていないだろう? なんの手違いかは知らないが、慌ててもう一つ調達してきたんだ」
そう言う義兄上から花火を受け取り、腰につけている小さな鞄に入れる。
「議会も怠慢ですね。ちゃんと決まったことの手配ができていないとは」
そもそも、花火は敗戦の時にだけ上げると決まっていたものを、土壇場になって隊士達の声から2回上げることになったのだ。
一度だけしか花火が上がらなかった時は、敗戦。
続いて二度目の花火が上がれば魔物を倒し、勝利。
オレは直接聞いていないが、副官である義兄上から、知らせがなければ戦いが終わったことがわからないと隊士達が言っていると聞いたことから、花火は2回上げることに決まったはずだ。
そのまま、義兄上に頼んで花火は二つ用意してもらうようにしていたはずなのに。
オレは花火を落とさないよう、しっかりと鞄の口を閉じた。
「では、義兄上。行きましょう」
オレと義兄上は鞘から剣を抜いた。
オレはそのまま、剣を天に向ける。
太陽が剣に反射し眩しく光ると、旗を持っている隊士とは別に待機していた隊士が、一斉に水晶を壊した。
あちこちからガシャンと水晶の割れる音がする。
すると、途端に森から瘴気が立ち込めてきた。
ガルル……。
獣の唸り声が聞こえて来る。
オレが剣を構えると同時に、森から一体の魔獣が飛び出してきた。
「人々に仇なす獣よ。地獄へ還れ!」
オレが少しの魔力を込めて、ニーナの光の魔法を剣から解放すると、剣から聖なる炎が出てあっという間に魔獣を黒焦げにした。
緊張した面持ちでそれを見ていた隊士達は、魔獣に光の魔法が効くのを目の前で見て、気分が高揚したようだ。
何度も訓練はしたが、本物の魔獣を相手にするのは、今日が初めてだからだろう。
雄叫びをあげて、森の中へ突進して行った。
魔獣の方もそれなりの数がいるようで、結界の破れた森から出てこようと、大群で押し寄せてくる。
隊士達はそれを次々と切って前へと進んで行った。
勇ましい隊士達を見て、義兄上がオレの肩を叩く。
「訓練の成果が出ているようでよかったな。さて、ルーク様。オレ達も行こう。なるべくオレや隊士達が魔獣を切るから、ルーク様はニーナの魔法を温存してくれ。他の隊士と違って、ルーク様は光の魔法を補充できないんだからな」
「わかっています」
ゆっくり頷くと、義兄上は剣を構えた。
「ルーク様、行くぞっ!」
先を走り魔獣を切っていく義兄上と共に、オレも走り出した。
必ず、魔物を倒してニーナの元に帰るんだ。
こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。
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