176 / 255
18章 討伐
結婚式
しおりを挟む
ニーナとの楽しい昼食の後、義兄上と馬車に揺られて王城へと向かう。
今日は予定になかったのに、王家からいきなりの呼び出しをくらった。
これから一週間は訓練に専念したいと思っていたのに。
ローゼリアは訓練に出てこないが、オレには関係ないし、いてもいなくてもいいのだが、訓練をサボってオレを呼びつけるのは気に入らない。
馬車の中でブスッとしているオレに、義兄上が声を掛ける。
「これからが正念場だな」
「……そうですね」
そのやりとりの後には静寂が訪れる。
赤い月が出て、七つの星が流れたと言われる夜から、オレは魔物を倒すためだけに存在していた。
魔物の僕である魔獣から命を狙われ、顔と腕に火傷を負い、そしてジーナに出会った。
ひとときの安らぎの時間を経て、また魔物討伐の現実と闘う日々が続いた。
周りからは魔物を討伐することが使命だと言われて育ったが、魔物を討伐した後は、オレには何が残るんだろう。
そうこうしているうちに、馬車は王城の停車場に着いた。
王家の侍従に先導され、着いたそこは応接室だった。
「おい、ルーク様。これって、討伐の打ち合わせじゃないのか?」
応接室のソファに、所在無い様子で座っている義兄上が上目遣いにオレを見た。
あ、知らなかった。
義兄上のこの角度はジーナに似ているんだな。
「いや、オレもなんで呼ばれたかわからないので……。でも、今呼ばれる理由なんて、討伐以外考えられないのですが……」
嫌な予感を抑えて、オレは義兄上に言った。
すると、ドアの開く音と共に、王太子が部屋に入って来た。
「やあ、ルーク。待たせたかな。……おや、今日は呼んでいない副隊長まで一緒か」
オレたちは立ち上がり、略礼をした。
副隊長まで一緒とは、どういうことだ?
向かいのソファに座った王太子に促され、オレたちも再度腰を下ろす。
「今日は、討伐後の話をするために呼んだのだ。副隊長は必要ないから、帰っていいぞ」
王太子の言葉に、オレは反論する。
「いえ、討伐後のことでしたら、副隊長も必要かと」
当たり前だろ。
討伐後は周りの見回りをし、魔獣で逃げたものがいないか確認し、被害が出ていれば救済処置をし、全部終わっても討伐隊のその後の生活面のサポートもしなければならないのだ。
義兄上なくして打ち合わせができるものか。
半分呆れるような気持ちを出さぬよう、王太子に言うと王太子はせせら笑う。
「そんなことは副隊長や騎士団の方に任せておけばいい。それよりも、討伐後に開かれる婚姻報告なのだが……」
「……は?」
オレはこれ以上ないくらい目を見開いた。
この王太子、今なんて言った?
「あの、今婚姻報告と聞こえましたが」
「婚姻報告と言ったが、なんだ?」
「誰の婚姻報告で……?」
「ローゼリアと貴様の婚姻に決まっておるだろうが」
呆れて開いた口が塞がらない。
いや、慣用句としてそんな言葉があることは知っているが、本当に塞がらないものなのだと実感する。
隣を見なくてもわかる。
義兄上は絶対に呆れているが、表情を崩さずにいることに全神経を注いでいるに違いない。
オレが二の句を告げられずにいると、王太子は側に控える侍従に目線をやり、何か資料を持って来させる。
それをテーブルの上に置くと、オレをバカにしたように、その資料を指差した。
「討伐が終わり次第、宴の招待状を送る。招待状発送から約一月後に式を行い、二月後には他国の者を招いて婚姻報告の宴を行う予定だ。ここが招待状発送の優先国だが、デイヴィス家で他国に送る先があれば、ここと同時に発送するがどこか送るところはあるか?」
王太子が指差した先を見ると、ローゼリアを王妃にと望んだペルジャ国が目に入った。
ボンクラ王子が居る国だ。
オレは王太子の思惑が、手に取る様にわかった。
討伐が成功し、いつまでもオレとの婚姻がなされない状況になると、ペルジャ国からローゼリアを差し出す様に言われてしまうから、間髪を入れずに婚姻させたいのだな。
数年前、デイヴィス家にオレとの婚姻の打診が来た時に、婚約後の予定の話があったが、それによると討伐前には籍を入れているはずだった。
確かに、何度も王家から早いうちに籍を入れるように言われていたが、討伐を理由に断り続けてきたのだ。
「そうだ、ルーク。どうせ討伐後は結婚をするのだ。婚姻誓約書に、ここでサインを入れて行け」
今日は予定になかったのに、王家からいきなりの呼び出しをくらった。
これから一週間は訓練に専念したいと思っていたのに。
ローゼリアは訓練に出てこないが、オレには関係ないし、いてもいなくてもいいのだが、訓練をサボってオレを呼びつけるのは気に入らない。
馬車の中でブスッとしているオレに、義兄上が声を掛ける。
「これからが正念場だな」
「……そうですね」
そのやりとりの後には静寂が訪れる。
赤い月が出て、七つの星が流れたと言われる夜から、オレは魔物を倒すためだけに存在していた。
魔物の僕である魔獣から命を狙われ、顔と腕に火傷を負い、そしてジーナに出会った。
ひとときの安らぎの時間を経て、また魔物討伐の現実と闘う日々が続いた。
周りからは魔物を討伐することが使命だと言われて育ったが、魔物を討伐した後は、オレには何が残るんだろう。
そうこうしているうちに、馬車は王城の停車場に着いた。
王家の侍従に先導され、着いたそこは応接室だった。
「おい、ルーク様。これって、討伐の打ち合わせじゃないのか?」
応接室のソファに、所在無い様子で座っている義兄上が上目遣いにオレを見た。
あ、知らなかった。
義兄上のこの角度はジーナに似ているんだな。
「いや、オレもなんで呼ばれたかわからないので……。でも、今呼ばれる理由なんて、討伐以外考えられないのですが……」
嫌な予感を抑えて、オレは義兄上に言った。
すると、ドアの開く音と共に、王太子が部屋に入って来た。
「やあ、ルーク。待たせたかな。……おや、今日は呼んでいない副隊長まで一緒か」
オレたちは立ち上がり、略礼をした。
副隊長まで一緒とは、どういうことだ?
向かいのソファに座った王太子に促され、オレたちも再度腰を下ろす。
「今日は、討伐後の話をするために呼んだのだ。副隊長は必要ないから、帰っていいぞ」
王太子の言葉に、オレは反論する。
「いえ、討伐後のことでしたら、副隊長も必要かと」
当たり前だろ。
討伐後は周りの見回りをし、魔獣で逃げたものがいないか確認し、被害が出ていれば救済処置をし、全部終わっても討伐隊のその後の生活面のサポートもしなければならないのだ。
義兄上なくして打ち合わせができるものか。
半分呆れるような気持ちを出さぬよう、王太子に言うと王太子はせせら笑う。
「そんなことは副隊長や騎士団の方に任せておけばいい。それよりも、討伐後に開かれる婚姻報告なのだが……」
「……は?」
オレはこれ以上ないくらい目を見開いた。
この王太子、今なんて言った?
「あの、今婚姻報告と聞こえましたが」
「婚姻報告と言ったが、なんだ?」
「誰の婚姻報告で……?」
「ローゼリアと貴様の婚姻に決まっておるだろうが」
呆れて開いた口が塞がらない。
いや、慣用句としてそんな言葉があることは知っているが、本当に塞がらないものなのだと実感する。
隣を見なくてもわかる。
義兄上は絶対に呆れているが、表情を崩さずにいることに全神経を注いでいるに違いない。
オレが二の句を告げられずにいると、王太子は側に控える侍従に目線をやり、何か資料を持って来させる。
それをテーブルの上に置くと、オレをバカにしたように、その資料を指差した。
「討伐が終わり次第、宴の招待状を送る。招待状発送から約一月後に式を行い、二月後には他国の者を招いて婚姻報告の宴を行う予定だ。ここが招待状発送の優先国だが、デイヴィス家で他国に送る先があれば、ここと同時に発送するがどこか送るところはあるか?」
王太子が指差した先を見ると、ローゼリアを王妃にと望んだペルジャ国が目に入った。
ボンクラ王子が居る国だ。
オレは王太子の思惑が、手に取る様にわかった。
討伐が成功し、いつまでもオレとの婚姻がなされない状況になると、ペルジャ国からローゼリアを差し出す様に言われてしまうから、間髪を入れずに婚姻させたいのだな。
数年前、デイヴィス家にオレとの婚姻の打診が来た時に、婚約後の予定の話があったが、それによると討伐前には籍を入れているはずだった。
確かに、何度も王家から早いうちに籍を入れるように言われていたが、討伐を理由に断り続けてきたのだ。
「そうだ、ルーク。どうせ討伐後は結婚をするのだ。婚姻誓約書に、ここでサインを入れて行け」
2
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜
白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人の心は結ばれるのか?
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。


王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる