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18章 討伐
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討伐まであと一週間。
最近の訓練は追い込みをかけていて、わたしもルーク様もギリギリまで魔力と体力を消耗するため、デイヴィス家の別棟に帰る頃には泥のように眠っていることがある。
ルーク様はさすがというか、馬車の中で居眠りすることはないのだけれど、わたしは帰りの馬車の中でも寝込んでしまうことが多い。
ルーク様はそんなわたしを抱き抱えて、自室のベッドまで連れて行き、そのまま一緒に寝てしまうのだ。
最初の頃はフランクさんとサリーさんに怒られていたけど、もうそんな男女で同衾してもなんの間違いも起こしようがないくらい疲れているのを見て、何も言われなくなった。
当然、夕飯も食べずに寝ることも多いので、その分朝に重い食事が出てくる。
今朝は朝からステーキが出てきた。
わたしは平気でモリモリ食べるけど、ルーク様は胸焼けがすると言って、なかなか口にお肉を運べない。
「オレの若さがニーナに追いつかない……!!」
ルーク様がナイフとフォークを握って、悔しそうにわたしを見る。
今は、ルーク様のお部屋で、ふたりで朝食を食べているところだ。
「ルーク様、無理して食べなくても大丈夫ですよ? 元々食が細いんですし……」
「だが、ニーナより食べられないというのは、男としての威厳が」
「別にステーキ食べられなくたって、ルーク様は立派に男の人ですよ。食が細いルーク様もわたしは大好きですし」
「だっ……っっ!」
わたしが素直に思ったことを言うと、何故かルーク様は真っ赤になって、冷たいお水を一気飲みしていた。
ルーク様も十代の頃は、わたしが見ているだけで胸焼けがするほど食べていた人だ。
きっと、わたしがいなくなってから、食が細くなったのだろう。
討伐が終わったら、ゆっくり食べる楽しみとか、量とか栄養バランスとか、ルーク様と一緒に考えていきたい。
わたしはすっかりテーブルの上のものを食べ終わり、デザートのヨーグルトをのんびり食べる。
「でも、なんで今日はこんなにゆっくりなんですか?」
いつもならとっくに家を出ている時間なのに、ルーク様がまだゆっくりしていらっしゃるので、わたしもゆっくりと朝食が食べられた。
ルーク様はもうお腹いっぱいらしくて、ナイフとフォークをまとめてお皿の右端へと置く。
「なんだ、少し前から義兄上が言っていたのを聞いていなかったのか? 討伐当日に疲れ果てていてはいけないから、今日から当日までは、軽く訓練する程度だ。時間も朝ゆっくりで夕方早めに解散する」
あ、そうだったんですね。
わたしは帰りは朦朧として眠っちゃうし、ルーク様について行けば大丈夫と思っていたので、あまり気にしていませんでした。
「だったら休みにしちゃえばいいのに」
「何日も休んで体が動かなくなったら困るだろ。ほどほどには訓練をしておいた方がいいんだ」
ふーん。
そんなもんなのか。
わたしは食べ終わった食器を片付けて、支度をしに一旦自室に戻ることにした。
「ニーナ、出発は1時間後だ」
「かしこまりました」
わたしは急いで食器を厨房に戻して、自室に帰ってからシャワーを浴びて支度もして玄関ホールに急いだ。
いつもよりゆっくりめに演習場に行くと、ちらほらと隊士達も集まってきて、そこからはいつも通りの基礎訓練が行われる。
わたしにはランニング等の基礎訓練は関係ないから、観覧席に座ってその様子を見ていた。
ある程度の基礎訓練が終わる頃に、光の討伐隊も演習場にやってくる。
当然というか、なんで? というか、もちろんその中にローゼリア様の姿はなかった。
本当に、ローゼリア様はルーク様の婚約者として、ルーク様をお守りする気があるんだろうか。
そう考えて、ちくりと胸が痛いことに気がついた。
今まで、見ないふりをしていたけれど、ルーク様とローゼリア様は婚約していらっしゃるんだ。
わたしがどんなにルーク様を好きでも、前世と違ってルーク様と結婚できるわけではない。
討伐が終わって、ルーク様とローゼリア様がご結婚なさったら、わたしはどうしたらいいんだろう。
ぼんやり考え事をしながらルーク様の訓練の様子を見ていると、あっと言う間にお昼になった。
暗い考えは置いておいて、わたしはいつも通り、ランチボックスを持って、ルーク様の控室へと急いで行った。
いつも、午前中の体術の訓練の時は観覧席でそれを見ていて、わたしが訓練に参加するのは午後からなのだ。
控室の鍵は渡してもらっているので、勝手に部屋に入り、3人分のお茶を入れてルーク様とお兄様がやってくるのを待つ。
ポットに入れたお茶が飲み頃になった頃、ルーク様とお兄様が部屋に入ってきた。
ルーク様は眉間に皺を寄せて、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「ルーク様、どうなさったんですか?」
不機嫌そうなルーク様に、わたしは思わず声をあげてしまった。
すると、ルーク様の後に続いて部屋に入ってきたお兄様が、ポリポリと頭をかきながらソファへと座った。
「あー……。実はな、これからオレとルーク様は王城に行かなければならなくなったんだ」
「打ち合わせですか?」
「まあ、多分な。予定にないことだったし、今日は演習場にローゼリアも来ないでサボってしまったから、ルーク様は機嫌が悪い」
お兄様の言葉に、ルーク様はギロリと視線を鋭くする。
ルーク様の不機嫌になる気持ちもわかる。
光の討伐隊の隊長なのに、ラスト一週間の訓練もサボるなんて。
おまけに、急な呼び出しで訓練の邪魔をされて。
「まぁ、まぁ。美味しいお昼でも食べましょう。王城へはお昼食べてからでいいんでしょ?せっかく飲み頃に入れたお茶が冷めちゃいますよ~」
わたしが笑顔でそう言うと、しかめっ面だったルーク様のお顔も、少しだけ和らいだ。
最近の訓練は追い込みをかけていて、わたしもルーク様もギリギリまで魔力と体力を消耗するため、デイヴィス家の別棟に帰る頃には泥のように眠っていることがある。
ルーク様はさすがというか、馬車の中で居眠りすることはないのだけれど、わたしは帰りの馬車の中でも寝込んでしまうことが多い。
ルーク様はそんなわたしを抱き抱えて、自室のベッドまで連れて行き、そのまま一緒に寝てしまうのだ。
最初の頃はフランクさんとサリーさんに怒られていたけど、もうそんな男女で同衾してもなんの間違いも起こしようがないくらい疲れているのを見て、何も言われなくなった。
当然、夕飯も食べずに寝ることも多いので、その分朝に重い食事が出てくる。
今朝は朝からステーキが出てきた。
わたしは平気でモリモリ食べるけど、ルーク様は胸焼けがすると言って、なかなか口にお肉を運べない。
「オレの若さがニーナに追いつかない……!!」
ルーク様がナイフとフォークを握って、悔しそうにわたしを見る。
今は、ルーク様のお部屋で、ふたりで朝食を食べているところだ。
「ルーク様、無理して食べなくても大丈夫ですよ? 元々食が細いんですし……」
「だが、ニーナより食べられないというのは、男としての威厳が」
「別にステーキ食べられなくたって、ルーク様は立派に男の人ですよ。食が細いルーク様もわたしは大好きですし」
「だっ……っっ!」
わたしが素直に思ったことを言うと、何故かルーク様は真っ赤になって、冷たいお水を一気飲みしていた。
ルーク様も十代の頃は、わたしが見ているだけで胸焼けがするほど食べていた人だ。
きっと、わたしがいなくなってから、食が細くなったのだろう。
討伐が終わったら、ゆっくり食べる楽しみとか、量とか栄養バランスとか、ルーク様と一緒に考えていきたい。
わたしはすっかりテーブルの上のものを食べ終わり、デザートのヨーグルトをのんびり食べる。
「でも、なんで今日はこんなにゆっくりなんですか?」
いつもならとっくに家を出ている時間なのに、ルーク様がまだゆっくりしていらっしゃるので、わたしもゆっくりと朝食が食べられた。
ルーク様はもうお腹いっぱいらしくて、ナイフとフォークをまとめてお皿の右端へと置く。
「なんだ、少し前から義兄上が言っていたのを聞いていなかったのか? 討伐当日に疲れ果てていてはいけないから、今日から当日までは、軽く訓練する程度だ。時間も朝ゆっくりで夕方早めに解散する」
あ、そうだったんですね。
わたしは帰りは朦朧として眠っちゃうし、ルーク様について行けば大丈夫と思っていたので、あまり気にしていませんでした。
「だったら休みにしちゃえばいいのに」
「何日も休んで体が動かなくなったら困るだろ。ほどほどには訓練をしておいた方がいいんだ」
ふーん。
そんなもんなのか。
わたしは食べ終わった食器を片付けて、支度をしに一旦自室に戻ることにした。
「ニーナ、出発は1時間後だ」
「かしこまりました」
わたしは急いで食器を厨房に戻して、自室に帰ってからシャワーを浴びて支度もして玄関ホールに急いだ。
いつもよりゆっくりめに演習場に行くと、ちらほらと隊士達も集まってきて、そこからはいつも通りの基礎訓練が行われる。
わたしにはランニング等の基礎訓練は関係ないから、観覧席に座ってその様子を見ていた。
ある程度の基礎訓練が終わる頃に、光の討伐隊も演習場にやってくる。
当然というか、なんで? というか、もちろんその中にローゼリア様の姿はなかった。
本当に、ローゼリア様はルーク様の婚約者として、ルーク様をお守りする気があるんだろうか。
そう考えて、ちくりと胸が痛いことに気がついた。
今まで、見ないふりをしていたけれど、ルーク様とローゼリア様は婚約していらっしゃるんだ。
わたしがどんなにルーク様を好きでも、前世と違ってルーク様と結婚できるわけではない。
討伐が終わって、ルーク様とローゼリア様がご結婚なさったら、わたしはどうしたらいいんだろう。
ぼんやり考え事をしながらルーク様の訓練の様子を見ていると、あっと言う間にお昼になった。
暗い考えは置いておいて、わたしはいつも通り、ランチボックスを持って、ルーク様の控室へと急いで行った。
いつも、午前中の体術の訓練の時は観覧席でそれを見ていて、わたしが訓練に参加するのは午後からなのだ。
控室の鍵は渡してもらっているので、勝手に部屋に入り、3人分のお茶を入れてルーク様とお兄様がやってくるのを待つ。
ポットに入れたお茶が飲み頃になった頃、ルーク様とお兄様が部屋に入ってきた。
ルーク様は眉間に皺を寄せて、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「ルーク様、どうなさったんですか?」
不機嫌そうなルーク様に、わたしは思わず声をあげてしまった。
すると、ルーク様の後に続いて部屋に入ってきたお兄様が、ポリポリと頭をかきながらソファへと座った。
「あー……。実はな、これからオレとルーク様は王城に行かなければならなくなったんだ」
「打ち合わせですか?」
「まあ、多分な。予定にないことだったし、今日は演習場にローゼリアも来ないでサボってしまったから、ルーク様は機嫌が悪い」
お兄様の言葉に、ルーク様はギロリと視線を鋭くする。
ルーク様の不機嫌になる気持ちもわかる。
光の討伐隊の隊長なのに、ラスト一週間の訓練もサボるなんて。
おまけに、急な呼び出しで訓練の邪魔をされて。
「まぁ、まぁ。美味しいお昼でも食べましょう。王城へはお昼食べてからでいいんでしょ?せっかく飲み頃に入れたお茶が冷めちゃいますよ~」
わたしが笑顔でそう言うと、しかめっ面だったルーク様のお顔も、少しだけ和らいだ。
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