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17章 隊服
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シスターアベールはわたしに近付くと、テーブルに置いた籐の籠からまち針を取り出すと、素早くわたしの体に合わせて服を詰めていき、まち針で留める。
「この隊服はね、男女問わず同じものを着るのよ。男性はこの隊服だけだけど、女性はこの上に白いベールを着けるわ」
てきぱきと針を操りながら教えてくれる。
そうか。
ベールをかぶるのか。
それなら顔を隠しやすいかな。
次々とまち針で仮留めされていく隊服。
胸のところに折り返しがあり、腰がキュッとしまってそこから先はスカート状になる。
丈はくるぶしまでが規定の長さだそうだ。
「はい、終わり。そうね、一着だから明日には出来上がるわ」
シスターアベールは針に注意しながら隊服を脱がせていく。
えっ、明日?
明日は訓練があるから取りに来られないわ。
訓練の後はルーク様とお屋敷に帰って、ルーク様の身の回りのことをやらなくてはならないし、全部終わって自由な時間が得られるのは深夜になる。
わたしが何も言えずに困っていると、お父様がシスターアベールに声をかけた。
「シスター、ありがとうございました。討伐も近いので助かりました。では、よろしくお願いします」
お父様に倣って、わたしも慌てて頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
そう言って顔を上げると、シスターアベールは少し笑った。
「なぁに、気にしなくてもいいわよ。これがわたしの仕事なんだから。それより、わたしには光の才能がなくて討伐には参加できないけど、あんたはがんばってね。祈るくらいはできるから、当日は誠心誠意祈っとくわ」
シスターアベールは軽く隊服をたたんで、籐の籠と一緒にそれを持って部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まって、部屋にお父様と2人きりになると、わたしはお父様に泣きついた。
「お父様! 明日では困るんです。自由な時間って今日しかなくって……。もし、明日になるなら深夜になるけど取りに来てもいいですか!?」
お父様はわたしの勢いに、少し後ずさったけど、くすりと笑ってわたしの腕を掴み、わたしをソファに座らせた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。明日、直しが済んだらわたしが受け取ってデイヴィス家に届けよう」
「お父様がデイヴィス家に来たら、ルーク様に気付かれちゃいます……」
だって、お父様は元婚約者の父!
もし、お屋敷に来たら、ルーク様の耳に入らない訳がない。
「大丈夫。それはわたしの方でなんとかしよう」
「ほんとに?」
「ああ。本当だよ。わたしがジーナとの約束を守らなかったことがあるかい?」
「……ないわ」
「では、安心してわたしに任せて、きみはお屋敷に帰りなさい」
「……はい」
お父様の笑顔が、あんまりにも変わりなく、いえ、変わったのは変わったんだけど。シワとか白髪とか。でも、以前と同じ、優しくて安心できる笑顔を見たら、もうお父様に全てを任せようと思った。
「お父様……」
わたしはお父様の胸に顔を埋めて、甘えるようにきゅっと抱きついた。
「おいおい。ジーナは生まれ変わっても甘えん坊だな。昔を思い出すよ。小さなきみが、わたしの腕に抱かれて、安心したように眠りについたあの日を」
お父様も、わたしに回した腕に少しだけ力を入れる。
ぽとんと、お父様の瞳から落ちた雫がわたしの肩を濡らしたけれど、わたしはそのままお父様の胸に頬を擦り寄せた。
「この隊服はね、男女問わず同じものを着るのよ。男性はこの隊服だけだけど、女性はこの上に白いベールを着けるわ」
てきぱきと針を操りながら教えてくれる。
そうか。
ベールをかぶるのか。
それなら顔を隠しやすいかな。
次々とまち針で仮留めされていく隊服。
胸のところに折り返しがあり、腰がキュッとしまってそこから先はスカート状になる。
丈はくるぶしまでが規定の長さだそうだ。
「はい、終わり。そうね、一着だから明日には出来上がるわ」
シスターアベールは針に注意しながら隊服を脱がせていく。
えっ、明日?
明日は訓練があるから取りに来られないわ。
訓練の後はルーク様とお屋敷に帰って、ルーク様の身の回りのことをやらなくてはならないし、全部終わって自由な時間が得られるのは深夜になる。
わたしが何も言えずに困っていると、お父様がシスターアベールに声をかけた。
「シスター、ありがとうございました。討伐も近いので助かりました。では、よろしくお願いします」
お父様に倣って、わたしも慌てて頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
そう言って顔を上げると、シスターアベールは少し笑った。
「なぁに、気にしなくてもいいわよ。これがわたしの仕事なんだから。それより、わたしには光の才能がなくて討伐には参加できないけど、あんたはがんばってね。祈るくらいはできるから、当日は誠心誠意祈っとくわ」
シスターアベールは軽く隊服をたたんで、籐の籠と一緒にそれを持って部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まって、部屋にお父様と2人きりになると、わたしはお父様に泣きついた。
「お父様! 明日では困るんです。自由な時間って今日しかなくって……。もし、明日になるなら深夜になるけど取りに来てもいいですか!?」
お父様はわたしの勢いに、少し後ずさったけど、くすりと笑ってわたしの腕を掴み、わたしをソファに座らせた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。明日、直しが済んだらわたしが受け取ってデイヴィス家に届けよう」
「お父様がデイヴィス家に来たら、ルーク様に気付かれちゃいます……」
だって、お父様は元婚約者の父!
もし、お屋敷に来たら、ルーク様の耳に入らない訳がない。
「大丈夫。それはわたしの方でなんとかしよう」
「ほんとに?」
「ああ。本当だよ。わたしがジーナとの約束を守らなかったことがあるかい?」
「……ないわ」
「では、安心してわたしに任せて、きみはお屋敷に帰りなさい」
「……はい」
お父様の笑顔が、あんまりにも変わりなく、いえ、変わったのは変わったんだけど。シワとか白髪とか。でも、以前と同じ、優しくて安心できる笑顔を見たら、もうお父様に全てを任せようと思った。
「お父様……」
わたしはお父様の胸に顔を埋めて、甘えるようにきゅっと抱きついた。
「おいおい。ジーナは生まれ変わっても甘えん坊だな。昔を思い出すよ。小さなきみが、わたしの腕に抱かれて、安心したように眠りについたあの日を」
お父様も、わたしに回した腕に少しだけ力を入れる。
ぽとんと、お父様の瞳から落ちた雫がわたしの肩を濡らしたけれど、わたしはそのままお父様の胸に頬を擦り寄せた。
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